旅人の記憶 天空への塔(前編)
木津根小
1
その男は王の命を受け、地方を旅する者であった。
彼の名前はギュダリア、先月30歳の誕生日を迎えた。
ギュダリアの両親は既に他界し、兄のヒリオスと姉のセレンシアは、結婚し、独立していた。
「あなたも早く結婚して、身を固めたらどお?」
セレンシアに、よく言われるが、ギュダリア自身に、その気は無かった。
「ぼくは、もっと、世界の色んな国々を見て回りたいんだ。」
セレンシアにそう言うと、いつもあきれ顔をされていた。
ギュダリアが祖国から西へと旅立ち、1ヵ月が過ぎた時、森の中にある、小さな村にたどり着いた。
「この村は、何ていう名前かな?」
村に入り、遊んでいる女の子たちに声を掛けて聞いた。
「ここは、『女神の涙』って言うの。」
レリィと名乗った、一人の女の子が、得意そうに言った。
「『女神の涙』かい、珍しい名前の村だね。」
「うん。
この村は、夕立がよく降るの。」
「夕立はね、女神さまが流した涙なんだよ。」
もう一人の、イリシャと名乗った女の子が、ジッとギュダリアの顔を見ながら言った。
「へぇー、面白いね。
夕立は女神さまの涙なんだ。」
ギュダリアが、笑いながら言った。
「おじちゃん、嘘だって思ってるでしょ。」
レリィが、少しムキになって言った。
「うっ、うん、嘘と言うか、そう考える発想が、面白いなぁって思っただけだよ。」
「嘘じゃないよ。
ほら、向こうに見えてるあの青い塔。
あれはね、女神さまが住んで居る、天空まで続いているんだよ。」
イリシャが、少し離れた場所に見えている、濃い青色の塔を指さしながら言った。
ギュダリアは、その塔を下から上へと、目で辿ってみた。
塔は上の方にある、雲の中へと隠れて居た。
「凄いね、随分と高い塔だね。」
ギュダリアは、塔を見上げながら言った。
「当然よ、天空まで続いているんだもの。」
レリィとイリシャはそう言うと、笑いながら、走り去って行った。
ギュダリアは、村の中にある宿屋に入ると、早速、塔の事を聞いてみた。
「ああ、あの塔ですかい。
あれは、『天空への道』と呼ばれている塔なんでさぁ。」
宿屋のオヤジであるフィロルが、愛想の良い笑顔で、ギュダリアを見ながら言った。
「あの塔は、どれ位の高さがあるんですか?」
ギュダリアは、宿代を前払いしながら聞いた。
「さあねぇ、この村の連中でも、500m位までしか登った事がねぇんです。」
「えっ、そんなに高くまで、登ったのですか?」
「ええ、でも塔はそれよりもずっと高くまで、続いていたらしいです。」
フィロルがそう言った事を聞いて、ギュダリアは、ある疑問が浮かんで来た。
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