第50話 エルフの姫の自由な旅の途中【第2章最終話】
目が覚めたのは、ギルドの部屋ではなく。別のベッドだった。サターン米のにおいがする。農場の近く。ファルの自宅だった。
「快復した矢先にこれかね。お転婆が過ぎるね」
「うっ……」
ファルは、倒れた私を見てすぐにギルドへ連絡した。すると、ディレがフーエール氏を呼んでこっちまで来てくれたのだ。
ベッドに座る私。横にディレ。目の前にフーエール氏。
いつもの光景になった。今はファルも居るけれど。
「……ご心配お掛けしました。ごめんなさい」
深く、頭を下げる。迷惑を掛けてばかりだ。自分が情けなくなる。
「ディレ。大丈夫だった? 怪我はない?」
「私は大丈夫ですよ。それよりエルルさんですって!」
ディレはぶんぶんと首を振った。あのニードに突き飛ばされた筈だ。怪我もそうだけど、怖かった筈。私が巻き込んだ。
「えっと、フーエール、先生? エルルさんは」
「ふむ」
ファルが訊ねた。彼女は私のことについてまだ知らない。
「良いのかね」
「恩人です」
フーエール氏から確認された。当然だ。彼女に隠し事などありえない。
「ふむ。この子はエルフとニンゲンのハーフだ。倒れてしまったのはつまり、魔法の使い過ぎだね。この子のニンゲン部分が、高い魔力に耐えられないという訳だね」
「えっ……!」
「だ。大丈夫よファル。今日は、あの収穫より前に魔法を使ってしまったからなの」
「聞いたよ。ディレから」
「うっ」
ファルが責任を感じることなど無い。弁明すると、フーエール氏の眼光が鋭くなった。
私はこれに弱い。
「鉄風のニード。体躯に似合わぬ身のこなしで戦場を賭ける狩人だね。奴の鉄剣を……2度。正面から魔力強化のみで受け止めたと」
「……ええ」
「…………君なら避けられただろうに。性格かね。奴の一撃を完全に防御するほどの魔力強化の練度とセンスには脱帽だが、そんな高濃度の魔力を、自分の身体に浸透させたんだ。決して病み上がりに行って良い魔法ではない」
「……分かっているわ」
全身の鈍痛と麻痺。これが魔力侵蝕の初期症状だ。股以外の所から血が出たのは、宇宙魔力による魔力汚染の症状なのだろう。
「先生。エルルさんは……」
「ふむ」
ディレが心配そうに訊ねてくれる。私の身体と、ギルドでのこれからについて。
「どれだけ急ごうが、冬を越すまでエソンから動けない筈だ。ならば許されるなら、ここで過ごしなさい」
「!」
ちらりと、ファルを見る。
「しばらく魔法は使わないように。そうだね……。春になるまで、その収穫の魔法のみ許可しよう。それなら数週間に一度のみだろう。数ヶ月使用せずに鈍ってもいけない。ギルドには来なくて良い。君の心の健康の為にも。まあ、彼女がそのように依頼して、正式受理され、君が受けた場合だがね」
「やります」
「!」
ファルはこの提案を、一番に手を挙げて首肯してくれた。
「まだ、誰にもバレてないってことでしょ? 他の人達にエルルさんを取られたくない。あんな超高効率、絶対見逃せない。それに、一緒に暮らすのも大歓迎。あたしも、魔法やエルフのこともっと知りたいし。勿論報酬も約束する。メンバー指定の依頼ですよね。全然払います!」
「ファル……」
彼女は私に、ウインクをくれた。
泣きそうになった。
「……とのことだがね。受付嬢?」
「あっ。はい! 分かりました。一度支部長に相談しますが、きっと許可は出るでしょう。諸々書類作成してから、また来ますね!」
「ありがとうディレ」
「えへへ。私、受付が今の本業ですから」
ここに居れば、あの視線は感じない。ゆっくり、のびのびと。心身を休ませることができそうだ。
ファルのお手伝いをしながら。土と風と草に囲まれながら。
「……という訳だね。私もそろそろ自分の街へ戻るからね。良いかね。エルル」
「…………はい。ありがとうございました。フーエール先生」
自由の旅。けれど、重い旅。
簡単には行かない。これが、自由なんだ。
ひとつひとつ学んで、糧にして。いずれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます