訳あって旅行する事になったのだが、毎晩届く幼馴染からのビデオメッセージが可愛いすぎてヤバい

綿宮 望

第一話



それはあまりにも突然だった。

「えー!」と驚きの声が部屋中に響き渡ったのは、大学から帰宅してからしばらくの事。


「旅行しちゃうの!?」


──私を置いて?


耳にキーンと響く少女の声。

なんとも可愛らしい声だろうか。

癒させるボイスだ。

しかし、少女──大原 紗奈の言葉には少々語弊があった。


「旅行じゃないよ」


彼女を落ち着かせるように、ゆっくりとした声で伝える。

おそらく無駄だろうと思うながら。


「出張だよ。 出張。 旅行じゃない」


「でも……お泊まりするんでしょう?」


「……」


なんとも痛いところを突く。

しぶしぶ「うん」と小さく頷けば、紗奈は「やっぱり……」とプクッと頬を膨らませていた。


「やっと夏休みが始まろうとしているんだよ?」


「うん」


「夏休みは遊ぼうって約束したよ?」


「うん」


「約束を破って、お泊まりに行くの?」


「サークル行事の一環だからね……断る訳にはいかんのよ」


ちなみにサークルプロジェクトの期間はおおよそ1週間。

派遣先は関西の方である。


「分かるよ……」


指をツンツンさせて、ショボンとする彼女。

なんとも可愛い表情だろうか。


「せっかくお兄ちゃんと同居してから初めての夏休みなのに……」


ボソッと呟く幼馴染。

ついつい「申し訳ないな」と罪悪感を感じてしまう。

これも彼女の魅力なのだろう。

僕はどうすることも出来なかった。


そもそも、異性の身でありながら、同じ家を共有している。

同棲相手である紗奈とは、僕が小学生からの仲。

いわゆる幼馴染の関係だ。

歳こそは違うのものの、出会った頃からずっと仲が良く、まるで本当の兄妹みたいな関係だった。

実際に本当の妹もいるが、あの子よりも仲が良かったと思う。


「しかし、ね……」


「どうしたの?」


「いや、よくおばさんも許してくれたよね」


今でも完全には信じられない。

男女七歳にして席を同中せずとは言うものだが、今の状況は少々まずい状況であろう。

僕は大学1年で、紗奈は中学3年生。


……明らかにアウトだ。


性犯罪者?

ロリコン?

周りにバレなら社会的に終わるかも。


確かに、一緒に公園で遊んでいた子供の頃は「大人になったらいつかは結婚しよう」などと言っていたけどね?


「お母さんはお兄ちゃんなら信頼出来るって言ってたし、私もお兄ちゃんは信じているよ?」


「そっか……」


それはありがたいことだ。

彼女は家庭的でとても優しい。

しかも、かわいい。

まさに女神のような少女である。

自分でもよく今まで親しい関係を維持出来ていたなと思う。

異性でしかも年齢も異なる。

趣味や価値観だって大きく異なるだろう。

それに、彼女だってもうすぐ高校生。

そろそろ彼氏の1人だって居てもおかしくない年齢だ。


彼女の性格ならすぐに出来るだろう。

もちろん、僕の厳格な審査はあるだろうが。


「でも、私を置いて旅行に行くお兄ちゃんなんて知らないよ」


「……」


それはさておき、今はやらなければならない事があった。


「大丈夫だよ。 向こうでも毎日電話するから」


そう言って、不貞腐れている幼馴染を宥めようとする。

しかし、彼女に効果は無かったようだ。


「夏休みは小雪ちゃんと3人でずっと遊ぼうって言ったのに……」


頬を更に膨らませると、彼女は「ばかっ!」と一言。

僕に「あっかんべー」とすると、そのまま部屋に帰ってしまった。

ちなみに小雪とは僕の妹である。

歳は1歳差で、僕と同じように紗奈とも仲が良かった。


「……」


沈黙が部屋を包む。

出張って来週なんだよな……。


「ああ……」


伝えたいことは山ほどある。

帰ってきた後の夏休みの計画とか、僕が居ない間に誰が面倒を見るとか。

だから、その為には彼女を納得させないと。


「でも……」


どうしよう。

誰も居ない部屋で僕は頭を抱えるのだった。

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