第8話 攻撃力?そんなもの知りませんわ!
「啓様、私は今日から彩お嬢様と啓様の使用人です。そのため敬語など使わずに私を呼ぶときは、『ゴミやお前、カス』などでお願いいたします。」
「はいいいいいい? 今なんて?」
あまりにも平然と、まるで日常的に飛んでもなくふざけた今の挨拶を行っているかのようなリアクションされ、思わず大声を出して聞き返してしまう。
ついでに言うと隣の主人とみられるお嬢様も、先程と何一つ変わらないニコニコとした慈愛に満ち溢れた表情を続けている。
「はぁ、啓様はとても耳がお悪いようなので仕方がないのでもう一度言って差し上げます。今度はその残念な頭と耳でよく聞いてくださいね。」
「はい、よろしくお願いします」
「啓様、私は今日から彩お嬢様と啓様二人の使用人をさせて頂くことになりました。そのため、私を呼ぶときは敬語などは絶対に使わずに『ゴミ、お前、カス』など出来るだけ口汚い言葉を使ってください、お願いします。先程の『はい、よろしくお願いします。』なんてもっての他です、これから同じことをしたら絶対に許しません。」
その言葉の圧力は尋常でなく重く、本当にこのメイドに敬語なんて使ったらパワー系お嬢様にさっきされたように体を壊されかねない。
「分かりまし…分かった」
「まあいいです、及第点を差し上げましょう。早く私の主人としての立ち振る舞いをしっかりしてくださいね。」
何とも不服といった感じで彼女はそう言い放つ。
間違いそうになるが、僕は仮にも彼女の主人で彼女にパワハラをするように接しなければいけないらしい。それなのになぜ僕は口が悪くならないことを怒られ、ペコペコと謝っているのだろうか。
いや、僕はドSでは絶対にないから女性に高圧的に接したいという事は絶対にない。
……はずだ。
とりあえず、この謎の美月というメイドが恐らくドMという事は理解したくないが納得した。敬語を使うと怖いので気を付けておこう。
「二人がちゃんとやっていけそうで嬉しいですわ!」
お嬢様は心底嬉しそうな声を出す。
「私はこんな啓様と上手くやっていける気がしません」
「僕もあんまり」
「いえ、啓様は上手くやるなんて聖人のような気持ちでなくて、命令して私に意地悪をすることだけを考えていてください」
「分かりました」
あ、ヤバイ。敬語を使ってしまった。殺される。そう思った時には既に横から感じたことも無いような怒りを顕にされる。
「啓様ふざけないでください、何度言えばわかるんですか」
怒った彼女の拳が僕のお腹の方に飛んでくる、待てと命令する暇もなく。
躊躇なく振りかざされた拳が凄い勢いでみぞおちに突き刺さる。
当たった拳はポンと軽すぎる効果音を出して僕の体を一センチも凹ませることなく、留まった。痛くない。ティッシュか何かで叩かれたかのような気分だ。痛覚が無くなったかと思うくらい何も感じない。
「頭のお悪い軽様でもこれで分かりましたか?私に敬語を使うとどうなるかって」
口だけが悪いメイドが拳に続けて言葉を放つ。
分からない、だって痛みを感じなかったのだから。自信満々に言うメイドに何と言っていいか分からない。
困惑している僕に助け舟が出るかのように
「美月、ダメですのよ!殴ると人は痛いんですわ!」
とお嬢様が言った。
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