第5話 巫女すずな

「ビリーさん、準備できました」

「じゃあ、行こう」


わたしはビリーさんについていった。

ルークたちに教えてもらった道とは反対に行くようだ。

でもやはり、草や木が生い茂っていてジャングルのようだ。

まあ、ジャングルのようなところじゃないと人間にみつかっちゃうもんね。


歩きながら少し行くとまたもやロープが木にくくられていて、ターザンのように川を渡った。

そして大きな水たまり、まるで海のように感じた。

そこには、カモのような鳥たちが水を飲んだり羽に水をかけたり、水浴びをしていた。


ビリーさんがもっていたリュックからパンをだし、その海に投げた。

すると鳥たちが食べにやってきた。


「カモさん、わたしたちを向こう岸まで運んでくれないかい?」


はぁ? ビリーさんは何をいっているんだ?

わたしたちを運ぶ?


「いいよ、向こう岸まででいいのかい?」

「うん、助かるよ」


うぇ~まじか~どうやって?


「ルナ、おいで」

「は……い」


おそるおそる近づいた。


カモさんが体を少しかがんでくれて、低くなったところにビリーさんがぴょんと背中にのった。


「ルナもやってごらん」


まじで、やるの? できるかな~ちょっと怖い。


1羽のカモがわたしの前にきて状態を低くしてくれた。

これはやるしかない。

思い切って乗ってみた。


すると、カモの体は暖かくてふわふわしていた。


「ルナ、カモさんの背中の羽をちゃんと握っているんだよ」


ん? 羽かぁ。これでいいのかな?


「はい、握りました」


「じゃあ、いくよ」


カモさんは勢いよく水中を走りだした。


パタパタ……スゥー。


わぁ~


一瞬体が後ろにもっていかれた。

危ない、羽を握っていなかったら落ちてた。


わたしから見えなかった岸があっという間に見えてきた。

スピードは速いが気持ちのいい速度だ。


高速道路を車で80キロで走って、窓から顔を出してあたった風の感じくらいかな。


「ルナ、あそこに鳥居が見えるかい?」

「はい」


たしかに鳥居がみえた。


「あそこに神社があるんだ」

「神社ですか?」

「あそこに行く」


鳥居の岸際にたどり着いた。


「「カモさん、ありがとう」」


カモさんはまた水浴びしはじめた。


5段くらいの階段を横目に、大きな葉っぱの上をトランポリンのように飛んで登った。

葉っぱが跳ねるので、次の葉っぱに飛ぶときが楽に飛べるのだ。


神社についた。

すると、人間の巫女が神社の掃除をしていた。


「ビリー!!」

「大変!!」

「人間!!」


わたしは焦って単語しか出てこなかった。


ビリーさんは焦りもせずに、その巫女に近づいていった。


「あっ!! ビリーさん、どうしちゃったの?」



「すずなさん」

「あっ! ビリーさん」


巫女さんは振り返りビリーさんと呼んでいた。

ん? どういうこと?


「ルナ、驚かせてしまったね」

「えっ?」

「大丈夫だよ、こっちにおいで」

「はぁ」


「紹介するよ、すずなさんっていうんだよ」

「こんにちは、すずなです」

「あっ、こんにちはルナといいます」

「ルナさんというんですね、かわいい」

「すずなさんは依頼の仲介人をしてるんだ」


仲介人?


「わたしが話しますね」


そういうとすずなさんが話をしてくれた。


「この神社は400年以上の歴史があります。わたしはこの神社の孫娘。今は巫女をしながら祖父の手伝いをしています」


あ~だから巫女さんか。


「100年ほど前から、この神社では不思議な現象が起きると言われていました」

「不思議な現象?」

「はい、それは賽銭箱に悩みごとを書いた紙を入れ願いごとをすると叶うという現象です」

「それって」

「はい、そうです。まさにあなたたちこびとさんのことです」

「まさかこびとさんがいるなんて、しかも悩みを解決してくれているなんて思っていないので神様が悩みを解決してくれたのだと、人間は思いました」

「まあ、そうですよね」

「ですがあるときわたし、見てしまったんです」

「えっ?」

「はい、ビリーさんを。正確にはビリーさんと一緒にいたステラたちを」


「それが最初の出会いでしょうか」


「あのときは驚いたよ、終わったと思った」


怖い、なんか怖いよ。

人間に見つかったと想像するだけで怖い。


「ステラが転んでしまってね、それをすずなさんが手ですくって起こしてくれたんだけど……」

「ごめんなさい、そんなに怖がるなんて思わなくてステラはわたしの手の中で気絶しちゃうし、わたしもどうしたらいいか慌てました」

「ルークもレオンも泣きだしちゃって」

「そうでしたね、ビリーさんが自分と引き換えにステラを助けてくれなんて頼んでくるし」


いろいろあって今のみんながいるんだな。

ワクワクとか楽しみなんて思っていた自分が恥ずかしい。

命がけの冒険なんだ。


「それでなんとか落ち着いて話を聞いてくれて、仲良くなりました」

「それからは、わざわざ賽銭箱の中に入らなくてもすずなさんから悩みの手紙を受け取るようになったんだ」


へぇ~そうなのか~


「わたしもこびとさんたちに会えるのが楽しみになり、神社のお手伝いも前よりも好きになりました」


「あっこれ、忘れないうちに。依頼解決の手紙です」

「わかりました、依頼者に渡しておきます」


「そういうわけなんだよ、ルナ」

「わかりました、人間とこびとが同じ世界で生存しているってすばらしいことですね」

「ルナ、きみはすごいことを言うな」


わたしは感動していました。

もっともっと、すずなさんみたいにこびとのことを理解してくれる人間が増えるといいなと思った。


「じゃあ、ルナ帰ろうか」

「ビリーさん、報酬です」


報酬は、入れ物に白い粉が入っていた。


「なんですか?」

「これは砂糖と塩だよ」


あ~調味料とかは報酬でいただいているということか。


「じゃあ、すずなさんまた依頼がきたらポストに」

「ポスト?」

「帰りによって帰ろう」


来た道を帰った。

もちろん、帰りもカモさんに乗せてもらいました。

もう少しで村につくというところでビリーさんは止まった。


ん? なんだ?


「ルナ、これだよ」


緑のポストがたっていた。

草にかくれていて人間にはわからないだろう。


「すずなさんは依頼がくるとこのポストに手紙をいれてくれるってことですか?」

「そうだよ、だからこのポストは毎日確認するんだ」


なるほど。

そういう仕組みになってたんだな。


村に戻ってきた。

今日も刺激的な1日だったな。

そういえば、わたしの家族はどうしているの……だろ……ぅ。

わたしはまたすぐに深い眠りについてしまった。

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