第16話 国王の日常3

 ミカエレは普段から派手な姿が好きだ。着る服は常に特注品。町の服屋を無理矢理屋敷に呼び出し作らせている。また必ず金色を使っている服を好む。自身の髪色が金髪だからそれに合わせたいとか。また最近のマイブームは宝石が付いた赤いマントを付けること。そして金色と銀色で作られ、持ち手に宝石が散りばめられているステッキを持っていることが多い。とにかく派手だ。町を歩けばすぐに国王だと皆気が付く。

 余談だが。銀色を好むのはミカエレ自身の眼の色が銀色と自称しているからである。ちなみにミカエレの目を間近で観察できるものが居たらこう言うだろう。


「単なるグレーですね」


 でもミカエレの周りにそんなことを言うものは1人も居なかったので、彼は最期まで自身の眼は銀色と思っているのだろう。

 

 ◆


 ミカエレの屋敷は、前国王が作った屋敷である。広大な土地に出来る限り豪華な屋敷を建てていた。だがミカエレは前々から思っていた『中が地味。全然金色銀色がない』と。そのため今はミカエレが自由に使うことが出来る屋敷は、内も外も金銀であふれている。はじめての者が屋敷に来ると、眼がチカチカすることだろう。そして全く落ち着かない空間である。でも、そんな中でミカエレは生活をしている。これが彼の求めた空間なのだから、彼はとっても満足している。

 ちなみに屋敷では多くの人が働いている。タイカが集めた町の人だ。もしミカエレが集めていたら――『何で金なんてお前たちに払わないといけないんだ?』などと言うことを言うだろう。でもタイカが間に入っていることにより。ここで働く者は少ないなりにもちゃんとお金が入る。そしてミカエレのご機嫌取りをしていれば……なので、今のところ屋敷では問題なく日常が回っている。それは国王補佐タイカ、カイアがもし不在の時でもである。タイカの活躍が光っている。ミカエレは知らないことだが……まあでもミカエレが問題児なのでトラブルは良く起こる。


「今日の料理はまずい。料理長を変えろ」

「掃除をした奴は誰だ。くすみがあるぞ。すぐに追い出せ。そして新しい奴を雇え」

「話し声が聞こえたぞ。俺の邪魔をする奴はこの屋敷にいらない。出ていけ」


 屋敷内の人はコロコロ。ホントコロコロ変わっている。人材を集めているタイカの労力はすごいことになっているが――でもタイカは文句一つ言うことなく。忠実に動いていた。

 ちなみにミカエレ。身の回りのことは何もできない。本当に何もできない男だった。もしタイカが居なければ――すぐにでも飢え死にしていたであろう。余談だが、一方でタイカは超万能人だったりする。


 屋敷内での問題視。それはもちろん外でもである。


「おお、町に新しい店が出来たのか。タイカちょっと見て行くぞ」


 ミカエレはぶらりと町に出ることがあった。そして気になればお店に入る。これは前国王もそうだったので、こういうことがあるのは町の人は知ってはいたが――今はミカエレが来たら店主たちは緊張感マックスである。


 例えば飲食店。町の中でお店の出していたところにミカエレが入った。その数十分後――「この店はマズイ」「接客がなってない」ちょっとでも気に入らないことがあれば「テミスの町にこんな店はいらない。消せ。追い出せ!」そんな命令が下る。そのすぐ後に店は跡形もなく。ということはよくある。この跡形もなくなるというのは、消せというのはミカエレがその建物すら見たくないという事のため。建物ごと無くなる。ここで不思議な力のあるタイカの出番である。一夜にして建物を破壊するのだった。

 そうそうまた逆もある。ミカエレに気に入られると「明日から屋敷に働きに来い」というパターンもある。これはこれでお店を閉めることになってしまうので――もう店主たちは来ないでくれが本音だろう。


 テミスの町は大きく。人も多いため。お店を出すにはとってもいい場所。だが――もし国王に目を付けられると――という場所でもあった。


 ちなみにもう一つ。国内の珍しいものを扱う雑貨店をテミスの事を知らない。国王の事を知らない田舎出身者が作ってしまったという事が以前あった。その際は……。


「ほう。こんなものがあるのか。店の物を全て俺にでよこせ」

「何を言うんだ。誰か知らんが。そんなこと出来るわけない。ふざけているなら出て行ってくれ売るものはない」

「ほう、お前。俺が誰か知らないようだな」

「……」


 ミカエレの後ろで付き添っていたタイカが頭を抱えていたのは――言うまでもない。

 たまに他の町から、テミスで成功すれば大金持ち。という噂を聞きつけ出稼ぎで来た人がお店をポンと出し。たまたま国王が来店。ということになると。他の町の者も国王が住んでいるということは知っているが、顔を知らないこともある。だからなんか派手な奴が来た。という感じで追い返そうとすることがあるのだが……。だがそれはお店を消す。などではなく。自身の死を意味する。


「タイカ。剣を貸せ」


 その後は説明するまでもないだろう。


 これはミカエレという国王のまだまだほんの一部分である。補佐に手を汚させることもあるが――怒り狂えば自分で普通に手にかける国王だ。



 ミカエレのやりたい放題は年々悪化していった。

 

 例えば、テミスの町では昔から定期的にお祭りがあった。収穫を祝う祭りなどいろいろな祭りがあり。町の人が楽しみにしている行事の1つである。それはミカエレも一緒で祭りにはしっかり顔を出していた。だが――。


「町の祭りで、俺以外が目立っていいと思っているのか?俺が居るから祭りが出来ているんだ。俺以上に目立つ奴がいていいと思っているのか!」


 揉め事ばかり起こしていた。

 町の祭り期間は町中が賑やかで、お店を出すものも居れば、ちょっとした広場で自分の特技を披露する者もたくさんいた。そしてテミスの町は広い。だからこれは運が悪かった。ということになるのかもしれないが。自分の特技で踊りや演奏をしていた者がいて、それをたまたま目にしたミカエレが……ということが度々起こっていた。

 ちなみにミカエレは踊りも演奏も全くできないが――。

 さらにさらに、祭りなどでぶらりと町に出た際。一目ぼれした女性に対しては。


「綺麗な女だ。明日から屋敷に来い。いや、今すぐに来い。おい、誰かこいつを捕らえて屋敷に連れていけ」


 そんなことをするのは日常茶飯事だった。そのためテミスに住む人達の間では、国王の動向はよく噂で広がっていた。なので被害を被っているのは、テミスに来て日が浅い人がほとんどである。

 

 さらにこの国王。自分が正しいと思っているため。タイカなどから上がってくる国内の情報などに関しては……。


「——という報告がヨイキテンツチッカの者からあがってきております」

「町の中で物が無くなることが最近多いから調査するために人員を?」


 ミカエレは一応。ホント一応。仕事もしているのだが……。


「あっちの奴らは全くわかってないな。馬鹿ばっかだろ」


 足を組みながら座っていたミカエレは報告をして来たタイカに対して次のように命令した。


「いいか?犯人はな。教育がなってないガキだ。ガキが悪いんだよ。タイカ。ヨイキテンツチッカには、ふらふらしているガキが集まるところがあるんじゃないか?調べろ」


 命を受けたタイカはすぐに調べる。そして――たまたま今回はあってしまった。


「報告します。ヨイキテンツチッカにはそこそこの規模の孤児院はあると――」

「ほら見たことか。タイカ。そこが原因だ。俺レベルになるとわざわざ足を運ばなくとも問題を解決することが出来るんだ。向こうの奴に伝えておけ。タイカ。伝えついでに、即始末して来い。そうだな。大事になるように――誰も生かすことなく。燃やしておけ。そうすれば町から物が無くなるということは起こらん。上手くいけば国中に示せるからな。教育がなってないガキなどいらないと。そうだ。学校でも作ればいいんじゃないか?そうだ。そこで金をさらに集めれるな。タイカ。そっちもしておけ」

「——はっ」


 タイカは顔色一つ変えずに命令の通り動く。



 ちなみに、この時ヨイキテンツチッカで物が無くなるという騒動が起きた原因は――ミカエレだったりする。

 これはこの命令が出る少し前の事だ。


「カイア。カイアは居るか?」

「——はい。お呼びでしょうか」


 ミカエレは部屋にカイアを呼び出していた。

 

「最近同じ食事で飽きた。ちょっと周りの町で珍しい食べ物を見つけてこい。わざわざ探す必要はない。売っている物を持ってこい。支払いなどする必要ない。俺の命令だからな。いいな。お前の技を見せろ。そうだ。ついでになんか珍しいものがあったらそれも持ってこい」

「————はい」


 ミカエレに命を受けたカイアは自分のすべきことを行った。ちょっと表情に出ることもあったが。自分を守るためにカイアは命令に従う。その際にカイアはヨイキテンツチッカにも足を運んでいたのだった。これがヨイキテンツチッカで物が無くなったという事の真相である。

 たまたまこの時はタイカとカイアが別々に動いていたため。2人も気が付かなかったのだった。

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