入道雲

生焼け海鵜

第1話

 入道雲があった。大きくて山みたいな、その雲は、平野の向こう側そんな場所にあった。

 私は、そんな雲を見つめて山の上、公園のベンチに座っていた。何も無い、開けた空間に置かれたベンチ。忘れさられたベンチ。


 今日は良い天気。何もかもが上手く行きそう。開けた視界に心地が良い風、燦々と降り注ぐ日光。これぞ夏と言える。

 ただ、そんな景色の下では、私は生きていけない。私は、もっと、暗く黒く、沼のような場所がお似合いだ。罪や悪。それを消し去る。そんな勇気もない。


 ただ、青い空と、白い雲、緑色の植物が視界に入るばかり。

 青い空は、青い海まで繋がっていて、境界線が交わる場所。そこに意識が飲み込まれる錯覚に私は陥った。


 視界が青で塗りつぶされる気分になる。

 青。青。青。


 青は良い色だ。何もかも、良い。

 青い鳥。青いお守り。思いつく全て、安心する様な物。


 やはり、そんな青の下で息をして、生命の刻を流す私は愚か者で、また情けない者。何か、良い所は、無いのだろうか、と思考を巡らせるものの、何も思いつかない。

 この眼球を赤に染めればいいだろうか?

 また、この緑色の元に埋まり、栄養となれば良いだろうか?


 私は、何か良い事は無いだろうか?


 空は青い。すごく青い。自分の、色も青い。

 どこか歓迎されていいる様に、拍手も聴こえた気がした。


 学校でも、一人。またネットでも一人。ここでも、動く生物は僕だけで、全てを支配した感覚にも陥る。でも、それが寂しい。それが、悲しい。それが、苦しく意識が遠のく。

 私は、結局は、この血液の流れを止め、消せばいいのだろうか?

 風は阻止する様に、私の頬を撫でた。


 気付けば、私の身体は、ブルーハワイの様に、青く半透明な物に成っていた。

 宙を舞う様に、身体が軽い。空にキスをされた気分。


 視界が青い。思考が青い。青。青。青。

 私の居場所は、ここだったのだろうか?

 心地よく、また安心する様な、空と一体のとなる空間。


 雲も私の中に出来て、雨を降らせた。

 気持ちを表すように、また今までの記憶を、溶かし流している様に。

 

 雲は大きくなった。それも”入道雲”みたいに。

 私は、緑に話しかけた。緑は私を欲しているから。無くては生きていけない。そう悲痛な叫びが聴こえた。


 私は、緑に向かい。雨を降らせた。

 具現化した悲しい雨を、貪り喰う緑。

 君は、それをどう視界に描いたのだろう?


 水は、美しい。それは飲み込まれる程に。悲しい。

 

 水は、キレイだ。それは、地球の血液。苦しい。

 

 水は、透き通る。それは、望遠鏡のように。寂しい。

 

 全てを知って、全てを知らない青。

 

 命を育む水。


 水を飲む君。水で出来た命を食べる君。そして、その水を汚す君。

 君はどう思う。君は、それを良いと思っているのだろうか?


 風が吹いた。台風だ。

 君が生成した台風かもしれない。

 温かい風が吹いた。温かく酸っぱい雨が降った。

 君は、それを”おかしい”と思って、何も事をせず見ていた。


 君は。君は。


 太陽が沈んだ。夜空が広がる。

 君は、夜空を見た。たたの黒い板。そう思いながら。

 君は、星が少ないとも思わず、夜空を見上げた。

 君自身が、消し去って、忘れた星。


 私は流れ星を見た。こう願った。人とは何か?


 波が立っている。

 飲み込まれた私。

 入道雲が怒りを説いた。

 雨を降らせた。

 君の目の前で。


 星は怒った。

 空気は泣いた。


 私の近く。コウモリが飛んでいる。

 貴方は言った。

「同じ、哺乳類なのに、酷いよね」と。そして続ける。

「同じ構造なのに、なんであれ程に愚かなのだろうか? いじめ。陰湿な感情。隠れた動作。見せたくない動き。なんて愚かな。なんて青な。君の血の色は青色なのかい?」


 空は青い。美しい。

 人間が青い。汚い。

 水に魚が泳いでいる。優雅に、泳いでいる。

 家で人が叫んでいる。愚かに、殴っている。

 青い鳥が、笑顔を見せた。

 汚い人が、企みを見せた。


 なんで、青。

 悲しい青。君は青。

 君も青。

 青。


 美しい青。汚い青。人は青。風は青。悲しい青。綺麗な青。海は青。鳥は青。


 何故? 何故?

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 私を、風は抱きしめた。安心させるように。空もまた不安そうに顔を覗かせた。


 風が吹いている。波が立っている。空は青い。


 人間は人間で、生まれ変わることは出来ない。

 君は、水を汚して、生きている。私は、君の気分を汚した。


 同じこと。なのに何故? 怒る。違和感をお覚える?

 同じこと。なのになんで?


 海は嘲笑した。包みこむように君の骨を折った。

 あはは。愚か。


 水が沸騰した。それは、青。

 ただ、ぷくぷくぷくぷく。只管に。


 私は青いでも、人。


 蝉が泣いている。カラスが笑った。トンボがため息を吐いて飛び去っていく。


 偽善。それは青い。悲しくも美しいそれ。それは青い。

 青い。青い。


 あはは。

 あはは。

 あはは。


 面白くない。ちっとも面白くない。

 風が囁いた。海は止めようと思った。


 青。青。青。



 青なんだ。


 青い空 飛び立つ魚潜る鳥

 皆が同様 水都 



 彗星が、溶けた空。

 それは、ただ何か。何か。何か。

 分からない。


 そうだ。サファイヤは笑う。

 死ぬのは何色? 何色? 何色?

 そう問いて。


 問いて解いて説いて溶いた。


 河が濁流になる。雨が降っている。降っている。

 何もない空間。そこに私が居る。

 居るだけなんだ。


 そんな色を私は見つめて、その存在を認めた。

 自身も青で、君も青。

 青い、色に染まって。君は見た。

 見た。


 色は何か。

 

 ねぇ、君はどう思う?

 君は、水を飲むでしょ?

 君は、水を使うでしょ?

 

 水に流され、溺れる私。

 空は微笑み、またその形を変形させている。

 水平線の向こう側、感情流れたその場所で。飲み飲まれた大きな鯨。

 オキアミ沢山産み落とし、人間笑う、目を瞑る。


 深海潜るオキアミ呑んで、涙流した大きな鯨。

 深海魚しんかいさかな、大きな鯨。

 オキアミ舞った、空気中。

 

 どこにでも、生きるオキアミを、探し探して、生きる人。

 オキアミ殺して、オキアミ産んで、君は知ってる化合物。


 元は生き物、オキアミを、作り使った愚かな人間。


 水は流れる、大地の体液。

 鼓動を刻み、広がって。

 オキアミ笑って、泳ぎだす。


 オキアミレジ袋のんだ海の亀。

 オキアミ釣り糸のんだ海の鳥。

 オキアミマイクロプラスチック貯めた海のヒレ


 オキアミ笑った失笑し。

 

 あはは、あはは。

 君は、何か出来る? 同じ種。同じ生物。連帯責任。否定できない。

 いじめなんてちっぽけだ。人の命ちっぽけだ。

 

 雨は降った。酸っぱい雨だ。緑枯れた。枯れさせた。

 ウイルス蔓延、地球綺麗。あはは。あははは。


 病気は勇者希望の光。

 

 空は青い。守りたい青。海は青い。守りたい青。

 でも、でも、見る人居なきゃ青じゃない。

 人の行動、見る海は穏やか笑顔、待った顔。

 仏の顔も三度まで。仏の顔も三度まで。


 飛んで火に入る夏の虫。飛んで火に入る夏の虫。

 人は分かった、未来景色。未来の景色。


 景色。景色。

 それは青であり、蒼である。

 碧とも言えるその色を、大切抱える人の子を。


 包んで見えた空と海。

 それは青だった。

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入道雲 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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