全部ゥ、嘘でしたァァァ!

ぱぱぱぱぱぱぱぽぱぱぽぱぱにぱぱぱぱぱぱ

ミルクはひっくり返るもの

 今日という日がついにやってきた。

 そう、私はこの一言を言うために他人の人生という人生を踏み躙ってまで、この時を待っていた。カネとケンリョクとコネのカードが揃い切るこの時を。

 エレベーターが大きなホールのあるフロアまで急速に上がっていき、そのふわりとした慣性力が私の気持ちを高揚させる。

 ああ、今日でやっとやっと終わる。

 あの一言を言う。

 そうして私を含めたあの場に、いや、この国全体の人間がいかに愚かな生き物であるかを知らしめてやるのだ。

 長かった。

 自分の人生をこのために捧げた。

 当然、報いは受ける。酔狂な信者の一人が私の命を奪いにくるかもしれない。

 いや、むしろそれでこの寸劇が完成するのだ。

 そんなつまらないことに、私はアホらしい活動をひどく丁寧にしてきた。

 エレベーターの天蓋、オレンジじみた高級感のあるライトが、私を産地詐称でも完璧にしたであろう、死んだ目をした魚が無理やり新鮮に見せられたかの如く、発色剤をカネとケンリョクとコネのメタファーとして塗り殺しているのである。

 ピンポーン。弾むようなエレベーターの到着音が耳から脳裏へと掠める。

 ホールからの空気がこのお人形セットのパッケージの密室へと流れ込んでくる。天井は高い、長いカーペットがスピーチをする登壇場まで一筋に伸びている。

 光と拍手が私に向かって凝縮する。

 私はいつものようにそのカーペットを手を振りながら、笑顔で自然体のままに歩くのだ。

 ただし、私の周りにいるチキンどもはメンバーの証として黄色い衣をつけて、そして唐揚げを揚げるような音を手から拍手という形で出しているのだと見下しながら。

 登壇場に上がり、場が静まるとともに白い服を着た幹部が進行を始める。

 滞りなく進んでいき、そして私の、教祖のスピーチが始まる。

 初めはいつものようにありがたーいお言葉を吐きながら、そして我々を許してくださるなどと宣うのである。罪や罰は人間が生み出したものであるにも拘らず、だ。

「そのために私たちは!捧げなくてはならないのです!日々の恵みを孵さなくてはならない!」

 本当に何を言っているんだ。

 だけだ。

 だ。

 心の拠り所としてあるべきではある。そこは否定することはない。が、だからといって他人の居場所を取り込み、吸い取ってどうする。

 そして、本来“手段”であるべきカネを“目的”としてすり替えてどうする。

 個人各々の幸せを一つの価値観のみに統べてどうする。

 

 俺は俺を生み出したものが遺したこれを破壊するために、どうしようもないこの世にセンセーションを引き起こすために怒りをここにぶつけ、嘲笑おう。


「ところで、皆さん、私から大切なお話があります」


 スーッ…肺に新鮮な空気をいっぱいに入れて音割れするくらいのマイクに声を吹き込んで。


「ぜぇえええええええええええんぶ!嘘でしたぁああああああああああ!!!!!」


 やっと言えた。30年の積年の思いを。恨みを。


 は?と場がざわめく。いよいよ気が狂ったかと思っただろうそうだろう。だが、狂ってるのは俺だけじゃないお前らもだ。


「ぜーんぶ嘘。出鱈目です。神?少なくとも私がそれに救われたことはないです。オカネを渡せば救われるなんてのもでっち上げです。全ては上の人間が欲のままに暮らすためのものです。この会の教えなんていうものは我儘を大人の皮を被せて言い換えただけのシステムいや、タワゴトです。皆さんは騙されていたんですよ。私やその周りの人間たちに。その証拠はもうすぐ世に出回るでしょう。残念でした貴方たちは利用されていただけです」

 

 私はスピーチの台に置かれた教本の中のページをビリビリに破いて投げ捨てた。


「あースッキリしたー!それではさようなら皆さん。せいぜいそこで胸糞悪い思いでもしておいてください。ああ、入ってきていいですよ」


 待機させておいた警察がホールの出入り口から入ってくる。ホールに集めたことで彼らも下の階のオフィスのガサも入れやすかっただろう。私の家も今、家宅捜査をしていることだと思われる。

 まぁ寝具以外は家に何もない。ただ広いだけの家だが。

 本当に空っぽだ。天涯孤独だ。だから今日まで気兼ねなくやってこれたのかもしれないが。

 でも意味はない。

 はっきり言ってこのフラストレーションをぶちまけるためだけのものであり、私に残るものは何もない。

 言ってしまえば、本当にこれは意味にないことなのだ。ひとときの高揚感を味わいたいだけのための儀式だ。

 こんなことをして意味はない。

 いずれにせよ、一部のクソどもが己の利益のためにきっと、同じようなことを行いだす。

 どんなに私が嘘でしたと叫んでも許されることはないように。

 まぁ、許す許されるというものも遠い昔に人間が生み出した、社会を、ムラを、円滑にするために生み出した概念でしかない。

 結局は人間は自分で考えて自分で調べて自分で動くしかないのだ。

 だいなしになった牛乳は元に戻らない。

 ゆっくり腐っていくしかない。

 這いつくばってそれを啜るのか、諦めて拭き取るのか、それとも放置するのか。

 他人に任せっきりで辿り着いた乳と蜜の流れる約束の地などは、正義だとか嘘だとかと同じ曖昧なものを概念というすっぽりと入る水瓶に入れられた記号でしかないということだ。

「……」

 今、私の手首には鉄の輪が通され、その上から純白の布が、溢れた牛乳のように被せられるのであった。

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