第8話

「う…ツグナさん、ギア!」

『…っ。そうだよね。決めたもんね』


 俺は片腕にギアを装着する。ルノイもその中に吸い込まれるように潜り込んだ。


**ギア:モード謔ェ螟「



『はあっ…! う…ぐはぁっ』

「抵抗はやめろ。大人しくギアをその場に置け」

『嫌だ!』


 絶叫。こんな声が出るものかと、自分でも驚いた。

 頭にギアを突き付けられる。この距離から発砲されれば、俺の命はない。


 一体何人倒して、一体何人殺したのかもうわからない。正直これ以上動けそうになかった。

 それでも俺は抵抗をやめたくないのだ。


『ルノイは…ころ、させ、なっ…ぐ…ぅ』


 視界が白く染っていく。



「ツグナさん」


 気が付くと、目の前にこどもが立っていた。


『メイ…?』


 いや、違う。


「ルノイ。僕はルノイだよ」


『ルノイ?』


「そう。メイさんじゃない。僕はルノイ。グロテスク。…だから、ツグナさんが命をかける必要はないんだよ」


『ある…』


「同一視してただけだよ」


『してない』


「してた」


『…』


「ねぇ、もう諦めよう。僕は最初から、諦める時は諦めようって思ってたし」


『嫌だ』


「別に僕が死ぬだけだよ」


『それだけは嫌だ』


「今降参すれば、ツグナさんは捕まるだけで済むかもしれない」


『君はそれじゃ済まない。俺は君と生きたい』


「そうか。…僕もだよ」


 こどもは俺の頬を撫でて言った。


「君が選んで」


 カツン、と音がして、俺の目の前に、小瓶が転がる。

 あの時の、餞別の小瓶だ。


 ルノイが、持ってきていたのか…?


『ルノ…』


 急激に視界が色を取り戻していく。



「早く降伏しろ」


 俺は、ギアで頭を揺すられていた。一体どのくらい放心していたのだろうか。


 ふと、目線を下にやる。…そこにあるものを見て、俺は意識が大きくぐらつくのを感じた。


『瓶…』


 俺はそれを手に持つ。


 ──戻る確率は

 ──ほぼ無いわ


 心と体が死ぬか、心だけが死ぬか。

 殺されるのを見ているか、俺が殺すか。


 ──君が選んで


 悲しげなルノイの笑みを思い出す。

 やっぱり、俺の初恋のひとによく似ていた。


 彼女が死んだ時。

 俺は彼女が世界に殺されるのを、ただ見ていた。何も出来なかった。


『…はっ。ほぼ、か…』


 その言葉を口にした時点で、俺の心は決まっていた。


『──ルノイ』

【うん。ありがとう、ツグナさん】


 ギアから抜け出て、人の形を取り戻したルノイは、俺に差し出されるままにグロテスクの結晶を口に含んだ。


「もう二人じゃなくなっちゃったけど…ずっと一緒だよ、ツグナお兄ちゃん!」

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