第139話 高きを誇るドワーフの姫
山を登る。思えば、登山はしたことが無かった。
足が重い。風と魔力強化でごまかしながら進む。
光の魔法で、足元を照らしながら進んでいる。
ちらりとルフを見る。魔法無しで悠々と進んでいる。慣れているのだ。こういうところで、差が出る。
「凄いですわねぇ」
「何がかしら」
先頭を往くフーナが、髭を揺らしながら振り向いて私達を見てそう言った。
「ちゃぁんと、ドワーフの登山速度に付いて来られていますわ。しかも今は夜で視界が悪いのに。冒険者ということ、そして女性ふたりでエデンからここまで来たということ。その信憑性がどんどん上がっていますわぁ」
フーナ、そして私達。最後にフーナの護衛が後を追っている。一応は私達を信用しているのか、何かあっても対処できる自信があるのか。私達はフーナの速度に付いて来てはいる。だけどそれは、私達に合せてくれている可能性だってある。
「確かに。体力は並みのオスエルフの7割適度には追い付いたと思いますよ。エルル」
「……そう、なのかしら」
ルフまで。
「これはさぞ、わたくしの知らない素晴らしい魔法を修得しているのではなくて? うふふふ……」
「…………まだ、期待に応えられるかは分からないわよ」
「構いませんわよぉ。あの風の結界だけでも充分ですもの!」
「……やっぱり産めと言うのは無しよ。良いわね? ドワーフの姫」
「そんなこと。勿論姫の言葉に撤回はありませんわ。ドワーフはメス不足とは言え、オークやゴブリンのように他種族を無法に犯すほど落ちぶれてはおりませんの。まあ志願があるなら考えますけれど」
「しないわよ。私達には夫が居るもの」
「あらぁ。そのお話もお聞きしたいですわねぇ」
どうやら、見張りが私達にした交渉はこのフーナも知るところのようだ。あくまで国の利益優先。合理的なのだろう。そして、姫(王族=政治家)の意思が組織下部まできちんと降りてきているという証拠でもある。ここの兵の練度は高い。間違っても、未開の地の小国などと侮って良い相手ではない。
ドワーフのことについて、私達の教師となるのだから。
◆◆◆
山、というものを。
私は勘違いしていた。先が尖っているから、ずっと崖が続いて、狭くて不便なもののように思っていた。
坂道を登ったその先には、視界ずっと続く平原があった。夜の暗闇……ではない。明かりが沢山ある。街だ。しかも、活気のある。
「ここが山地のドワーフの国?」
「いいえ。訂正がふたつありますわ」
建物は全て木造だ。けれど森のエルフの街のように、生えている樹を利用したものではなくて。木材を加工していちから建てる、ニンゲンと似たような造り方。屋根は山頂に向かって斜めに尖っており、ニンゲンの街とも違った風景だった。
人も多い。広い空間だ。この場所からは一望できる。賑わっているようだ。
「ひとつ。ここは、ただの街。国で一番下界の、言わばお客様用の交易街ですわ。賑わっているのはその為。そして、もうひとつ」
フーナは機嫌良さそうに、山頂を指差した。平原の遥か向こうに、霧がかった峰が見える。悠然と、聳えている。
「わたくし達は、高山のドワーフですわよ。山地、というのは北レドアンや大砂漠での通称ですわね。わたくし達はもっと高いのですわ」
「!」
誇り。
自信満々な魔力を感じた。フーナは自分の国を愛しているのだ。
「さあ、こちらへ。この街は通り過ぎて、さらに登りますわよ。……アラボレアの高さ、とくとご覧に入れますわ!」
翻って私は。
オルスの巨大森を、誇れるだろうか。
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