第43話 お願いしますですわ! わたくし初めてですわ!

「ごめんもう一回いい?」

恥ずかしくて、恥ずかしくて今にでも火が出そうな顔を隠しながらもう一度彼女に確認する。

「はい! 啓さんは電車の乗り方が分からなくて遅刻しそうだった私に切符を買ってくださり、その後も丁寧に乗り方を説明してくださいましたわ!」


記憶がない、言われてみればそんな事があったような、なかったような、とにかく具体的には何も覚えていない。


「切符と乗り方を」

「はい! 教えてくださいましたわ! あの時は本当にありがとうございましたわ!」

「いや、別に本当に大したことはしてないんだけど……。」

「謙遜しないでください、以前の学校でも啓さんに助けて頂いた話をしたら、『そんなおとぎ話の王子様がいるんですわね』とか啓さんは大人気でしたわ!」


恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。

なんでそんなくだらない事を言いふらしてくれたんだ。凉坂さんのようなお嬢様ばかりだったら、本心だったかもしれないがそれでも恥ずかしい事には変わりない。


「いや、うん。まあ喜んでもらえたならいいんだけど、それにしても切符程度でどうしてここまでしてくれているの?」


「程度なんておっしゃらないでください、啓さんはわたくしに全く知らない事を教えてくださいましたわ。わたくしの初めてを啓さんがくれましたわ!」


言い方。言い方。改めてくれ言い方を。

切符一枚でお嬢様に気にいられるなんて、エビで鯛を釣るどころかエビで龍が釣れたようだ。


「それで、凉坂さんは僕の家を増築?して恩を返そうと思ってくれたの?」

「はい、わたくしの家には恩を受けたら最大限返せと言う教えがありますの、お父様もお母様も賛成してくださいましたわ!」

「そっか」


お父様、お母様、賛成せず止めてください。あなた方がどんな素晴らしい職についているか分かりませんが、人の上に立つ以上一般常識も理解してくださいお願いします。

ついでに言えば切符の買い方くらい娘に教えてください。


脳内で届かないお願いを叫んで一度冷静になる。ここで僕が何を言っても彼女は恩を返し続けたいと言い続けるだろう、それならば僕は彼女に社会常識を教えるべきじゃないんだろうか? 美月を見る限り、凉坂さんに一般常識を教える人間は少なそうだ。


だったら、悪い奴に騙されたり、自分のパワーを見誤らないように学んでもらう事こそが、恩返しで返された大きすぎる物に対するお釣りになるはずだ。


「啓さん、わたくしは切符も買えないような少女ですが、お茶と料理はおいしく作れますので何卒お願いしますわ!」

「こちらこそ宜しくお願いします」

急に言われて反射的に答えてしまった。まあ僕が何を言っても彼女を止められないからここは素直にお願いされておこう。

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