第204話 漆黒と銀色で結ばれた鉱石

「ほれ」


 シャラーラが、右手を差し出した。手の平は上に向けて。

 私には視えた。魔力を、手の平の上で圧縮している。


「見えるな? ルフはどうだ」

「…………はい。感知できました」


 ルフには魔力視は無い。けれど、アラボレアで探知魔法を習得している。彼女も手を翳してから、頷いた。


「ふむ。ではジンにも見えるよう火を付けよう」


 次に、その魔力を火の玉に変えた。これでルフもジンも目で見ることができる。


「うん」


 ジンも頷く。


「では次。こちらだ」


 続いて、右手に火の玉を浮かべたまま、今度は左手も同じように手の平を上にして差し出した。


 何も無い。魔力は視えない。


「ほれ」

「!」


 その手に。

 火が灯った。


「ジン。どうだ?」

「えっ。両手に、火の玉?」

「その通り。どちらも魔法であるの?」

「そりゃ、そんなの魔法じゃなきゃできないよ」

「ふむ。ではエルルを見てみよ」

「えっ?」


 ジンがこちらを見た。


 私は、ずっと目を凝らしていた。


「エル姉ちゃん?」


 無いのだ。


 左手に、魔力は無い。視えない。なのに。

 右手と同じように、火の玉が浮かんでいる。炎は、ああいう風にの形にはならない。あれは確実に魔法だ。なのに。


「…………探知にも、引っ掛かりません」


 ルフも驚いている。探知されない魔法? 視えない魔力? この距離で。あり得ない。


「………………としか、言えないわね。少なくとも、現代の観測方法では」

「わっはっは。魔法の専門家であるエルフが、ふたりして。そう結論付ける。これが、の限界であるの」


 不思議だ。奇妙。目に見えている火の玉はふたつともの全く同じなのに

 左だけ、感じる筈の魔力を感じない。


「エルル。汝の魔力視で、やつがれの魔力は視えておるか?」

「え。……ええ。その左手以外は」

「何色だ?」

「えっ?」


 その質問に。


 私は再度固まった。


「やつがれの、は視えるか?」

「………………っ」


 全員の視線が私に集まる。


 唾を飲み込んで。


「…………いいえ。魔力に色なんて。考えたことも無かったわ。魔力は魔力だもの。色は無いわ」


 そう、首を横に振るしかなかった。そして、改めて考える。


 薄紅色。ちょうど、シャラーラの髪のような?


「いや……。感じたことは、あった。私、生まれて最初の魔法の授業で。自分の魔力をだと思ったのよ。……あれ、どうして今までそんなこと……」


 顎を持って唸る私を見て、シャラーラはふふんと笑った。


「エルフの祖先は、九種紀のである」


 シャラーラが続ける。私達は頷く。どこでも習うことだ。


「エルフはその長命から、殆ど変わらずに現代まで命を繋いできた。……が、大きく身体的特徴に変化があったがある」

「!」


 これは、知らない。私達エルフと、森人族の違い。無いと、教わってきたから。


「額の魔石……」

「知っておるか。ルフ」


 ルフが答えた。額に、手を当てながら。

 私も同じようにする。……魔石?


「古代のエルフ、森人族は皆生まれ付き額に魔石と呼ばれる結晶が埋め込まれていました。それを用いて魔力を視たり、遠視や透視ができたそうです」

「その通りである」


 ルフの説明に、シャラーラが頷く。きっと彼女はその眼で直に見てきたのだ。


「……その魔石なら、古代の魔力を視れたということ?」


 訊く。

 けどシャラーラは、否定した。


「そうではない。汝の魔力視は、その魔石のであるのだ。であるから、古代魔力を見ることができぬ。何せ時代が違う。九種紀は5000年前であり現代の魔法と基本は同じであるが、古代魔法は1万年前であるからの」


 現代の私達では、古代の魔法を観測できない。

 けれど、古代の魔法は、現代の魔法に干渉できるということなのだろう。それが、魔導術なのだ。


「……この手袋や大剣に使われている金属。古代の魔力を帯びておる。魔力石……それも、金属質であるため魔鉱石と呼ぶ」


 カチンと、手袋同士を合わせた。金属音が鳴る。


「帯びた魔力は、であるの。……ふむ。とでも呼ぶかの」

「黒銀……」


 シャラーラの魔力は薄紅色だという。つまり。

 この黒銀の作成に携わったのは、少なくとも……ということか。


「銀は、魔を防ぐ。その性質は、魔法耐性。つまりは魔法を弾くのに最適であるの」

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