グロ×ギア

長月ゆん

第1話

「やっとお目覚めか?」

 タコの出来た手に珈琲を持った、違法改造屋の店主が机に伏す俺に声を掛けてきた。

『眠ってません』

「そうらしいな。でも、隣の姫様はぐっすりだぜ」


 その言葉で思い出した。俺はこどもを連れている。

『この子は……ルノイは男です』

「そいつ、ガキだろ? しかも“グロテスク”の。スライムに、男も女もねぇよ。そんなことより」

 ほらよ、と差し出されたそれを受け取る。

「あんたの“ギア”。修理完了バッチリだ」


 ギアを装着する。手の甲から肘までが、硬くて冷たい機械に包まれた。この重みが、恋しかった。

 電源ボタンを押して起動する。すると、小さな穴から光が溢れ、ウィンドウが作られた。情報が浮かぶ。


──

ツグナ・カドムラ

年齢:18

所属:ジャスティス

階級:F

各属性の使用が認められていません。

──


「本体は何とかなったんだけどな。階級ばっかは直せなかったよ。ああ、これ以上チップを積まれても無理だな」

 先手を打たれた。言う文句をなくして、ギアの電源を落とす。


「あんた、元の階級いくつだったんだっけ?」

『…C』

「そりゃご愁傷さま」



「とうとう捕まると思ったら、まさか助けを求めてくるとはな」

 眠るルノイを背負った俺を、その言葉が引き留めた。

「盲信的だったあんたが」


『何ですか』

 振り向くと、店主がニヤと笑った。

「ヒトは時に、思いもよらない変化を遂げるものだなってさ」


 馬鹿にされている。そう思ったが、背中のそれを思い出して俺は黙った。俺は再び背を向けた。

「改造レシピを教えてやってもいいぜ。お代はネット経由で。連絡はそのギアから」


 勝手に通信機能を付けられたらしい。


『検討します』

「まいどあり。応援してるぜ。正義の裏切り者くん」



「あの店主、面倒くさそう。ツグナさんには悪いけど寝たフリをしててよかったよ」

 店から離れて少しした場所で、ルノイは勢いよく俺の肩から顔を上げた。


「僕を姫様だって。男も女も変わらないって。変わるさ。どっちでも良かったら、わざわざ男になんてならないって」

『…君は男だよ』

 噛み合わない答えに、ルノイは少しの間黙った。


「もしかしてそれって、自分に言い聞かせてる? 僕があの子じゃないってことを」


 図星だった。

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