第13話 3−8
「これで最後だっ!」
ベンジさんの勇ましいかけ声とともに大きな刃の剣が悪魔に向かって振り下ろされ、その体を安々と袈裟斬りにしました。
寸断された悪魔の体はしばらく悶えていましたが、やがて動かなくなりました。
そして、黒い球体に包まれて消えます。
球体が全て消えた後、静寂が訪れました。
この邪神の神殿で倒された悪魔や魔物達は皆同じように黒い球体に包まれ、その死体は何処かへ消えていました。
ベンジさん達は先程、三番目の大広間で悪魔達と出会って以来、通路を通って大広間にたどり着く度に、敵の襲撃を受けていました。
その都度、敵を撃退し、こちらの損害はありません。
今も大広間にやってきていきなり悪魔達の襲撃を受け、ベンジさん達はその超優秀な戦闘能力で敵を撃退したのでした。
ベンジさんは自分が操っている体にもすっかり慣れ、ほぼ一体化していました。
彼は自分の体が自由に動く事に、喜びすら感じていました。
それはそうでしょう。
大魔王ネズーのかけらを体に埋め込まれて以来、その呪いで自由に外に出られなかったのですから。
しかしそれでいいのでしょうか? このままだと、脳が作り変えられてしまいますよ?
さて。
戦いの喧騒が収まった後の静寂の中、一緒に戦っていたクルスは辺りを見回し、
「これでこの間の敵もいなくなったと。……次が邪神の間だな」
そう、独り言のように告げました。
ここまでようやく来た、という風にも声色は思えますが。
別の含みもあるように思えました。
一体何なんでしょうね?
ベンジさんはそんなクルスさんの顔をちらっと見て、
「あ、うん。そうだね」
とだけ応え、小さく頷きました。
それから、地図の表示窓を開き、
「ど、どうする? このまま行こうか? それとも姿を隠すとかする?」
相変わらずどもった口調でクルスさんに方針を尋ねました。
クルスさんは少し考えるような表情を見せ、自分の意見を述べます。
「そうだな……。偵察がてら、姿を消す魔法とかを使うか。かけるのは通路に入ってからでいいだろう。それより」
「な、なんだい?」
「……お前、今の人生に満足か?」
「な、何を突然?」
ベンジさんは面食らった表情を見せました。
当然です。
邪神と戦うかも知れないのに、突然そんな事を訊くなんて頭おかしいのでは? と思わない方がおかしいでしょう。
そういう訳で戸惑うベンジさんに、クルスさんは問いを重ねました。
「満足か?」
「……」
ベンジさんは問われて考え込みました。
今こうして城で体の一部と言えるゴーレムちゃん達やマル達を始めとするメイド達等と楽しく暮らしているのは、幸せな事なのかも知れません。
でも、大魔王の呪いによって直接外に出られないのは不幸な事だとベンジさんは常々思っていました。
いつか外に出たい。そして自由になりたい。それがベンジさんの願いでした。
その二つは今同時に起きている事であり、どちらがより大きいかなんて、口にできるものではありません。
だから。
「満足な事もあるし、そうじゃない事もあるし……。そういうもんだよ」
ベンジさんは、そう、口を濁した風に応えました。
彼のその応えと同じような表情を見て、
「そうか……」
クルスさんは、ただ苦笑しました。
それからもう一度、大広間の奥の方を眺めました。
遠くに見える大広間の端、そこには奥へと続く通路があり、その先にはいよいよ邪神アレクハザードを封じた間です。
小さく見える通路を目を細めて眺めると、クルスさんは、
「行くぞ」
一言言うと、自分が連れている数体の女性型ゴーレムを引き連れ、歩き出しました。
ベンジさんも遅れまいと、歩き出します。
彼はそれから、魔法が使えるゴーレムちゃん達に指示を出し、姿を消す魔法、明かり無しで闇を見渡す魔法、足音を消す魔法等、隠密行動に便利な魔法をベンジさん達とクルスさん達のパーティにかけました。
それらの魔法をかけ終えた時、アルカちゃんから、秘匿通信が入りました。
「ベンジ様っ」
「何? アルカ?」
「お城から通信が入りました。『これよりゴーレムちゃん部隊を神殿へと進発させます。ベンジ様は到着までお待ち下さい』との事です。クルス様にもお伝えしますか?」
「マルか……」
ベンジさんは新型ゴーレムちゃん制御装置を起動させる前の会話を思い出し、内心で苦虫を噛み潰しました。
(自分の好きにするがいいと言ったら、本当に好きにやりだしたよ。あいつ)
一瞬通信回線を開いてマルさんに抗議しようかと思いましたが、言っても彼女は意固地になってやり通すだけでしょう。
ならば。
(好きにやらせるか)
そうため息を吐きました。
それよりも、クルスさんに伝えるかどうかです。こちらも、最初は彼に伝えようかと思いました。
が。ふと、何故か昨日見た夢の事を思い出しました。内容はよく思い出せませんでしたが。
それと、道中所々で見た彼の悪人のような笑み。
それらの事を思い返すと、彼に事を告げるのは得策ではない気がするのです。
しばらく考えた後、ベンジさんは秘匿通信で告げました。
決心したような、どこか力強い口調で。
「いや、いいよ。クルスには後で伝えておくから」
その応えと口調にアルカちゃんはえ、という声を上げましたが、すぐに理解したという声色で、
「わかりましたっ。ベンジ様っ。今のところは伝えないでおきますね」
そう応えると、魔法の明かりを消しました。
幾つもの光が同時に消え、僅かに魔導器の明かりがあたりを照らします。
しかしそれでも十分でした。明かり無しで闇を見る魔法のおかげで、僅かな光でも辺りを昼間の様に見る事ができるのです。
ベンジさん達は音もなく、最後の大広間を抜け、通路へと入っていきました。
緩やかに傾斜した通路は熱を帯び、地下に潜っていく事を実感させます。
この通路を抜ければ、ついに、邪神アレクハザードが封印されている封印の間にたどり着きます。
そこで何が起きるのか。
そこで何が待っているのか。
陳腐な言い方をすれば、それは神々のみこそ知る、なのかもしれません。
しかしそこでどんな運命が待っていようとも、その運命を変える事ができるのが、勇者なのですから。
脳改造進行度 八〇%
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