ゆるふわガールの青春ノーブレーキ
「だれなんだそのコは?」
ガタコンガタコンと揺れる密室満員電車の中で瞬きひとつせずに笑わない眼で見上げてくる
「はいはあい、はじめまして~スズネといいますよぅ」
――ゔぉっ、スズネちゃんいきなり割り込んでこないでっ。あの、美咲花の顔を見ようとしたのかわかんないけど、俺の肩に顎をチョコンと乗せてこないでくれる。いまね、大事なお話を冷静にしようと。
「ぃウくいうぅッ……はァ、すずねサンと言ウンですねアナタのオナマえは?」
「ですです、スズネの名前は
「あぁ、それはたぶんダイジョウブ忘れないこのママ。本当にワスレないとオモウから」
「わはあっ、よかったあ嬉しいですよぉ」
一瞬、ピシりと硬直したように見えた美咲花は喉から絞り出すような声を震わせたかと思うと淡々と異様な程に丁寧な言葉を返す。マイペースなゆるふわ
「あのぅ、ところで
「ハぁアナタの郎英センパイ?」
淡々とした声とは裏腹に眼には鋭い光が強まり俺を射抜くように見つめてきて、背筋がブルリと震えるんですけど。とにかく、俺がなにかハッキリと言わないとマズいような気がする。俺に発言権をください議長っ。
「えへへ~、スズネのろうえい先輩ですってぇ、言われちゃうと照れますねぇもうぅ」
後ろの
「おいキサマ電車降リタらお話をしまショウね」
美咲花が地味に俺の足を見えないように踏み踏みしながら、恐ろしく優しさと厳しさを兼ね備えたお言葉を発信していらっしゃいますが、私としてはあの、ご遠慮できればなと。
「いや、僕達は学校もあるからね、お話なんてしてたら遅刻しちゃうのではないかな?」
「ゴアくん? お話は歩きながらでもデキチャウンだってコト知ってるのカなァ?」
「そ、そうだね。歩きながらでもいっぱいおしゃべりできちまうんだね」
「わあっ、おしゃべりしながら登校するのなんて楽しそうですぅ」
もう、これは逃げる事はできそうにない。いやいや、何も美咲花にやましい隠し事をしているわけでもないんだから、堂々とすればいいんじゃねえのかな。てか、近くの乗客さん達の視線もなにか痛いんですが。まるでこれはかの有名な「リア充爆発しろ」て言われてるっぽいですけど、違います。この子たちとは別にリアル充実な関係じゃないんです。ワタクシめがリア充だなんてそんなありえませんって。え、何その問答無用でうるせえと言いたげな皆さんのお顔はっ。
誰に言ってるかわからない心の言い訳を繰り返しながら、俺はガタコンガタコンと揺れる電車に身を委ねて、駅に着くのを待つのだった。その間、邪気なく嬉しそうなスズネちゃんのハグっとギュウッと、美咲花に足を地味に踏みつけられるグリグリギュッギュッを繰り返され己が身体に地味な痛みを刻み込まれるのだった。
*
「では改めまして、スズネの名前は
電車を降りて、駅改札を抜け、開けた道路沿いの通学路に出るとスズネちゃんはクルリンと回りながら俺達の前に出て
「はい、では先輩の、貴女の名前を教えてください。スズネはもう早く名前を知りたくて知りたくって我慢できないんですよぅ」
「え、ええと、
「わかりましたミサカちゃん先輩ですねじゃぁお近づきの印にスズネとハグッ! しいましょう〜ぅ」
「えっ、ちょっ、なっ、ッ」
スズネちゃんは独自なマイペースさで了承無くギュウッと美咲花に抱きついてきて本人は呆気に取られて口をパクパクしている。
「うはぁやっぱりカワイイぃッ」
「はっ、か、カワっ――なにを言って」
「ほっぺたもスベスベぇエヘヘ〜ぇ」
「ち、ちょっとスベスベはそっちもっ、てえっ、郎英この子いったいなんなのよおッ。見てないで助けてッ」
「いったいなんなのよと言われましても、こら、困ってるからおやめなさいスズネちゃんっ」
俺もスズネちゃんにこんな一面があるとは思ってもみなかったので、なんなのと言われても困るのだが、ああ、しかしこれ以上はイケないような予感がします。ストップ・ザ・スズネちゃん。
「やああ〜ん、スベスベなミサカちゃんせんぱぁい」
襟首をちょっと引っ張るといとも簡単にスルリとスズネちゃんの手は名残惜しげにフワフワと揺らしながら放れていった。美咲花はズレた眼鏡をアセアセと直すと俺の顔にピシイと指を指す。
「なにをしてっ。 もうホントにこの子はあんたのなに郎英。 わたし、もう知る権利あるよね、こんなこんな、こんなとこでギュウッてされちゃってさっ、もうすごく柔らかくて困っちゃってさあ、な、ななな、なにを言ってるわたし、落ち着けッ」
「お、仰っしゃる通りでありますが、まずは心を静寂に、言葉を整えて、はい。ええと、
「スズネはスズネと自己紹介したとおりですミサカちゃん先輩。更にズバリと言っちゃいますとスズネはろうえい先輩のカノジョになりたい人ですよぅ」
「か、カノジョっ! アナタが郎英のッ!」
「まてまてっ、ちょっとまてっ、カノジョではないっ。スズネちゃんも混乱させるような事を言わないでおくれ」
「でもカノジョになりたいのは本当の事ですよぅ?」
「やっぱりカノジョて言ってるじゃないっ、カノジョッてえエッ」
「頼むからまずは俺にまともな発言権をくださいおねがいしますッ」
しばらくと問答を続けてから、ようやく俺は発言権をいただく事ができました。
「はは、昨日知り合って告白をされたあ、それを信じろですって?」
美咲花はジトォとこちらの顔を眺めてから、横目でスズネちゃんの顔を見つめる。隣のスズネちゃんはもうそれはニッコニコとした顔です。
「そのとおりですよぉ、郎英先輩に運命感じたドキドキフォーリンで止まらぬ想いを告白しましたぁ。ニブニブ太郎な予感がしたろうえい先輩にはまっすぐ「好き」をしっかりと伝えましたよぅ」
胸に礼のハートを作りながら答えるスズネちゃんを見て、美咲花は深くふか~くため息を吐いちゃってます。
「はあぁ〜~~~ぁぁあっ、信じるしかないのかなぁ」
「え、そんなあっさりと」
「じゃあ聞くけどこの子は嘘をつくような子なの?」
「いや、全く思いませんね。昨日知り合ったばかりでなんだけど嘘は絶対つかない子だと思います」
「でしょう。わたしもあったばかりだけど、なんか絶対にうそは無い子だなって思っちゃうんだよね、なんでかさ」
美咲花は表情こそは複雑そうだが、短い間にスズネちゃんがどんな子かを理解したようで、もう一度ため息をついてなにやら頷いた。
「はぁ、でも告白てそういう事だったんだ。なんか
「ん、なんか言ったか?」
「別に、何も言ってない。言ってない
「おう、わかった、わかったからっ」
なんか、また急にガッと声を強くしてなにかを否定しくるので、俺もそれ以上は何も言わないことにした。
「それにしてもぅ、ろうえい先輩にこんなに可愛い幼馴染みさんがいるなんてスズネはビックリしちゃいましたぁ」
「いや、さっきから可愛いて言ってくれてるけど、可愛くなんてないよわたしは。可愛いてのはあなたみたいな子を指す言葉でしょ」
「え〜、ミサカちゃん先輩は可愛いですよぉ。ミサカちゃん先輩が可愛いて言ってくれてるスズネが可愛いて言ってるんだからミサカちゃん先輩は可愛いんですよぉ」
「はあ……郎英、この子はホントになんなの? その、悪い気はしないけど、なんかむず痒いのよこういうの言われたこともないしっ」
なんなのと言われましても、今はスズネちゃんとしか言えない。俺も彼女の事はまだまだ知らない事だらけだし、まぁそうだな、今言える事は。
「可愛いて言ってくれるなら言いんじゃないか、美咲花も満更でもないんじゃないの。実際可愛いのにウソはねえだろ?」
「ファッ! 何いってんのよおバカッ!? あッ、どさくさにさっきから名前を呼ぶなッ!」
お顔をわかりやすく真っ赤にした美咲花は人差し指をオーケストラ楽団の指揮者のようにフォンフォン振り回して、俺の顔に何度も突きつけた。うーん、これはまた可愛い反応だと言ったら怒られてしまいそうだ。
もちろん、言えないけどね。
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