明治のヱクソシスト
明治サブ🍆第27回スニーカー大賞金賞🍆🍆
壱
「あ、悪魔め……」
目にいっぱいの涙を溜めて、少女は言う。
「悪魔?」
全身黒ずくめの男が、冷たく微笑む。
「懐かしい響きですね」
少女の視界が闇に覆われる。
少女の髪が、目が、耳が、鼻が、頭蓋が、脳が溶けていく。
『痛い』も『苦しい』も『怖い』も『悔しい』も何もかもが溶け果てて、後には無限の闇だけが残った。
❖ ❖ ❖
国を守る術を失った日本は、その元凶を作り出した列強各国に助けを求める
不平等条約港として世界に向けて開かれた港――下田、函館、横浜、長崎、新潟、神戸のうち最大の輸入量を誇る神戸は今や、日本で最も混沌とした
❖ ❖ ❖
兵庫県神戸市、北野異人館街のとある武器商の屋敷にて。
「この部屋が?」
「うむ。夜な夜な
大日本帝国陸軍・第
「うわぁ、コレはコレは」
「……視線を感じる」
十をようやく過ぎたばかりといった風な少女が交互に喋った。
それはそうだろう、と武器商は思う。
何しろこの部屋には、武器商のコレクション――百体を超える西洋人形が置いてあるのだから。
武器商は、
あまりにも若く、そして奇妙な二人組であった。
こんな若造たちに
(いや、そちらの方が好都合か)
こちらとしては、『務まらない』方が良いのだから。
「貴様、名は何だったか?」
「これは、申し遅れました。わたくし、第七旅団所属
青年が山高帽を取り、西洋貴族のような気取った挨拶をしてみせる。
へらへらと笑う、軽薄そうな印象の青年であった。
ザンギリ頭の下にある顔は彫りが深くも中性的で、青年――
漆黒のフロックコートに黒い
百八十サンチ近くと日本人にしては背が高く、全身黒ずくめなのも相まって、何やら黒い
ほっそりとしているのに、
「少佐だと!? その若さでか!?」
武器商は目を剥く。
「HAHAHA! 天才なものでして」
「それに、
「はい。
千晶がフロックコートを翻し、
「そしてこちらは助手の、阿ノ玖多羅
「…………」
少女が目礼してくる。
上は格子模様の着物、下は海老茶色の袴。
一見すると女学生のようだが、和装に似合わぬぶかぶかの麦わら帽子をかぶっている。
その少女が人形が並べられた壁を睨み、
「……千晶、やはり視線を感じる」
「ええ、いますねぇ」
千晶が銃口を人形の方に向ける。
「お、おい! ワシの大事なコレクションに傷ひとつでも付けてみろ――」
「いやいや、
「いーや、許容できん!」
「キャァァアアアァァアアアアアアアアッ!!」
そのとき、一体の人形が悲鳴を上げた!
立ち上がり、武器商に飛びかかってくる!
「【
だが人形は、千晶が掲げた十字架から発生する光の盾に阻まれ、弾かれる。
「
「商人さん、あの人形、密輸したでしょ?」
「し、しとらんぞ!?」
「これだけのヱ―テルを放てる
「
「密輸しておいて
「……ああ」
咲が十字架を取り出し、振るう。
咲が
「結界、消します!
大きく踏み込んで、人形を横殴りにする!
「ワシの人形~~~~ッ!!」
武器商が頭を抱えるが、人形は無事だった。
ヤギのツノ、コウモリの翼、サソリの尻尾を持つ半透明の小鬼がのたうち回っている。
「グッジョブです、咲!」
千晶が弾薬盒から『天使弾』と刻印された弾倉を取り出し、南部式自動拳銃に装填する。
小鬼に狙いをつけ、
「【
撃った。
光り輝く弾丸が、小鬼の体――
「
「き、貴様! ゆ、ゆ、床に穴が!」
「いや~、そのくらいはガマンしてくださいよぉ~」
「……千晶」
「ねぇ、咲からも何か言ってやってください」
「千晶!」
「何です、咲?」
「……まだ、視線が」
「へ?」
千晶が、人形の方を向く。
同時に、人形たちが一斉に千晶たちの方を向いた!
「「「キャァァアアアァアアアアアアアアッ!!」」」
百体を超える人形たちが、一斉に飛びかかってきた!
❖ ❖ ❖
「うわぁああああああ!?」
廊下を走っていると、ドアというドアから人形たちが飛び出してきて、その数はもはや数百にもなろうとしている。
「千晶!
「そのようですね! ――咲、この人を頼みます!」
千晶が武器商をぽーんと放り投げる。
「「うわわっ!?」」
咲と武器商の声が重なる。
「――っと」
身長一三〇サンチ程度の小柄な体の
「【AMEN】ッ! 【AMEN】ッ!!」
千晶が南部式の二丁拳銃で、人形たちを迎え撃つ。
一発々々に大量のヱ―テルが込められた『
「ワシの人形たちがぁぁああああッ!!」
「言ってる場合ですか!」
「――千晶、行き止まりだ!」
「ありゃりゃ、絶体絶命」
袋小路に入ってしまった千晶が振り向けば、無数の人形たちが通路を塞いでいる。
「ど、どうするのだ!? 貴様らそれでも
「な~んちゃって」
慌てる武器商に対し、千晶が陽気に笑ってみせる。
彼は
「咲」
「ああ」
咲が結界で人形たちを押し留める中、千晶が静かに祈り始める。
「【
千晶は右手の二本指で剣印を作り、額に当て、
「【
二本指をへそへ、
「【力と】」
左肩へ、
「【栄えあり】」
右肩へ当てる。
今や南部式自動拳銃は、
咲が、結界を解いた。
人形たちが殺到してくる!
千晶は南部式の銃口を人形たちの群れに向け、
「【永遠に尽きることなく――
引き金を、引いた。
光が、在った。
太陽かと見まごうばかりの眩い光が銃口から放たれ、人形の群れに殺到する!
「「「キャアア――――……」」」
あれだけいたはずの人形たちが、残らず一掃された。
「ふぅ~……」
千晶がその場でしりもちをつく。
「何とか終わりました。けどもう、体内のヱ―テルがスッカラカンですよ」
「スッカラカン、だと?」
「はい」
武器商の問いに、千晶は答える。
「そうか、ならば――」
武器商の体がみるみるうちに大きくなる。
「――死ね」
身長三メートルの大男に変じた
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