タマナハ・クレアの一週間

未来乃メタル(みらいの・めたる)

プロローグ

タマナハ・クレアの3分間

 Y駅の改札を出て大学へ向かうまでの道順には2通りの行き方がある。


 改札から北口の出口へまっすぐに進み、地下に潜って国道を超えるのと、そのまま地上に出て歩道橋を渡るかのどちらかだ。


 雨模様の日は傘を開くのが面倒なので、決まって地下に潜るのだが、その日は天気が良かったので、歩道橋を渡っていくことにした。



 8時33分。


 歩道橋は巨大なコンコースに繋がっていて、クレアは、階段の脇のエスカレーターで上階まで登り、デパートが入っている複合ビルの横を人々の流れに乗って、進んで行く。



 8時34分。


 コンコースから次の歩道橋に繋がるところで、青い業務用のジャンバーを着たポニーテールの女性がチラシを配っているのが目に入った。


 クレアはその女性が配っているチラシを受け取らないよう、体を少しだけ右側へとずらして歩を進めた。



 8時35分。


 クレアの姿を見つけると、ポニーテールの女性はクレアの眼の前にそのチラシを突き出した。


 クレアはしかたなく、そのチラシを受け取ると、特に興味を惹かれることもなく、二つに折り畳んで、たすき掛けにしていたポシェットに収めた。


 それが、クレアのこれからの一週間、いや、人生そのものを変えてしまうチラシであることを、その時は知る由もなかった。



 8時36分。


 クレアは、ちょっとだけ気になって後ろを振り向いた。


 が、今チラシを配っていたばかりの女性の姿は、すでにどこにも見当たらなかった。


 チラシを受け取ったあとで、配る場所をすぐに移動したのかもしれない。


 それ以上、特に気に留めることもなく、大学のキャンパスを目指して、クレアは歩みを速めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る