第11話 国王からの手紙
その日の晩、メリザンドは寝台の中で手紙を読んでいた。
大量の贈り物と共に届いた、国王からの
『わたしの愛しいメリザンド。
先日は、性急な別れになってすまなかった。
本当なら、あのままお前を連れ去りたくて仕方がなかった。だが、お前を寵姫に迎えるにあたって、様々な準備がある。
お前の肖像画を眺め、恋しさに胸を締め付けられながら眠る夜がもう幾晩もないと思うと、公務にも身が入らない。お前は罪な女だ。
ユージェーヌ・シリル・デュ・トサン』
──なんて情熱的なお言葉を……。
メリザンドは頬を朱に染める。
多少の誇張表現はあるだろうし、代筆係がいるのかもしれない。
それでも、生まれて初めての恋文に胸がときめく。短い文面の中に、王の男としての気持ちがみっしりと詰まっている、そんな気がした。
しかし……実家にいた頃、肖像画を描いてもらった記憶はあるが、よもやそれが、王の手元に渡っていただなんて。
改めて、父はずっと以前からメリザンドを王に捧げるつもりだったのだと実感する。
メリザンドに厳しい教育を施したのは、成り上がり者の娘だと周囲に侮られないようにするためだとばかり思っていたのに。
そして、メリザンドにあまり華美な装いをさせなかったのも、他の男に目を付けられないようにするためだったのだろう。
父はお世辞にも子煩悩とは言えないひとだったが、身一つでのし上がった
──すべての説明をリュシアンさまに押し付けて。お父さまは卑怯だわ。
あらかじめ父から話をしてくれていたなら、メリザンドはリュシアンと険悪にならずに済んでいたかもしれない。
仮面夫婦と割り切って、一線を引いた付き合いができていたかもしれないのに……。
──過ぎたことを思っても、無駄よ!
せっかく恋文の余韻に浸っていたのに、いつの間にか思考が暗い方へ向かってしまっていた。
──わたしは、わたしを愛してくれる御方のところへ行くわ。成り上がり者の娘が国王に愛されるなんて、まるで劇のヒロインみたいで、素敵じゃない!
公式寵姫になれば、楽しいことだけではなく、辛いこともたくさん待っているだろう。もしかすると、すぐに飽きられてお払い箱になるかもしれない。
だとしても、精一杯頑張ろう。
父やリュシアンのためではなく、自分のために幸せを掴もう。
そう決意すると共に、ほんの少し感じる胸の痛みを、強引に奥へとしまい込んだ。
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