第8話
「う…ツグナさん、ギア!」
『…っ。そうだよね。決めたもんね』
俺は片腕にギアを装着する。ルノイもその中に吸い込まれるように潜り込んだ。
**ギア:モード謔ェ螟「
*
『はあっ…! う…ぐはぁっ』
「抵抗はやめろ。大人しくギアをその場に置け」
『嫌だ!』
絶叫。こんな声が出るものかと、自分でも驚いた。
頭にギアを突き付けられる。この距離から発砲されれば、俺の命はない。
一体何人倒して、一体何人殺したのかもうわからない。正直これ以上動けそうになかった。
それでも俺は抵抗をやめたくないのだ。
『ルノイは…ころ、させ、なっ…ぐ…ぅ』
視界が白く染っていく。
*
「ツグナさん」
気が付くと、目の前にこどもが立っていた。
『メイ…?』
いや、違う。
「ルノイ。僕はルノイだよ」
『ルノイ?』
「そう。メイさんじゃない。僕はルノイ。グロテスク。…だから、ツグナさんが命をかける必要はないんだよ」
『ある…』
「同一視してただけだよ」
『してない』
「してた」
『…』
「ねぇ、もう諦めよう。僕は最初から、諦める時は諦めようって思ってたし」
『嫌だ』
「別に僕が死ぬだけだよ」
『それだけは嫌だ』
「今降参すれば、ツグナさんは捕まるだけで済むかもしれない」
『君はそれじゃ済まない。俺は君と生きたい』
「そうか。…僕もだよ」
こどもは俺の頬を撫でて言った。
「君が選んで」
カツン、と音がして、俺の目の前に、小瓶が転がる。
あの時の、餞別の小瓶だ。
ルノイが、持ってきていたのか…?
『ルノ…』
急激に視界が色を取り戻していく。
*
「早く降伏しろ」
俺は、ギアで頭を揺すられていた。一体どのくらい放心していたのだろうか。
ふと、目線を下にやる。…そこにあるものを見て、俺は意識が大きくぐらつくのを感じた。
『瓶…』
俺はそれを手に持つ。
──戻る確率は
──ほぼ無いわ
心と体が死ぬか、心だけが死ぬか。
殺されるのを見ているか、俺が殺すか。
──君が選んで
悲しげなルノイの笑みを思い出す。
やっぱり、俺の初恋のひとによく似ていた。
彼女が死んだ時。
俺は彼女が世界に殺されるのを、ただ見ていた。何も出来なかった。
『…はっ。ほぼ、か…』
その言葉を口にした時点で、俺の心は決まっていた。
『──ルノイ』
【うん。ありがとう、ツグナさん】
ギアから抜け出て、人の形を取り戻したルノイは、俺に差し出されるままにグロテスクの結晶を口に含んだ。
「もう二人じゃなくなっちゃったけど…ずっと一緒だよ、ツグナお兄ちゃん!」
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