第11話 単純な人間の複雑な社会
オスの心を支配するのが、メスの強み。
そんなスキル、私には無い。少しばかりの焦りがあった。どうあれ、あのヒューイというオスを魅了できなかったのは事実だからだ。
オスのことを知らなければ、魅了などできはしない。
この森に居ては、生物としての本来のメスの強みを、鍛えることができないのではないだろうかと。
いずれ私は外の世界へ飛び立つ。その時に、他のメスに負けてしまうのではないだろうか。より強い、良いオスを、取られていってしまうのではないだろうか。
「……あれ? ねえルフ」
「なんでしょう」
「支配されて、オスに不満は無いの?」
「ふふ。ありません。何故なら、元よりオスはそれを望んでいるからです」
「そうなの?」
他人の精神に影響を及ぼす、催眠の魔法がある。それは森では禁じられている。メスの強みは、それと似てないだろうか。ふと思ったのだ。
「オスは、頑張れば頑張るほど、メスからご褒美が貰えるのですよ。その為なら、いくらでも頑張れる。大好きなメスに喜んで貰いたいのです。好きなメスになら喜んで、支配されるでしょう。何故なら、心を支配された所で、オスにメリットはあれどデメリットは何ひとつ無いからです。病気や怪我をする訳でも無い、精神的に痛め付けられる訳でも無い。ただ、もっと頑張ろうと前向きに思えるほどのご褒美があるだけです」
「…………なんというか、ええと。単純、じゃないかな」
くすりと笑うルフ。この護衛は、巨大森に来た以上、つがいは居ない筈。けれど恐らく、交際の経験自体は豊富にあるのだ。それが分かる表情をしている。恐らく私よりも多くのオスと、触れ合ってきた筈。
「ええ。その通り。オス――男性とは、馬鹿で単純で、とても愛おしいのです。よく間違うし、理解できない子供のような趣味を持っていたり。けれど、意味不明なそれら全てを愛して、受け入れると。男性はころりと女性を好きになり、貢いでくるようになります。そう。男性は基本的に、女性に弱いのです」
「…………まだ、信じられない」
「ええ。そうでしょう。いつかエルル様ご自身で、お確かめください。……おっと。私の経験からくる主観の感想を交えて語ってしまいました。なるべく客観的にご説明したかったのですが」
もっとオスと出会わなければ。もっとオスと話さなければ。
一度はつがいにもならなければ、きっと分からないことだと思う。
けれど、ルフの話は面白い。聞いていて楽しい。
「残念ですが、今日はこのくらいで。湯浴みの時間です。主題である、フェミニズムのことまでご説明できませんでした。エルル様」
「分かった。良いよ。また色々教えてね」
「ええ勿論です。その為に、来ましたから」
ポジティブ、というのは大事だと思った。悲しいより、楽しい方が良い。私は、感情を選べるなら、ポジティブを選ぶ。
母や、森の大人達は、オスのことに対してネガティブに話す。
ルルゥやルフは、オスのことに対してポジティブに話す。
きっと、どちらが正解で不正解でということでも無いのだ。色んなオスが居る筈だし、オスひとり取っても悪い面と良い面の両方がある筈だ。
私だって、賢者と愚者、両方で評価されたことがあるから。
複雑なのだ。人間関係も、社会も。
なら、私の主観、感想として。ポジティブが良い。
そっちの方が、外の世界に対して希望が持てるから。
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