第百二十三話 古代神殿探索 三

「暗いね」

「しばしお待ちを。光球ライト


 地下へ降りると狭めの空洞が広がった。

 しかし暗く先が視えない。

 どうしようかと考えているとセレスが魔法の光を発現はつげんさせそれを魔力操作で移動させて最前列にいるスミナよりも前に送り込んだ。


「これであかりは大丈夫でしょう」

「助かるぜ、セレス」

「賊がいた場合迎撃げいげきされたらかなわない。スミナ、いつでも守りに入れるようにしておいてくれ」

「了解だぜ、アン」


 さて進む前に気配感知は……やっぱり反応しないか。

 ならば。


「エルベル、今回も頼めるか? 」

「大丈夫だ。風の精霊よ」


 後衛から風が少しきかけたと思ったら前からまたもや風が戻ってくる。

 思ったよりも早い帰りだな。


「人が――何人かいるな」

判別はんべつできるか? 」

「流石にそこまでは。モンスターじゃないことくらいだな」

「十分。セレスが言っていたように賊のアジトになっていたか」

「当たってほしくない予想が当たりましたわ。貴重きちょうな古代遺跡をアジトにするなんて……」

「いるものはしかたない。スミナはいつ攻撃されてもいいように構えて俺達も迎撃げいげき準備だ」

「了解」

慎重しんちょうに前進だ」


 こうして俺達は暗闇の中を移動するのであった。


 ★


「ふぅ……酒がうめぇ」

「今回は誕生祭たんじょうさいに合わせた作戦だからな。そりゃ入ってくる酒もうめぇだろ」

「二重の意味でな」

「「ハハハ」」


 そこでは暗闇の中小さなともしびかこっている男性達四人が酒瓶さかびんを開け顔を赤らめながら飲んでいた。

 あちらこちらに空き瓶が転がっていることから彼らがかなり飲んでいることが分かる。

 酒の隣に置かれているつまみも多様たよう露店ろてんで誰かが買い込んだのだろう。


「にしてもボスも良くこんな場所見つけたよな」

「ああ本当だ」

「なんでもいつもは使わない場所らしいぜ」


 そう言いもう一杯酒瓶さかびんを口に当てラッパ飲みで酒を飲み口元くちもとから少しこぼれた酒を腕でぬぐった。

 盗賊のアジトにしては綺麗きれいなその場所は彼らの酒瓶さかびんと武器が置いてある。

 彼らは一応この場所の防衛を任されているのだが「この場所が見つかるはずがない」という思い込みのせいかなおざりにしていた。


「この前よぉ。ボスのお仲間が連れてきた獅子しし獣人、可愛かったなぁ」

「おめぇまさか幼女趣味か?! 」

「悪いかよ」

「開き直んな。だが確かに整ってはいたな。どこかの貴族の餓鬼ガキか? 」

「だろうよ。他の国からも来てんだ。他国の貴族の餓鬼ガキか何かだろうよ」

今頃いまごろ泣きさけんでるだろうよ」

「ああ。その前につかまえた奴なんてぎゃぁーぎゃぁー泣きさけんでうるさかったぜ」

「本当にだ。たかがつかまったくらいで泣くなっつーの」

「この程度、絶望でも何でもねぇのにな」


 やれやれと首を横に振り愚痴ぐちる賊達。

 酒が入っているせいか口が饒舌じょぜつしゃべる。

 が、その時間もすぐに終わりを告げた。


「そういや――」


 目の前の男に話掛けようとすると隣から血飛沫ちしぶきが飛んできた。


「な、なんだ?! 」


 一瞬で酔いが正気しょうきに戻るも何が起こっているのか分からない。

 三人が生暖かい血を浴びた顔を飛んで来た方向に向けるとゆっくりと後ろに倒れる所であった。


 異常事態。


「てきし――」


 口を開こうとした男の首がスポンと飛び血を他の二人にびさせた。

 同時に二人は風が通り過ぎるのを感じこの事態が風属性魔法によるものだと判断する。

 すぐさま壁に置いてある盾を取り構えて不可視ふかしの攻撃にそなえたが――


「刺鉄突撃! 」

「斬鉄! 連撃! 」


 一人の賊は盾ごと頭を貫かれ、もう一人は盾をみじん切りにされたのち頭部と体が分離ぶんりした。

 時間にして数秒。

 賊の見張りは声も上げることが出来ずにこのった。


 ★


「見張りはこれで片付いたね」

「あ、あぁ……」

「おい、大丈夫か? アン」

「大丈夫だ」

「顔が青いぞ? 」

「仕方ないことだと思うぞ? 多分手にかけたのは初めてだろうからよ」


 目の前に四体の死体を見て少々気分が悪くなった。

 相手は賊なのだがどうしても殺人と言うのはきついものだ。

 殺人を犯したということも気分が不調な理由の一つだが一番最初に放ったエルベルの攻撃により無残むざんな形となった男の姿も理由の一つだろう。

 閉塞へいそくした空間に酒と血の臭い。思っていたよりもきついものになりそうだ。


「お酒がいっぱいですね」

「お、こっちは有名な銘柄めいがらだ」

「ちびっこドワーフ、こんな時に何酒をあさってるんだ」

「見るくらいいいじゃねぇか」

「これだけ国内に賊へ支援しているものがいるということでしょうか? 」

「手配書が出回っているなら堂々どうどうと買い物に行けないしね。それはあるかも」

「ま、次だ次」

「そうだな、早めに進もう。声を上げられないよう先に頭をつぶしたけど臭いで伝わっていくかもしれない」

「だな。行こう」


 意気込いきごみ、両手に持つ二本の短剣をにぎりしめ先に進んだ。


 途中とちゅう賊と戦闘になったが全滅ぜんめつさせながら進んでいた。

 ケイロンは細剣レイピア、エルベルは精霊弓で、スミナは大盾を構えいつでもカバーできるようにしながら歩きセレスは魔導書を媒体ばいたいに魔法を使っている。そして俺は短剣を二本構えながら進む。


 片方は村から出る時にもらった物だ。もう一つはこの前もらった貴族章用の短剣だ。

 腰につけた長剣ロングソードでも戦える広さではあるのだが、横にずれすぎたりすると剣が壁に衝突しょうとつしそうで心配が残る

 よって以前に短剣の練習をしたことを思い出しこれを使い戦っているのということだ。


「……良かったのだろうか。貴族章用の短剣を使っても」

「非常時ですので大丈夫でしょう」

「一応儀礼ぎれい用だから耐久性たいきゅうせいに問題があるかもだけどね」

「貴族章として使うのならさやの家紋だけで十分なので壊しても身分保障ほしょうには問題がないと思いますが」

「いざと言う時は再発行だね」


 徐々にだが賊を切り殺すことや血の臭いに慣れてきた。

 が、違う問題に気付いてしまい胃が痛い。

 その原因は今使っている短剣だ。

 短剣一本だと一撃で与えられるダメージが多くなく、傷も浅い。

 よって手数てかずを増やして戦うしかないのだが持っている短剣は貴族章のそれのみだった。

 一応解体用の短剣もあるのだが武器としてはこっちの方が切れ味がいい。

 なのでこれを使っている訳なのだが使った後になって「壊したらどうしよう」と心配と後悔こうかいねんが押しせてきた。


「ま、今頃いまごろ言っていても仕方ないよ。先に進もう」

「ええ。再発行する時次はワタクシの家で行いましょう」

「ティナ、なに抜けけしようとしてるの?! 僕の家でもやるからね」

「まぁ待てや。ワタシが打つって手もある。考えておきな」

「先に行かないのか? 大勢いるぞ? 」


 セレスの言葉により少し慌ただしくなったがエルベルの一言で全員に緊張が走る。

 そして慎重しんちょうに進み、開けた場所に出るのであった。

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