第162話 魔界へ至るルート

 波も。雨も。風も。魔物も。


 全てを無視して、力技で強引に。

 真っ直ぐ、あらゆる障害を薙ぎ倒しながら進んでいる。


 ニンゲンには無理だ。帆船には無理だ。ピュイア達には、無理な航行だ。


 これが魔力船。搭乗者の魔力で動く魔法の船。エルドレッドが魔力を供給している。

 最強の船だ。


「ねえノルン」

「なに?」


 しかし揺れる。今日もリハビリをしているのだけど、こうも揺れるとできない。手摺りに捕まりながら、ノルンに訊ねる。


「魔界って、どんな所なの?」

「…………別に普通よ。ニンゲン界と同じように人が住んで、暮らしてるわ」

「……そう」


 彼女はミノタウロス。魔族だ。ニンゲンから遠く離れた人類種。顔が牛。足は蹄。角と尾のある二足歩行のシルエット。

 胸は豊か。


「どうして、ニンゲン界に?」

「……よ。ワタシは小さい頃に親に連れられてニンゲン界へやってきた。キャスタリア北端にあるを越えて。集落ごと移動してきたけど、結局生き残ったのは少数。けど、こっちの方がマシね」

「…………魔界では、戦争が?」

「そうよ。未だに至る所でやってる。侵略と併合、支配、交配。その度絶滅したり、新種が生まれたり。うんざりよ」


 魔界からニンゲン界へ来る人達は一定数居る。けれど、そのルートは過酷だ。

 キャスタリア大陸北端

 レドアン大陸西端

 ミーグ大陸南東端

 そしてオルス北東含め、その他


 どれも、ニンゲンの今ある技術では越えられない。唯一可能性があるのが私達も見た、ウラクトの砂海。失われた砂上船の技術が復活して、砂海の魔物の対策ができればというところ。


「……私はいつか、魔界も旅するのが目標なのよ」

「そう。無理ね。。良いじゃない。姫として安全に森で暮せば」

「…………それこそ無理ね。私にだって、から」

「馬鹿ね」

「……ふふっ」


 ノルンの、はっきりと言ってくれる性格が好きだ。これは良い出会いだった。


「ま、エルドを倒せるレベルになるか、倒せるレベルのオスを味方にするか。そのくらいしか可能性はないわね。まあエルドを落とすのが手っ取り早いかしら」

「ふふっ。ありえないわ」

「決めたオスが居るって? でもそれ、エルフ? なら結局エルドが強いわ」

「ニンゲンよ?」

「は? もっと無理じゃない。ニンゲンが一番魔界適性無いんだから」

「関係無いわ。魔界入りができるニンゲンの冒険者は居るもの」

「……そりゃ、一握りの怪物でしょ。そうそう見つからないわ」

「…………ふふっ」


 ああ。魔界出身の彼女の口から聞けたのなら、はっきりする。

 やはりエルドレッドだ。彼が基準だ。を下せる実力が付けば。魔界入りだ。


 私はまだ、諦めていない。オルスへ私を送り届けるまでが、亜人狩りの仕事だ。ならそこからは、脱走してもエルドレッドには追われないということになる。もし追われても。


 構わない。ヒューザーズから、ルフの安全さえ確認できれば。私はやる。

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