第3話 交錯する想い


 いやはや蒸し暑い。

さすがに6月も中旬になると、梅雨のど真ん中というもので、毎日じめじめした気候とはねる毛先との戦いである。


「陽菜!集中してないよ〜?大丈夫??」

 

「すみません!!」


 あれからすぐに涼香先輩とは仲良くなった。

面倒見が良くてバスケも上手い涼香先輩は私の憧れだ。


「後ちょっとで終わるから頑張ろ!」


「はい!」


 頬を叩いて気合いを入れ直す。湿気でキュッキュッとなる体育館のフロアはほんの少し私の調子を上げてくれる。うん、いい感じだ。


 だが、こういう風に調子に乗るとすぐにバチが当たるのが世の常というもので...。


 芸術的に美しい3人抜きのレイアップを決めたはずの私は、そのままバレリーナのようにつま先から舞い降り、見事なまでの捻挫をしてしまった。


「イタタタタタタッ!!」


「大人しくしろ!サポーター巻けないだろうが!」


「すみません、もうちょっとだけ、優しく!」


「全く、片足着地するからだ。これでちょっとは動けるはずだから、このまま保健室行って冷やして来なさい。」


 高橋先生に応急処置でサポーターを巻いてもらうと、ようやくちゃんと立てるようになった。

とは言ってもフラフラとして足元がおぼつかない。

仕方がないから壁をつたって保健室に行こうとした時、急に誰かが後ろから私の腕を掴んで肩に回した。


「俺が連れてきます。」


「かえで!?」


それはさっきまで反対コートで練習してたはずの楓だった。


「おぉ、悪いな風見。じゃあ頼んだわ。」


「はい、すぐ戻ります。」


 なんだか私抜きに話が進んでいるようだけど、仮にも今は練習中、捻挫くらいでチームメイトの脚を引っ張るわけには行かない。


「楓!これくらい平気だから!気にしないで練習続けて!」


「ヨタヨタなくせによくいうよ。」


そう言って呆れた顔で反対側の腕を使って私の肩を支えてくれた。


「それに、気になって練習どころじゃなかったし。」


 何かをボソボソと呟いたあと、ふいっと視線を逸らしてしまった楓は、結局私が保健室に着くまで一言も発することは無かった。

 そんな珍しく気まずい空気が流れていたが故に、顔を覗いてやろうとしたその時、私がいつの間にか楓を見上げるようになっていたということに気がついた。

 小学生の時は私よりも10cmも低かったチビな楓も一丁前に成長していたらしい。

やっぱりなんだか最近の楓はおもしろくない。


一方その頃体育館にて。

???「へぇ、面白くなってきたじゃん。」





 天候は雨。まだまだ梅雨前線は停滞中。

傘を忘れてはこの先大きな嵐に巻き込まれてしまうやもしれない。県立霞ヶ丘高校バスケ部に本格的な梅雨がやってくるのはこれからである。




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