第百七十八話 まさかの報酬

 結局の所あの後俺が目覚めざめたということもあって帰宅きたくした。

 あの部屋——エカの部屋で休養きゅうようを申し出たのは他でもないエカ自身だったようだ。

 そのあいだ彼は違う部屋で過ごしていたらしいが申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 きちんとお礼を言い今屋敷やしきについた所なのだが……。


「心配しましたぞ! 」

「少年、無茶はいけねぇぞ」

「ぶ、無事で何よりです」


 涙を浮かべながら帰宅きたくを喜ぶ使用人達がいた。


「ごめん、ごめん。まさかあんなことになるとは全く思ってなくて」

「王城から急報きゅうほうが来た時は家臣かしん一同殴り込みに行こうかと思い」

「止めるの大変だったんだぜ? 」

「レ、レストさん、本気だったので」

「止めてくれてありがとうございます! 」


 泣くレストさんに厳しい目線を送る二人。

 しかし本当に助かった。

 一歩間違えたら謀反人むほんにんじゃないかい。

 だがそれだけ心配してくれたということでうれしくも思う。


「無茶はあまりしないでくださいね」

「ありがたきお言葉ぁ! うぉぉぉ! 」

「こりゃ、戻ってくるまでに時間がかかるな」

「ご、ご主人様、広間ひろまでお休みになったら如何いかがでしょうか? 」

「ああ、そうするよ。ありがとうアリス」

「い、いえ! ではこちらに」


 人族のメイド・アリス先導せんどうの元俺達は広間ひろまへと向かった。


「これからどうする? 」

「そうだな、ケイロン。俺は体の調子を戻したいかな」

執務しつむたまっておりますよ」

「……ギルドの依頼最優先! 」

「そう言うわけにはいきません」


 広間ひろまの長机を挟んで俺達は顔を見合わせている。

 毎回おなじみ『次何しようか会議』を行っているのだが大きく方針が二つに割れて困った。

 俺やエルベルそしてスミナは冒険者業を、ケイロンとセレスそしてリンはたまっている貴族関係の仕事をこなすべきと言っている。

 もちろんのことそっちの仕事もやらないといけないことは分かっているので、やらないとは言っていない。


「早めにさばいてから冒険者業の方へ行っても良いのではないでしょうか? 」

「体力を戻すために体を動かすなら裏庭うらにわで出来るしね」

「リンも早めに書類は片付けた方が良いと思います」


「いやいや、実践じっせんまさるものはないだろう」

山登やまのぼりついでに採取を受ける程度だ。構わねぇだろ」

「オレも久々ひさびさに戦いたいしな」


「早めにやらないと後で億劫おっくうになりますわよ? 」

「確かにそうだが……」

「なら執務しつむしながら裏庭うらにわで体つくりでいいじゃん」

「お金をかせがないと……」

「まだまだ大丈夫なはずですわ」

「そうだね。それに体が万全ばんぜんじゃない時に依頼を受けるのは結構危険だと思うけどな」


 そう言いケイロンは俺の方を見た。

 完敗だ。ぐうの音も出ない正論だ。

 両手を上にあげて降参をする。


「俺の負けだ。執務しつむをしながら運動することにする」

「ええー! 依頼受けたい! 」

「ワガママ言うんじゃねぇ、駄乳エルフ」

「ちびっこドワーフも依頼を受けたいって言ってたじゃないか」

「そりゃそうだがよ。アンにも他の仕事があんだろ」

「……分かった。じゃぁ、お前と行く……」

「おいおい、どういう風のき回しだ? 」

「ならリンも行くのです」

「リンも来てくれるのか! 」

「はいなのです。巨乳のお姉ちゃん。前衛はいた方が良いと思うので」

「よし、行こう! 今すぐ行こう! 」

「ちょ、引っ張るな! 」

「行くですよぉ」


 エルベルがスミナを引っ張り扉の方へ向かう。

 それに続くようにリンが向かい、俺とセレスとケイロンが残された。


「じゃぁ行こうか。三階へ」

「……了解」


 抵抗あきら溜息ためいきをつきながらケイロン、セレスに続いて三階へ向かうのであった。


 ★


 執務しつむの途中、突然セレスが少し緊張した声音こわねで声を出した。


「一つワタクシが夢の中で手に入れた情報をお伝えしないといけません」

「どうしたの、ティナ」

「なにあらたまってんだ? 」


 俺とケイロンが執務しつむ室で彼女の方を向いた。

 余程緊張しているのだろうか、あごをさすっている。

 そして息を少し大きく吸い込み口を開いた。


「話を聞くところによるとみなさん何かしらの報酬をているようです。それはほとんどが精神的なもののようなのですが……」

「そうだね。僕もそうだ」

「報酬ね。そう聞くと俺は……戦闘経験になるのか? 」

「ええ、恐らく。しかしワタクシは違いました」

「「え?? 」」


 驚き俺達二人はセレスを少し強く見た。

 セレスの緊張が強まったのだがそれを気にすることなくケイロンが質問攻めする。

 彼女の緊張が高まるのを感じて身を乗り出すケイロンの肩をつかみ抑えるように言った。

 そして少しをおいてキリッ! っとこちらを見る。


「ワタクシがたものは……転移魔法の知識です」

「て、転移魔法の知識?! 」

「それって……結構まずいんじゃ? 」


 ケイロンが指摘してきすると大きくうなずくセレス。


「なにがまずいんだ? 」

「本来転移魔法のような知識は国で管理されていますので「知っている」という状態が好ましくありません」


 それを聞きてんあおぐ。

 あ~胃が痛い。


「もし使用できるということが分かればセグ家そのものがカルボ王国の軍にかこわれる可能性もあります」

「そこまでする? 」

「やるでしょう。しかし今は「知識がある」という状態で「使える」状態ではありません」

「やっぱり難しいの? 」


 ええ、とケイロンの言葉に軽くうなずく。


「なので使える状態にして情報の拡散かくさんを防止しつつ王家と交渉こうしょうしようかと思います」

「……使わなかったらいいんじゃないか? 」

「いえいえ、何を言うのです?! せっかくの知識なのです。使わないでどうするのですか! 」


 鬼気ききせまる勢いでセレスがまくしたてる。

 ええ~、ばれたらまずいんなら使わないのが一番だろ。


「いいですか! この魔法は使ってなんぼのものです。ええ、そうですとも。危険性は承知しょうちです! なにせ軍事機密きみつ相当そうとうですから。ですが! ですが! 伝説級の魔法を使わないで持っておくだけ?! そんな勿体もったいない事が出来るはずないでしょう! 」


 バンバン、と机を叩きながら熱弁ねつべんするが……かなり自分の私情しじょうが入ってないか?


「コホン。そもそも場所を限定すればそこまで危険な物ではないのです。事前に王家に転移先の登録をして有事ゆうじさい以外はそこ以外に使わないと契約。向こうの条件もいくつか飲むことになりそうですが些細ささいな事」

「……それ派閥はばつ的に大丈夫? 」

「ケイロン、大丈夫です。まず使えるようにしたら王家に連絡。派閥はばつの者——限定された者への情報開示かいじ許諾きょだくて、行動し、軍閥ぐんばつをけん制。そして直接交渉……」


 どんどんと一人ブツブツと呟きだしたセレスを見て俺とケイロンは顔を見合わせて呆れる。 

 結局の所、転移魔法を使いたくて仕方がないということのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る