第3話 感謝状と取材
女性を助けてから3日ほど経った。
あれからというもの、東京消防庁から俺のスマホに連絡が入った。
内容は、消防庁から感謝状が出ているとの事だった。
感謝状がどういうものなのか分からなかったが、とりあえず来てほしいとの事だったので俺は東京消防庁に行く事にした。
期待とワクワクで胸を若干躍らせながら、朝食を食べ、薄暗い部屋を出た。
失礼のないようにと思い、俺は今日もベージュのスーツを着て駅に来た。
変わらない光景、あの日は少し特別な日だったと思いながら電車に乗り込んだ。
電車に揺られて人を避けながら歩き、10分ほど歩いて【東京消防庁 本部庁舎】に着いた。
謎の恐怖感があり怯えながら中に入ると、そこには女性を助けた時に居たチャラ男が居た。
「あ、どうもこんにちは。あの時振りですね」
チャラ男は俺に気が付くと、厳つい顔とは裏腹に優しそうな声で挨拶をしてきた。
「あ、どうもこんにちは。そうですね、あの時振りですね」
「自分、感謝状なんて大層な物を貰うの初めてなんですよね~」
大体の人が消防から感謝状なんて貰わないと思うけどな。
そんな風に思いながらも「そうですね~」と相槌を打っているとスーツを身に纏った女性が廊下から歩いて来た。
「池端様、中野様、どうぞこちらです」
真面目そうな表情で歩いて来た女性は顔色を一切変えずに、ヒールの音を鳴らしながらまた廊下を引き返した。
「ついていきますか」
「そうですね」
中野様と言われたチャラ男と一緒に女性の後を追った。
~~~
中野さんと特に会話することなく『会議室1』と書かれた部屋の前まで来た。
「中にお入りください。署長と防災部長が中でお待ちです。」
そう言われながら会議室の扉が女性によって開けられた。
「入りますか、何か緊張しますね!」
「そうですね……ハハハ……」
俺は緊張よりも中野さんと上手くコミュニケーションが取れているか心配で仕方が無かった。
こんな如何にも「THE 陽キャ!」みたいな人と今まで生きて来て関わったことなんて無かった。
一応妹もそんな感じだが、妹と中野さんでは訳が違う。
別の意味で震えながらも俺は中野さんの後を追うようにして中に入った。
中には立派な消防活動服を着た50代ぐらいの小太り気味の男と40代ぐらいの細身の男性が居た。
「どうもこんにちは、署長の中沢と申します。こちらにいるのは防災部長の宮沢です」
中沢と名乗った小太り気味の男が俺の前に出てきて頭を下げる。
そして中沢さんに紹介された宮沢という男も俺の前に出てきて頭を下げた。
「この度は迅速な応急処置、そして救急隊に対する丁寧な引継ぎ誠に感謝いたします」
俺が引き気味に「いえいえ、当然のことをしたまでですよ……」というと中沢さんは俺の背中を押しながら「まあまあ、どうぞこちらに」と俺と中野さんを移動させた。
「では早速ですが表彰の方に入らせて頂きたいのですが、今回はテレビ局の方も来ていますのでよろしくお願いします」
テレビ局……まさか俺の顔や名前が報道されるってことか?
そんな事になったら面倒な事が増えるかもしれない。
俺が断ろうと思い口を出そうと思った矢先、後ろに居た中野さんが興奮気味に口を開いた。
「テレビっすか!? え、もしかして全国放送だったりします!?」
そんな態度の中野さんを見て、中沢さんは少し引きながらも「そうですね、全国的なニュースになると思います。最近は特にこれと言った重大事件もありませんし、ネタに困ったテレビ局が今回の件をネタにしたいと思って依頼が飛んできたのでしょうね」と言った。
本来こういうのって事前に連絡があるものじゃないのか?
と思いつつ俺は早速表彰されることになった。
「それでは本題に入ります。今回、東京駅で60代女性が苦しそうに倒れ、脈が無い中安定かつ迅速な応急措置、この行動を評してここに感謝状をお送りいたします。2026年、6月4日、中沢博之。ありがとうございました」
テレビ局関係者がカメラとマイクを構えて俺の方をじっと見る。
俺は感謝状を受け取ると、テレビ局のためにと思い渾身の笑顔でカメラに目線を送った。
ディレクター(?)から頭を下げられ、今度は中野さんの表彰なので俺は後ろに下がった。
中野さんに感謝状が贈られた後は消防庁のホームページにのせる写真のための撮影とテレビ局から軽くインタビューされた。
アナウンサーさんに「これって、全国放送されますか?」と一応確認を取ると「そうですね、放送させていただくと思います」と言われた。
自分の発言が恥ずかしくないかとインタビューを振り返ろうと思ったが、その前に恥ずかしくなってしまい考えるのを辞めた。
チャラ男の中野さんに「この後暇ですか? 暇なら適当に飯でも食いません?」と言われたが、俺が勝手に気まずくなってしまっているので遠慮させていただいた。
その代わりに連絡先を交換して俺は会議室を出た。
なんだかんだ不満はあったが、気分は最高に良いし良い体験をさせてもらった。
活かせる部分は少ないだろうが、この経験をどこかで使えたら良いな。
そんな風に思いながら、俺は消防庁を出た。
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