第5話 ちょみん(庶民)
あれから更に6ヶ月が経ち、妾はあと少しで1歳になる。
盗賊達を倒してからも、ミアナとコルネと3人で、同じ庶民の家で暮らしている。
ただ、あれ以降、家の周りに常に人の気配があった。
ダリアに聞いたところ、盗賊が押し入ったことで兵士達が警備をしてくれているのだという。
正直、今の器では妾の神力の1%も使えないため、裏にダリアがいて色々教えてくれるのは助かる。
それにしても、庶民の家を守るのにこれだけ兵士を回してくれるとは、この国は良い国なのかもしれぬな。
『そう言えば、ま、ま、マーベリアスだったか?あやつはそのままでよかったのか?』
『大丈夫です。マデリアはあの後直ぐに死んでいます』
『ほう。自害か?』
『いいえ。愚かにも眩耀神様に呪いをかけてきたのです。もちろん、眩耀神様に呪いなど効きませんので、マデリアに跳ね返り、死んだのです』
『まったく愚かじゃな』
『それにしても、今日はやけにミアナとコルネが忙しないのー』
ダリアと念話している際中も、2人は右へ左へと荷物を運んでいる。
妾は柵が付いている赤子用のベッドに寝かされているが、この程度ならば簡単に抜け出せるのだ。
抜け出して、何をしているのか問い詰めなければ。
とちとち(歩いてる音)
とととと(走っている音)
どうじゃ?
この6ヶ月で走れるようになったのだぞ。
「まあまあ、リリーナ様。また抜け出されたのですか?」
「はははっ、リリーナ様がお元気そうで爺は嬉しゅうございます」
『お前達は何をしているのだ?』
《現実:なに、ちてりゅ?》
走れるようになった妾だが、器の所為か、喋りだけはなかなか向上しない。
「リリーナ様。今日はお引越しでしゅよー」
『引越しだと?庶民のくせに?』
《現実:ちっこし?ちょみんにょ?》
「そうですよ、リリーナ様。受け入れ先を準備するのに時間を要してしまいましたが、今日からはウォード家に滞在するこになります」
『ダリア。ウォード家とは何だ?』
『はい。この世界で貴族位最高ランクのAを爵位されている家です』
『貴族??偉いのか??』
『はい。この世界で貴族は地位の高い人間です』
『人間を体験するなら、庶民の妾は少し大人しくしていた方がいいかの?』
『•••。いいえ、眩耀神様の方が、もっともっと偉いのです。謙る必要は、全然、ない、のです』
『それもそうじゃな。妾は神より偉いのだからな』
《危なかった、です。王族がへこへこするのは、よくないです、もん》
ダリアと話している間も、ミアナとコルネは黙々と荷物整理を進め、最終的に10個の木箱に全部収まったようだ。
この2つしか部屋がない庶民の家とはいえ、木箱10個分は少ない気がする。
もしや、お金がないあまり、更に狭い家に引越しするのに必要最低限な荷物は廃棄してしまったのでは•••?
いやはや、庶民は大変だな。
いずれは妾も仕事なるものをして、働き、賃金を稼がねばならん。
冒険者なるものがあるそうだから、そこで働けばよいかの?
妾が考えごとをしていると、外が慌ただしくなり、家の扉がノックされた。
妾が扉の方を見ると、そこには身なりの良い服装をした男とコルネが話しをしていた。
男の後ろには、白い鎧を身につけた兵士もいる。
兵士が何用なのだ??
そう思っていると、兵士達が部屋に入り込み、木箱を次々と外に運び出す。
こやつらは、引越し屋なのか?
「さあ、リリーナ様。お引越しですよ」
訝しんでいる妾に、コルネはいつもの笑顔で話しかけてくる。
「リリーナ様。抱っこちまちゅね」
ミアナも笑顔で話しかけ、妾を抱き上げた。
ミアナに抱っこされたまま家の外に出ると、そこには青空が広がり、少し離れた場所から幾つもの家が集まり、人間の姿もあった。
考えてみれば、妾がこの家から出るのはこれが初めてだ。
家には小窓がひとつしかなく、まともに外の景色を見ることもなかった。
『ほう。これが人間の世界か』
《現実:とー、ちょちぇがちぇかい》
「リリーナ様はお外が初めてでちゅもんね。これからたくしゃん、見て周りましょうね」
そう話すとミアナは妾を抱っこしたまま、奇妙な箱に入っていく。
箱には輪具が付けられ、前には馬が繋がれていた。
『ダリア。なんじゃこれは?』
『はい。馬車といわれる移動手段です』
『移動手段?タクシーではないか!!』
『た、タクシーをご存知なのです?』
『ダリアの漫画に出て来ていたからな。にしても、タクシーには金が必要だったが、庶民に払えるのか?』
『•••。げ、眩耀神様は、今は子供なんですから、お金の心配をしてはいけません、です』
『そういうもんかのー』
そうこうしている内に、妾とミアナ、コルネと最初にコルネと話していた男の4人を乗せ、馬車は動き出した。
金が足らなくても、知らんぞー。
馬車の中ではミアナとコルネが外の景色を見ながら妾にニコニコしながら話しかけてきた。
その間、一緒に乗り込んだ男がずっと妾を凝視している。
コルネが男をリカルドと呼んでいたが、引越し屋のボスなのか?
それにしも、外を見ていると街路の横を白い鎧を身につけた兵士?引越し屋?が壁のように立っている。
その兵士の後ろには、身なりから庶民と分かるものが大勢こちらを見ていた。
『ダリア。この騒ぎは何なのだ?』
『えっと、です•••。お、お祭りなの、です』
『祭りとは、あの屋台なるものがでる、あのことか!?』
『•••はい、です。お祭りで人が大勢いるので、兵士達が警備をしているの、です』
『なるほどのー』
《ふう〜、です。本当は、眩耀神様、いえリリーナをウォード家に送るための護衛なの、です。リリーナを一目見ようと、庶民が集まっているの、です》
しばらく祭りの警護をする兵士達の間を進むと、急に馬車が止まった。
ミアナとコルネも何があったのか把握しきれていないようで、外を頻りに確認している。
「無礼ものーー!!」
男の怒りに満ちた声がそこら中に響き渡った。
その声を聞いたリカルドは馬車を降りて行った。
「王女様の進行の邪魔をするとは、不敬だと承知の上かーー!!」
「も、申し訳ありません。本当に申し訳ありません」
馬車の中にはリカルドが誰かを叱責する声と、誰かが謝罪するような声が聞こえる。
その声を聞いたミアナとコルネは、暗い表情で、唇を噛みながら俯いてしまった。
ふむ
ちょっと行ってくるかの
どうせ、祭りで酒とやらを飲みすぎたのだろう
「リリーナ様。行けません」
妾を慌てて止めようとするミアナとコルネに構わず、馬車の扉を開けた。
とちとち(歩いてる音)
とととと(走っている音)
馬車の先頭に行くと、そこには兵士達に剣を向けられ、リカルドに睨まれている女と子供がいた。
「リリーナ様•••。早くお戻りください」
『妾に命令するな!!』
《現実:たいの、ちゅるな》
「•••」
リカルドを黙らせた妾は、女と子供の傍に近づく。
すると、その場に手を付き、何やら慌てた様子で話してきた。
「姫様。本当に申し訳ありませんでした。息子が馬車の前に飛び出してしまい、私達のような庶民が進行を遮ってしまったのです」
『なんじゃ、お主は庶民なのか?』
《現実:ちょみんなの?》
妾の発言の後、何やらその場の空気が一変した。
周りからは「庶民だからと、罰が与えられるぞ」と言ったような声が囁かれ、目の前にいる女と子供は真っ青になって震えていた。
『庶民ということは、妾と一緒じゃ』
《現実:わたちもちょみん。いっちょ》
慌てて顔を上げる女と子供は、首を横に振って否定する。
「滅相もありません。私達のような庶民が姫様と同じだなんて」
姫様?
妾はダリアに姫様と呼ばれたこともあるのー。
もしやこの女と子供は、妾はが庶民ではなく、神よりも偉い悪神なのだと勘づいているのではないか?
なるほど、なんと殊勝な心がけじゃ。
だがな、今の妾はお前と同じ庶民で人間なのだ。
だから、そんなに頭を下げずとも良いのだぞ。
『今の妾は、庶民であり、お前と同じ人間だ』
《現実:わたちもいっちょ。おなじ、にんげぇん》
「あ、あ、あ•••。神様•••」
女はその場で祈るような体勢になり、そう泣きながら呟いた。
その瞬間、周りにいた大勢の庶民から拍手と喝采が送れたのだった。
やはりあの女、妾が神だと見抜いておったか。
《違います。けど、騒ぎが落ち着いたので、これはこれで、よし、なのです》
★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★
本作は以下作品と繋がりがあり、こちらでも眩耀神様、神様シン、マリー(主人公)が登場します。
お暇な時に是非、読んでみて下さい♪
また、もしよければ、感想や★でこの作品に反応いただけたら嬉しいです♪
こういった作品は初めてですので、皆さまの反応で、何話まで書くか決めていきたいと考えています。
【作品名】
神様を脅して6,000のスキルを貰い、魔神からも威圧スキルを貰って、転移された異世界を幸福度上位の世界にノシあげる。
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