第2話 ドア?弱すぎて話になりませんでしたわ!
「啓さんやっと会えましたのね!」
お嬢様口調の少女は僕の驚いた表情を気にも留める様子がなく、それどころか僕に会えたことを心からの喜びを示すように、力強いハグをしてくる。
春先に咲く花のように良い匂いがする、誰だか分からない美少女に抱き着かれてきょーうふという感情がもあるが、気分が悪いわけがない。
なんて考えている暇はない、なぜならドアを壊したその強い力が僕の胴体に巻き付いているからだ。
今も巻き付かれた腕の力が強くなっていく、抱き着いてくる少女は嬉しそうにしている少女の肩をギブアップを示すように軽く三回叩く。すると彼女は名残惜しそうに密着した体を離してくれた。
美人局にしても手が込んでいる、ドア壊されたこととか訴えられるリスクとか高すぎやしないか?
少し冷静になりぐにゃぐにゃに壊れた鉄製のドアを見る。普通に考えてこんなもの人間の力じゃ壊せる訳がない。
いや、もしかしたらプロレスラーや力士などの格闘家ならば鉄製のドアを破る事は可能かもしれないが、見た目がこんなに見た目が華奢な女の子が簡単にそれこそ少し硬いペットボトルの蓋を開けるようなノリでドアを破壊していいはずがない。
きっと直ぐ後ろに脅すのが仕事の怖い怖い人が待機していて、中々出てこない僕に痺れを切らしてドアを打ち破ったと考えるのが自然だ。
「あのドアってどうやって?」
「あら?見えていませんでしたか?開かないのは困ると思って、私がちょっとだけ力を入れさせていただきました。思ったより簡単に開いて安心しましたわ」
ちょっとで鉄の塊を曲げられてたまるか、と思ったがここで声を出してそれこそ怖い人が来たらたまったもんじゃない。
そんな事を考えているとお嬢様が不思議そうにこちらの顔を凝視するようにじーっと見つめてくる。
「あの、啓さんもしかして私の事分かっていないのですか?」
本気で悲しむような顔をしながら少女が言う。
「ごめんなさい、あんまり人の顔覚えるの得意じゃなくって」
少し罪悪感を感じながらもそう答えた。
「そんな、貴方が私の事を救ってくださったんじゃないですか!」
血相を変えてそんな事を言ってくる、一回目は冗談だと思いスルーしていたが、二回目ともなるとそうはいかない。
「自分で言うのはあれですけど、自分は他人を救うような人間じゃないですよ」
だって記憶がない。
「いいえ、私は啓さんに間違いなく救われましたよ、啓さんが忘れているというなら思い出させてあげますわ!」
そう言い終えた彼女は体の距離を再びぐっと近づけてくる。顔が近い、そして怖い。
「あの、命だけは助けてもらえませんか?」
「何を言ってますの?」
「だって、ここから怖い人が何か脅してくるんですよね?」
小さな勇気を出して質問をする。
「啓さん本当に何を言っておりますの?怖い人?そんなの居ませんわ、見ての通り私は怖くないですよ」
裏表の無さそうな満面の笑みで凉坂さんはそう答えた。
「何か新手の詐欺じゃないんですか?」
「もう、本当に何を言ってるんですの?私はあなたに恩を返すためにここに来たんですわ、だから今日から貴方の家に住まわせていただきたいと思ってますわ!」
元気いっぱいな彼女は少し恥ずかしそうに、理解が追い付かない摩訶不思議な言葉を言い始めた。
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