自分によく似たもうひとりの自分
一帆
1.突然の訪問者
ピンポーン。
『私達の留守を狙って、
とん とん からり
とんからり
とん とん からり
とんからり
機織りの機械が私の気持ちを落ち着かせてくれる優しい音を立てる。
ピンポーン。
ピンポーン。
ドアのチャイムが、乱暴に鳴る。その音は、私の中に土足で踏み込んできて、無遠慮だ。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
私は、 機織りをやめて、息を殺して玄関を見た。私の気配に気づいたのか、どんどんとドアをたたく音と一緒に、大きな声が聞こえてきた。それは、意外にも若い女の人の声だった。
「
(
聞いたこともない名前だ。
「
私の戸惑いが伝わったのか、ドアの向こうの声が、今度は切なそうな、泣きそうな声に変わる。
「そりゃさ、あんたが施設から引き取られたときは小さすぎて、覚えていないかもしれないけど、あたしはあんたの双子の姉の
(双子の姉?)
私は頭の中が混乱して、口の中がカラカラになる。
私が養女だったってことは最近知ったくらいの話で、生まれて育った養護施設のことは何も覚えていない。双子の姉がいたなんて聞いたこともない。
「ごめんなさい。養護施設のことは何も覚えていないの。おじいさまもおばあさまも、私が双子だったなんて言ったことないわ」
「ババアが隠していたんだろ?」
「どうして?」
「あたしがいるってわかったら都合が悪いに決まってんじゃん」
「? どうして?」
「そんなの、知らないよ」
「あたしさ、施設でずっといびられっぱなしだったんだ」
「殴る、蹴るは当たり前。まともな食事だってありつけない。双子の妹のあんたに会いたいという願いだけが支えだったんだ……」
(私のことを支えに生きてきただなんて……)
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「…………」
「あんたとあたしは、同じ籠の中に入れられて施設の前に捨てられたんだ。嘘だと思うなら、扉を少し開けてみなよ。あたしの顔、あんたとそっくりな顔をしてるから」
「……」
「疑い深いのはいいことをだけど、悲しいなあ。すっごく傷つくわぁ」
「……ごめん。おばあさまが、開けちゃダメって言ったから……」
「ひでー。あんた、血のつながった姉妹の言う言葉より、ババアのいいつけを守るんだぁ。……、いいよね。あんたは!! みじめなあたしの人生とは違って、こんな家に住んでさ、すきな機織りをしてさ、ぬくぬくと暮らしてさ。姉が訪ねたっていうのにさ、ドアを開けもしない。薄情を通り越して鬼だね」
「…………」
ガツンとドアを蹴る音がする。私は怖くなって、二、三歩、後ずさりをする。私が怖がったのが、わかったのか、外にいる
「ごめん。……、言い過ぎた。そうだよね。心配するのも当たり前かもね。ある日、突然、姉を名乗る人間がきたら、混乱してしまうよね。…………、そうだ! のぞき窓からのぞいてごらんよ。そしたら、少し安心すると思うよ?」
私は、
「そっくりだろ?」
「うん」
「信じてくれた?」
「うん」
「じゃあ、扉を開けてよ」
「……でも……」
「…………、あたしさ、施設から抜け出して、最初にしたことはあんたの居場所を探すことだった。三歳の時に別れてしまったあたしの双子の妹の
「ま、ま、まって!
私は慌ててドアを開けた。
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