夜はこんいろ

そらいろきいろ@魔女コメディ連載中

夜はこんいろ

 窓越しに、ひんやりした空気が伝わってくる。

 ちらちら光る外の景色が、いまのわたしにはちょっと眩しい。いつもは落ち着く、ちょうどいい夜景なんだけど。

 スマホの画面で、部屋がばっと明るくなる。ホーム画面に、0:50の文字。

 無意識にあぁ…、と声が漏れた。

 ちょっぴりお昼寝のつもりだったのに。

 焦りと諦感がいっしょになって、頭の先からすぅっと体を通り抜けていく感じがした。

 ……まずいな。




 うん、とってもまずい。課題終わってない。


***                                ***

 

 公園内カフェのデザイン提案、その最終案の模型を作ること。それが明日までの課題だった。

 先生からは、例年みんな徹夜しているから覚悟しなさいと脅されている。すぐに終わる課題じゃない、と。だから早めに手をつけなさいと。

 私はちゃんと計画を立てた。予定では夜ご飯を作る前に仕上げて終わるはずだった。

 徹夜なんてしたことないし、することもない!なーんて聞いたときは思ってたけど、甘かったみたいだ。結局徹夜コースに入ってしまった。

 ベッドであと十分だけ、なんて自分を私はもう信じない。

 とはいえ、八割がたは完成しているのだ。スムーズにいけば、三時間くらいは寝れるかもしれないな。

 そんなことを考えながらカッターの刃を走らせていると、スマホがピロンと鳴った。


「眠い」


 メッセージはそれだけ。紺からだった。

 彼のDMはいつもそう。そうだね、で終わっちゃうようなやつばっか。

 しかも夜中にくるもんだから、たいてい寝ちゃってて次の日の朝気づくことになる。

 それで、結局学校で話すものだから返信しないで終わっちゃって、それがちょっぴり心残りでもあった。

 思えば、私が起きてるときに来たの、はじめてかもしれない。


「ねなー」


 リアルタイムで返すのもはじめてだ。

 紺、きっとびっくりするだろう。

 しばらくしたら、案の定そうみたかった。


「……ご本人?」


 私だよ!


 ──珍しいな、すみれが夜更かしなんて。


 そういうときもありますよ。そんなつもりじゃなかったけどさ。


 ──課題しないでなにしてたの?


 失礼な。ちゃんとやってたよ!

 ……ちょっとお昼寝が長引いただけ。というか、そういう紺はどうなのよ。どれくらいやってあるの?


 ──さっき土台できたところ。


 ぜんぜん終わってないじゃん!

 ため息と笑いが混ざって変な声がでた。

 メッセージ送ってる場合じゃないでしょ、集中しなって。

 スタンプを送ったら、すぐにピロンと音がした。



「寝そうだから、通話繋いでもいい?」


***                                ***


 私もたぶん眠かったんだ。

 頭が回ってなかったんだ。

 そうじゃなければ、「ん、いいよー」なんて言わなかったはずだ。

 イヤホンからのかさかさ音をBGMに、私はがんばって落ち着こうとしていた。

 ここがくっついちゃったとか、線が曲がったとか、他愛ないやり取りが一段落したタイミング。いきなり頭がしゃっきりしてきて、ほっぺたのまわりが暑くなってきた。

 真夜中に、男の子と、通話!

 どうしよう。私どうしよう。

 紺も紺だよ、いきなりそんなこというなんて。

 あの子、どうせ寝ぼけ眼でほやほや言ったんでしょうけど、私がどう思うかなんて全く考えてないんだわ。


「すみれー…」


「ひゅっ!」


 不意討ちだった。


「え、なにごめん…」


「ちがう、ごめんなんでもない!」


 恥ずかしくて息を飲んじゃった、だなんて言えないから、ちょっと手が滑ってと付け加えた。


「危ないなぁ…」


「うん、危ないね…」


 誰のせいだか。


「できたの?」


「あと天井くっつけるだけ。すみれは?」


「私は……」


 机の上は、さっきとあまり変わってない。

 といっても、もう終わりだ。ミニチュアの木をいくつか刺すだけ……。


 なんだけど。


「……私は、もうちょっとかかるかな」


「じゃあ、終わるまで起きてるよ。こっちから誘ったんだし」


「……ありがと」


 結局、それから二十分くらいは話してた。

 学校で会うときはさらっとまたねって言えるのに、おやすみがすこし名残惜しかった。

 夜っていうのは、ちょっぴり切なくなりやすいもの。

 毛布はすっかり冷めていたけど、あんまり寒さは感じなかった。

 目を閉じてからふと思う。

 たまには、夜更かしもいいかも。






 前言撤回。夜更かしはやっぱりだめだ!

 翌朝、きらきら眩しい時計を見て、やっぱり私はそう思った。

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