第百三十話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ!  四

 赤面せきめんしながら毛布の中でもだえる。


「うぉぉぉぉぉ!!! お婿むこに行けない!!! 」

『それならよめに来てもらえばいいんじゃない? 』

『そうそう。ひーちゃんの言う通りだよ、面白い人間さん』

「恥ずかしすぎてそれどころじゃないって……精霊?! 」

『『『いえぇい!!! 』』』


 右に左に転がりながらもだえていると目の前にいきなり精霊が現れた。

 思わずぶつかりそうになるが間一髪かんいっぱつで回避。

 が、そのまま転がりベットから落ちた。


「いってぇ~」

『え? 私が悪い感じ? 』

おどかそうと言ったのはひーちゃんでしょ? 』

自首じしゅをすれば、罪は軽くなるからさ。だから早めに自首じしゅしな』

『ちょっ! 何私を犯罪者にしようとしているのよ! みーちゃんもつっちーもおどかしてみようって言ったじゃない! 』

『『知りませ~ん』』

卑怯者ひきょうもの~! 』


 俺が痛みを訴えると精霊達がさわぎ出す。

 トッキーもそうだが精霊と言うのはこんなにもさわがしいものなのだろうか。

 それとも偶然ぐうぜん個性こせいが集まっているのか?

 いぶかしめに見ているとひらりひらりと飛んでいた精霊達が三人並びこっちを見た。


『初めまして。私は火の精霊』

『昨日ぶり~。私は土の精霊』

『さっきはどうも。私は水の精霊』

『『『三人そろって精霊三人娘!!! いぇ~い!!! 』』』


 名乗なのりを上げると腕を上げ楽しそうに上下左右へ飛び回った。


 閑話休題かんわきゅうだい


 精霊達も落ち着きを取り戻し俺の前に鎮座ちんざしていた。

 赤くき通り所々ところどころ火のような――しかし何も燃やさない――ものをらしているのがひーちゃんと呼ばれている火の精霊。

 黄色くき通った彼女はつっちーと呼ばれた土の精霊。

 水色にき通り所々ところどころ水のようなものを浮かばせているのがみーちゃんと愛称あいしょうで呼ばれている水の精霊のようだ。

 三人とも一対の羽根はねを持ち俺の前でコロコロ転がるふりをしたり仲間をつついたりしている。


「どうしてここに精霊が? 」

『どうしてと言われても』

『言われて来ただけだし? 』

『そうそう、この家が出来る頃くらいに? 』


 自由気ままに動きながら適当てきとうに答える彼女達。

 俺は今白い石で出来た椅子に座り机の上を浮遊ふゆうしている彼女達を見ている。

 そして気になったことを聞いてみたがどうやらもとからここにいる訳じゃないようだ。


『加護を与えた人に言われて来たのだよ、君』

『何インテリぶってんのよひーちゃん』

『い、いいじゃない。少しくらい』

『それに加護を与えたのはひーちゃんだけじゃないじゃん』

『そ、そうだけど……』

『何一人の功績こうせきにしようとしてんのさ』

『うう“う”……』


 ひーちゃんこと火の精霊が土の精霊と水の精霊に責められて半泣きだ。

 そ、そのくらいにしてやりなよ。

 ちょっと見栄みえっただけじゃないか。


「なんで呼ばれたんだ? 」

『あれよあれ。昨日の所に水がまってたじゃい? 』

『お風呂? とかいうやつを作るのを手伝ってくれって言うから来たの』

『あそこまで頼み込まれたら、流石に行かないわけにはいかないよ』

「へぇあれを作ったんだ。すごいな」

『『『それほどでも』』』


 謙遜けんそんしているがうれしそうに手を後ろにやり照れるように頭をかいている。

 そろった行動を見ると三人ともまるで本当の姉妹しまいのようだ。


「じゃぁあれの水を作ったり温度を温めたりしてるのか? 」

『いや、全然』

『特に何も』

『加護を与えた人はもう死んじゃったしね』

『人族だから仕方ないよ』

『短命だから』


 違うんかい! そして彼女達が力を与えたのは人族か。

 なら彼女達は何をしたんだろう。


『作る時の手伝い? 』

『石を作ったりとか』

『水を作ったりとか』

『温度が上がりやすようにしたりとか』

『『『まぁ諸々もろもろ調整ちょうせつ、だった気がする……』』』

おぼえてないのかよ……」

『し、仕方ないじゃない。昔の事なんだから』

「昔っていつだよ」

乙女おとめに年齢を聞くとかタブーよタブー』


 頭を横にして考えている時にいつ頃か聞くと注意されてしまった。

 普通の人ならば聞かないが相手は精霊だ。千年とか存在してそう。


『それにしても人間さんは私達と話れているわね』

『確かに』

「……違う町で泊まっていた宿に時の精霊がいたんだよ」

『『『時の精霊?! 』』』

「そんなに驚くことか? 」

『驚くも何も小精霊ならともかく彼女達と同じ時をごすなんて百年に一回あるかないかよ! 』

『ちょ、ひーちゃん。年齢、年齢! 』

『あ、今の無し! 』

『ひーちゃんのばかやろー! 私達が年増としまに視えちゃうじゃない』


 驚いた表情で火の精霊がり興奮した趣きでこちらを見た。

 しかし他の二人がそれを抑え、つっこむ。

 トッキーのような存在と出会うのは珍しい事なんだな。

 精霊事情じじょうはよく分からないが少なくとも彼女達は年増としまに視えるのが嫌と見た。姿かたちは幼女なのに。

 しかしトッキー以外にも時の精霊はいるのだろうか。

 気になる所ではある。


『何言ってんのよ。いるに決まってるじゃない』

『私達だってここにいっぱいいるのに』

「ん? 今なんてった? ここに? いっぱい? 」

『みんなー――!!! 』

『『『はーい!!! 』』』


 俺が混乱する頭でつぶやくと水の精霊が何やら号令ごうれいをかけた。

 するとそれに応じるようにまどから天井てんじょうから床下ゆかしたから数多くの精霊がやってきた。

 うおっ!!!

 一瞬の出来事で吃驚びっくりし動けなかった。

 きゅうせまりくる精霊達そして彼女達の洗礼せんれいを受ける。


『なにこの人面白おもしろー! 』

ふれれるよ、この人! 』


 髪に、はだに、指に引っられた。わざとぶつかってくる精霊もいれば崖登がけのぼりのような要領ようりょうで体をのぼってきているものもいた。


『ひーちゃん、つっちー、みーちゃん。おはー! 』

『『『おはー!!! ふーちゃん! 』』』


 新しい精霊が出てきたよ。

 誰だよ、ふーちゃんって。あ、今俺の髪の毛を引っっている精霊か。

 その精霊が目の前の白い机の上に浮きキリッとこちらを見た。


『コホン。私は風の精霊。自由気ままな精霊の旅人とは私の事よ!!! 』

「いや知らんがな!!! 」

『なん……ですと?! 』

 

 それを聞き知っているのが普通だろというばかりにひざをつくような仕草しぐさをした。

 余程よほどショックなのか浮いてひざをついている状態から立ち上がらない。

 だから精霊事情じじょうなんて知らないってば。


『ふーちゃん。仕方ないよ』

『そうだよ。旅人でもないのに旅人を名乗なのるのは無理があるよ』

『人に広めるなんて無理があるよ』

『みんな……。やっぱり無理なのかな』


 自称じしょうだったんかい。しかも旅人じゃないのか。

 あきれた目線を向けているとなにやら視線を感じた。

 何だ? どこから……。

 そう思い窓の方を見ると一人の猫獣人が。


「お一人で、おしゃべり。これは面白いものを見ました。早速そうきゅうみなに広めないと」


 白と黒の残像ざんぞうを残しながら開いているまどの外を離脱りだつしたルータリアさん。


「やめてくれぇぇぇぇ!!! 」


 心からの叫びであった。

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