第34話 愛情沢山受け止めてください!ですわ!!

こちらを見て、首をかしげる、可愛い顔を向けてくるお嬢様に僕は何をしていいのか分からない。とりあえず黙っているのも不自然だったので彼女の口にハンバーグを詰め込み続けた。

艶やかに笑う彼女の顔が可愛らしくて直視できない。


「どうしましたの? 半分以上私が食べちゃいましたわ、わたくし啓さんにもっと食べて欲しいんですの?」

食べさせられ続けて困っている彼女の言葉なんて入ってこない。

それくらい彼女は美しい。


「啓さん? 啓さん? 私そんなに食べられませんわ、啓さんもう充分ですから啓さんにも味わってほしいんですのよ」


「啓さん、聞いてますの?」

もぐもぐしながら彼女は言った。

そんな事は今どうでもいい、これ以上彼女の顔を見ていると気がくるってしまいそうだった、そのためには食べさせ続けて彼女の表情筋を変えさせ続ける以外思いつかない。


「啓さん? そろそろ私怒りますわよ!」

凉坂さんの口に再びハンバーグを詰めようとすると、フォークを持った手を掴まれた。


「啓さん、私怒りますわよ、ほら、啓さん口を開けてください」

フォークを奪われて、今度はポカンと開いた僕の口に肉の塊が強引にねじ込まれる。何か甘い味を味覚に感じた、でもそれはきっとハンバーグの味じゃない。


さっきまで彼女の口に入っていた、フォークが僕の口にある。

同年代の女の子と間接キスをしたなんて小学校ぶりだっただろうか、その時は仲の良かった女の子としたっけ。どうして今こんなどうでもいい事を思い出すんだろうか。

今怒りながら、自分の唾液の付いた食器を口に詰め込んでくるお嬢様の事だけを考えていこう。


落ち着け、僕は高校生、間接キスなんて日常茶飯事でもおかしくない年齢だ。いや流石におかしい、でも落ち着け。恋人とキス位しててもおかしくない年齢だ。現にお嬢様は動揺様子が一つも見られないじゃないか。


「啓さん! 私怒りましたからね! 私はあなたに食べて欲しくて作ったんですの!」

まだ口の中で肉を咀嚼しているのに、どんどん追加で肉が入って来る。怒った仕返しなのか素でやられているのか分からない。


「どんどん食べてくださいね」

肉汁が唾液に勝るくらい口の中にパンパンにハンバーグが押し込まれる。

流石にここまでされると間接キスだなんて気にならない。というか、さっきまでの豪日ムードは一転。苦しい。


「ちょっ、たんま」

口に入っている物を飲み込み、一度降伏をした。さっきまでの凉坂さんはこんな気分だったと考えると申し訳なく思う。


「ダメですのよ! わがまま言わないでください、私の愛情沢山受け止めてください!」

え、愛情? やっぱり同じ食器を使っていたのも……。


なんて甘い考えを出す暇もなく、次々と口に肉が運ばれてくる。美味しいから食べられて入るもののペースが速すぎる。


「受け止めてくれるまで入れ続けますのよ!」

悪魔のような囁きをされて、僕は意識をうしな……わせては貰えなかった。

彼女の激励を浴びながら僕は皿の上が無くなるまで無心で胃に食べ物を送り続けた。



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