第百七十九話 精霊術師の悩み

 翌朝朝日あさひのぼっていない中、俺は一人魔法の光を生み出して精霊剣を構えて集中していた。

 ふっと風がなびくと同時に前においてある試し切り用のくいに切りかかる。


「竜牙斬・かさね! 」


 強烈きょうれつな斬撃がくいを斜めに切り、ずれる。

 それを見て少し拳をにぎって喜ぶ。


「よし、次だ」


 切ったくいの隣にあるいくつかのくいをみて、発動させた。


加速アクセル! 」


 急速に体中に精霊がめぐり爆発的に力が増す。

 消えるように動きくいを切り刻んでいく。


時空の門ゲート! 」


 すると光の扉が現れその中に入りくいの後ろに移動して最後の一つを切った。


「出来た! 後は……土の精霊よ」


 少し集中してとなえると精霊剣からあらかじめ込めていた土の小精霊が飛び出して目の前に大きな穴を作る。


「水の精霊よ」


 同じ手順で穴に水を張る。

 夢の中とは違いこちらは中々に手強てごわい。

 集中力の消費が半端はんぱない。

 何重なんじゅうにも小精霊を使っているせいか?


 ふぅ、と一息つき最後の確認を行うことに。

 精霊剣を構えて集中してまずは火種ひだねを作ることから。


発火ファイアー


 魔法をとなえると少し大きめの火が切り刻んだくいを燃やす。

 やり過ぎたか?

 ここ最近魔力操作の練習をしてなかったから少し調節を誤ったようだ。燃えすぎている。

 だが、まぁ仕方ない。これで練習しようと目の前の火に目を移す。


「火の精霊よ」


 唱えることで金色の光が火を包み俺の意志に従って形を変える。

 丸から四角へと形を変えるがそろそろ終わらせるか。


「水の精霊よ」


 穴にたまった水が俺の意志の通りに動き、鎮火ちんかさせた。

 ふぅ、と一息つく。

 若干じゃっかんの汗を腕で拭いながら長椅子へ向かい、座って休む。


「出来たけど、夢の中の様にはいかなかったな」


 時の精霊魔法系統けいとうはスムーズに出来た。

 しかし他の精霊魔法はけずられる集中力も倦怠けんたい感も断然だんぜん違う。


 精霊剣に目を落とし「それも仕方ないか」と考えた。

 なにせ夢の中なのだからまずもって触媒となる精霊剣が違う。

 同じに見えて、全く違う。

 加えて夢の中では何回も使ったが現実世界では初めてだ。


 完全にすみになった木のくいを見て思い出す。

 セレスが各々に報酬ほうしゅうがあると言ったことでもしかして俺にも、と思って使ってみたのが今回の練習だ。

 戦闘経験が報酬ほうしゅうというには少し味気あじけない。途中で思い出した記憶も報酬の一部だろう。

 しかしセレスの報酬ほうしゅうくらべて見劣みおとりする。

 ならば他のものがあるのではないかと思って朝早起きして試してみた。


「最初にしては、上出来ってところかな。何より火の精霊魔法が使えたのが上出来だ」


 剣に目を落とすと少しにぶい色が輝きを放っている。

 なるほど。前にエルベルが言っていたことはたらずとも遠からずといった所か。

 まだまだ通常の剣のように輝いていないのは他属性を込めていないか、まだまだ込め具合があさいのかだろう。

 まぁ、検証けんしょうする必要もないのだが。

 剣から目を離して屋敷やしきの方を見るとこちらに来る影が。


「デリク?! 早いね」

「おはようございます、アンデリック」

「おはようなのです。お兄ちゃん」

「ケイロン、セレス、リン。おはよう」


 俺が一人さみしく座っていると朝練あされんに来た王侯おうこう貴族子女三人組がやってきた。

 剣を見てブツブツ言っているのが聞こえたのか遠慮えんりょがちにのぞいてくる。


「デリク……。僕達はいつも一緒だからね」

「剣に一人話しかけるまで追い詰められていたとは……これから少し政務せいむの量を」

「はわわ、早まったらダメなのですよ。せめて鬱憤うっぷんはモンスターにぶちまけるのですよ。人に向けたらだめなのです」

「俺はさみしい人じゃない! それにどこの戦闘狂の考え方だ、リン! 」

「「「違うの (ですか)? 」」」


 否定して、事の詳細を話した。


「なるほどね。精霊魔法を」

「実に興味深いですね。それにしてもお爺さんも時の精霊魔法の使い手だったとは」

「俺も初めて知った。精霊の加護って遺伝いでんするものなのか? 」

「いいえ、個人に与えられるものなので基本的にはしないかと。しかしこうだいまたいで加護を与えられていると何か条件があるのかもですね」

「セレスでも詳しい事は分からないか」


 彼女の顔から目を逸らし、ひざひじをついて手であごささえて考える。

 しかし我がのブレーンであるセレスがわからないものが俺に分かるはずもなく撃沈げきちん

 仕方なしに立って三人を見た。


「これから俺はどの位置で戦おうか? 」

「と言うと? 」


「ほら、今は前衛だろ? 」

「そうですね」

「リンも前衛なのです」


「ああ。で、多彩たさいな精霊魔法が使えることが確認できた」

「ええ。精霊魔法の複合など実に興味深いですね」

「こら、ティナ。乗り出さない」

「これは失礼」


「そこで前衛で戦うか、中衛ちゅうえいに回って臨機応変りんきおうへんに戦うか。どうしようかと思ってな」

「今まで通りでいいんじゃない? 」

「ケイロンの言う通りですね。下手へたに戦い方を変えても混乱するだけでしょうし、まだ精霊魔法もきちんと使いこなせてないようですし」

「うぐっ! 慣れたらだよ、慣れたら」

「それでもです、ね。むしろ近距離特化とっか精霊術師エレメンターというのも面白いかもしれませんね」

「それは自分の趣味しゅみ大分だいぶ入ってないか、セレス? 」


 いい事を言ったと思うが、稀少きしょうな近距離の精霊術師エレメンターというのに興味を引かれた部分が見え隠れする。

 セレスは平静へいせいな表情を作っているが目が少しウロチョロしていて動揺どうようを隠せないようだ。


「セレスティナお姉ちゃんの意見に自分の私情しじょうが入っているのは確かなのですが、それをまえても戦闘スタイルの変更はあまりやるべきではないと思いますよぉ」

「……そうか」

「そうなのです。中途半端ちゅうとはんぱになりやすいのでぇ。なので話した時の使い方みたいに精々せいぜい相手を拘束こうそくしたり防壁ぼうへきを作ったりするくらいが一番かと。後は『風』と『時』を使って移動速度を調節ちょうせつしたりとかするくらいがベストなのではぁ……」


 それを聞き少し目をつむる。

 確かにそうだ。中途半端ちゅうとはんぱになりやすい。

 いざと言う時にこの中途半端ちゅうとはんぱさが命取りになりかねない。

 ならば……コントロールと反射的に使えるように練習するべきか。

 後は精霊剣に直接まとわせて発動させるような感じだろうか。あの火龍のように。

 考えがまとまりまぶたを開けて見まわした。


「ありがとう。方向性は決まった。前衛で頑張るよ」

「言うと思った」

「流石、アンデリックですわ。観察かんさつのしがいがあります。近距離特化とっか精霊術師エレメンター……フフフ」

「じゃぁ、練習戦いしましょう」

「え? 」


 リンの一言により朝練あされんという名の壮絶そうぜつな戦いが始まった。

 その日裏庭うらにわを最初におとずれた使用人が何事かと騒いだのは仕方のない事である。

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