頂点捕食者のヒトは食物連鎖内の位置を再認識する~絶対、生き残ってみせる!~

宗像 緑(むなかた みどり)

第1話 猛禽(もうきん)類

『臨時ニュースです!養鶏場の鶏が次々と脱走している模様です』


アナウンサーは急遽手渡された紙の一枚に目をやる。


『少々お待ちください! 牧場の牛と豚、馬等も脱走している模様です!』


……


 人間はSDGs(持続可能な開発目標)などと言いながらも環境を汚染し続けた。自分たちが地球においての弱肉強食の頂点だといわんばかりに……


 畜産、放牧、養殖、動物園、水族館、ペット飼育。


 汚染物質は空気と混ざり散漫し、雨に混じり地球の地表に拡がる。

 その汚染物質は厳密には人間に無害な物質だったので、全く気にされていなかった。しかし、それは動物たちにとっては有害で変異原ミュータゲンだった。


 変異原が動物の体内で蓄積していく。


 必然のように突然変異ミューテーションが起きる。


 変異原の吸収量が多い順に……


 鳥類。陸の動物、海の生物。


 食物連鎖の頂点捕食者から人間と同等の知能が生まれる。


……


 猛禽もうきん類は、寿命が長いことから有害物質が体内に溜まりやすいという特徴がある。有害物質は、食物連鎖の段階を経るごとに、生物体内で濃度が増していくのだ。


 一羽の鷹は考える。


 地球上で最も狩りがしやすく、肉も多く栄養価の高い食べ物を。

 彼らは人間の生活に順応し、都市部でも鼠等を狩るようになっている。既に人間の身近に存在し、共存を遂げているのだ。

 そして次第に人間のコスパの良さに気付く。身体の大きさ、太り具合、危険認知の低さ。


「キーキューキー」

 一羽の鷹は自分の考えを共有し仲間を集める。


 十羽で同時に人間を攻撃してみることにした。   

 

 森林公園で散歩をしているカップルの男が不意に上空を眺める。黒い何かがこちらに向かってきた次の瞬間。

「うわっ! なんだよっ、急に! 痛っ、痛いっ!」


 鷹は、屈強な脚で男性の首もとにしがみつき嘴で顔面を攻撃する。もう一羽は頭部を攻撃する。


 周囲の数名は逃げたが、この獲物は逃すまいと次々に飛び付き、嘴攻撃を続ける。一羽が掴む力が強いあしゆびで頭蓋骨を割った。


 試しに鷹は人間を捕食してみた。


『つ、つぎのニュースです! 鷹が人間を襲って連れ去ったようです。皇居外苑周辺の方はお気をつけください』

アナウンサーの額に汗が垂れる。


 鷹は人間一人を捕食すれば一週間は食べ物に困らないことに気づいた。


『また、鳥害が発生したようです。狩猟団が正式に対応する模様です! 千代田区全体に警戒アラートが発表されています!』


 人間は猟銃で駆逐を試みる。一羽の鷹が打ち落とされたが、周囲の鷹はその死で気づいた。あれが直線的にしか向かってこないことを理解する。


 鷹は、上下左右ランダムに身体を移動しながら狩猟団に向かっていく。


 狩猟団は次々に捕食されていく。


『そ、速報です! 狩猟団では歯が立たず、多くが連れ去られた模様です!』

アナウンサーが着ている服の脇部分が変色している。


 人間は逃げまどう。


『各地で鳥害が確認されていますっ! 外出にはくれぐれもお気をつけください! 空をなるべく見て対処を!』

アナウンサーの机の上には、紙面が乱雑に並ぶ。


……


 結果、人間たちは毎日傘のようなアイテムで空からの攻撃に備えるようになった。


『また、東京都で鷹警報が出ています。外出されるかたはタカブレラを忘れないように気をつけて外出してください!』


 タカブレラは強靭な布でできており、乱反射して鷹を寄せ付けないアイテムだ。


 鷹はまた考える。何も上空から急降下して人間を捕食する必要はない。超低空飛行で捕まえればいいのだ。


 「キーーーキューーー」

 鷹の鳴き声がまっ暗な空に響き渡る。


『最近、墨田区で多くの鷹目撃情報が報告されていますので、特に気をつけてください! その他の地域の皆様もタカブレラの新作にて対応した方が安全です! また小さなお子様は特に一人で外出させないようにしてください!』


 鷹警報が天気予報のように、ニュースや電光掲示板で案内されるのが日常になった。


 鷹は鉄塔で嘴と爪を研ぐ……

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