グロ×ギア
長月ゆん
第1話
「やっとお目覚めか?」
タコの出来た手に珈琲を持った、違法改造屋の店主が机に伏す俺に声を掛けてきた。
『眠ってません』
「そうらしいな。でも、隣の姫様はぐっすりだぜ」
その言葉で思い出した。俺はこどもを連れている。
『この子は……ルノイは男です』
「そいつ、ガキだろ? しかも“グロテスク”の。スライムに、男も女もねぇよ。そんなことより」
ほらよ、と差し出されたそれを受け取る。
「あんたの“ギア”。修理完了バッチリだ」
ギアを装着する。手の甲から肘までが、硬くて冷たい機械に包まれた。この重みが、恋しかった。
電源ボタンを押して起動する。すると、小さな穴から光が溢れ、ウィンドウが作られた。情報が浮かぶ。
──
ツグナ・カドムラ
年齢:18
所属:ジャスティス
階級:F
各属性の使用が認められていません。
──
「本体は何とかなったんだけどな。階級ばっかは直せなかったよ。ああ、これ以上チップを積まれても無理だな」
先手を打たれた。言う文句をなくして、ギアの電源を落とす。
「あんた、元の階級いくつだったんだっけ?」
『…C』
「そりゃご愁傷さま」
*
「とうとう捕まると思ったら、まさか助けを求めてくるとはな」
眠るルノイを背負った俺を、その言葉が引き留めた。
「盲信的だったあんたが」
『何ですか』
振り向くと、店主がニヤと笑った。
「ヒトは時に、思いもよらない変化を遂げるものだなってさ」
馬鹿にされている。そう思ったが、背中のそれを思い出して俺は黙った。俺は再び背を向けた。
「改造レシピを教えてやってもいいぜ。お代はネット経由で。連絡はそのギアから」
勝手に通信機能を付けられたらしい。
『検討します』
「まいどあり。応援してるぜ。正義の裏切り者くん」
*
「あの店主、面倒くさそう。ツグナさんには悪いけど寝たフリをしててよかったよ」
店から離れて少しした場所で、ルノイは勢いよく俺の肩から顔を上げた。
「僕を姫様だって。男も女も変わらないって。変わるさ。どっちでも良かったら、わざわざ男になんてならないって」
『…君は男だよ』
噛み合わない答えに、ルノイは少しの間黙った。
「もしかしてそれって、自分に言い聞かせてる? 僕があの子じゃないってことを」
図星だった。
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