生まれ変わって、あさが来た

目爛コリー

プロローグ

プロローグ

 人生の幸福の形を問うと、彼は恥ずかしげに顔を逸らして「子供が欲しい」と言った。

 そんな彼を愛おしく思った。やっぱりこの人と一生を添い遂げたいと思った。だからひまりは彼の横顔に微笑みかけるように言った。

「いいよ。子供、作ろっか」

 きっとひまりの頬も真っ赤に染まっていたのだろう。じわじわと血が昇って行く感覚が自分でも分かった。そんな表情の機微を、夜の闇が包み隠した。

 彼は目を向こうにやったまま、顔を合わせようとしない。少し考えるように黙ってから、視線を窓の向こうに向けた。

 今日は豪雨と共に雷の降る夜だった。町は光を失っていた。でも、そんな轟音すらかき消す愛が二人を覆っていた。

「うん、分かった」

 しばらく間を空けて彼は小さく頷いた。いつもひまりを引っ張ってくれる姿とは異なる一面を覗かせた。

 不意にこうして愛が深まっていくのだと実感した。

 あの頃の自分には絶対に分からない。子供であることが嫌で、大人になることも怖かった。そんな自分が彼を見て、自分も子供が欲しいと思ったのだ。大分気が早いが親になった気でいた。

 彼がいつまでも窓の外の雷雨を見ているから、じれったく思ってひまりの方から彼の首元に手を置いた。

 じっと目を合わせる。

 いつもは格好いい彼が、今は可愛く見えた。

 そして、ゆっくりと唇を近づけた。

 少し乾燥した唇。しかし確かな温もりを感じる。


 幸せとは、今みたいな時間のことを言うのだろう。

 あの問いの答えは未だよく分からないけれど、今が幸福であるとは思った。

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