祈っております。
カイザー
・
兄が結婚した。
生まれつき
子供の頃はよくケンカをした。根っから
「けーちゃんのプリンもちょうだい」
奪われると勘違いをしていがみ合った。母には心底
基本的に食い意地がすさまじい。パン屋の試食を怒られない
母いわく、赤ん坊の頃からそうだったらしい。普通なら泣きじゃくる赤子が、あからさまに
それでも太っていないのは、運動ができていたからに
元々、外で遊ぶのが好きな兄は、ドがつくほどの田舎とも相性がよかった。ボーイスカウトに入ったという兄に嫉妬して、一緒についていったこともある。
中学生。鬼のコーチと呼ばれていた運動部の
兄はいっときの間、不登校になった。
「まだそんなアニメなんか見てんの?」
録画されたビデオを眺めている時、高校生になった兄が鼻で笑いながら言う。
昔に放映されたアニメの再放送。女の子が親友との別れを
後ろを振り返る。そこにはもう兄の姿はなかった。画面の女の子がすすり泣く声が響く。
十年経てば人は変わる。二十年もすれば事情が変わる。大人ともなれば住む家だって変わってくる。
それぞれの道を歩むため、家族と話す機会すら遠ざかっていく。
だが、兄は帰ってきたのだ。
「実家から近いところ受かったから」
就職先が決まったようだ。
実家も田舎暮らしから解放されて、祖母との二世帯住宅となっていた。部類としては田舎の域を超えないが、度合いが違う。以前は
「けーちゃんの見てたアニメ、大学でも人気でさー」
就活から脱した兄は、理系のオタクたちに
そんな兄が結婚したのだ。
捻くれ者で、食い意地が張ってて、一時期とはいえ深い挫折を味わい、最終的にオタクとなった兄。
お相手は笑顔がステキな、ひまわりのような女性で、ひと目見たときは腰を抜かしそうになった。
「これ、けーちゃんに」
新たな門出を祝うなか、兄から手紙を渡された。
お相手側のご家族方にも渡していたところをみるに、関わってきた人たち全員に想いを
日が落ち、ひとりになったところで手紙を開封して目を通す。
『この度は〇〇さんとの結婚を祝っていただき、誠にありがとうございます』
なんともお
『様々なことがありましたが、それもこれも、皆様のおかげで今の私があります』
誰よりも近くにいたと思う。仲がよかったかと聞かれれば素直に頷けないが、兄のことは誰よりも理解していたと思う。
『これから私は、〇〇さんと共に歩みます』
そんな兄が、家庭を持つ。これは本当にすごいこと。
『今まで共に暮らしてきた家族のもとを離れ、私は私の家族を築き、輪を広げようと思っております』
じん、と
『最後に。皆様もどうか
途端に、天井を
「なにを!」
さすが僕の兄。台無しだ。
完
祈っております。 カイザー @kaizer_valvalet
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