第九十一話 王都への準備期間 一 買い物 二

 服を買った俺達は次の目的地へと向かうことに。

 服屋を出て石畳いしだたみ町並まちなみを歩いて行く。


「すみません。持ってもらって」

「大丈夫だ」

「それに色々着させてご迷惑めいわくを」

「あはは。まぁ貴重きちょう体験たいけんをしたと言えば貴重きちょう体験たいけんだった。あんなに服を着ることなんてなかったからな」

「弟がいないものでつい着せえてはしゃいじゃいました」

兄弟姉妹きょうだいしまいは? 」

「いません。と言うよりも龍人族は寿命が長いせいか子供が少ないのです。ワタクシもひさしぶりの子供だったらしいですよ。同年代の子供はドラゴニカ王国の王子殿下でんかくらいしか聞いたことがないですね」


 そう言い少しさみしそうな顔を向けた。

 気丈きじょうに振るっているのだろうが顔にさみしいと書いている。

 見た目にはんしてさみしがりなのだろう。

 彼女がドラゴニカ王国に住んでいないのもこのあたりにあるのかもしれない。周りが大人だけだったらたのしくないからな。憶測おくそくだけど。

 これに関しては俺が言うことは何もあるまい。

 商業区を更に進み岐路きろに立った。


「そっか。で、次はどこに行く? 」

「そうですね。王都で冒険者登録をすることになったのでその準備でしょうか」

「王都で買った方が良いんじゃないか? 」

「王都よりもこちらの方が安いので」

「へぇ。王都の物は高いのか」

「ええ。それにあまり変わりはないです。だったらこの町で買った方がいいかと」


 王都は物が高いのか。で、しなはあまり変わらない。

 ならセレスが言う通りこの町で買いだめしておく方が良いな。

 だけど持ち切れるのか? 服だけでもこの大きさだぞ?

 目を下に向けるとそこには大きな紙袋かみぶくろが一つ。重さはともかく、大きい。

 片手しか開いてないが、まぁどうにかなるだろう。


「じゃ市場いちばに行こう」

「ええ」


 二人はその足で市場いちばへ向かった。


 ★


「ねぇねぇあの二人いい感じじゃない? 」

「うむ。良い感じだな」

駄乳だにゅうエルフ。多分意味が違うぞ……」


 彼らのあとをつけるヘンテコ三人組がのぞいていた。

 様子を見るごとにケイロンから負のオーラが出てスミナは若干じゃっかんビビってた。

 が、エルベルはそれを気にすることもなく言いたいことをいう。

 彼女がいつケイロンの地雷じらいみぬくか気が気でないスミナにとっては冷や冷やものだ。


「友人として応援すべきかなやましいね」

「だが種族の輪サークルに入れるんだろ? 」

「そりゃね。かりにも貴族のお嬢様だ。放っておくわけにはいかないよ」

「……それ、ケイロンに特大とくだいブーメランだが」

「うう……。まぁそれを差しいてもティナは幼馴染おさななじみ親友しんゆうだし入れたら戦力増強になる。入れない理由にはならないね」

「そのわりには難色なんしょくしめしてるようだが……」


 セレスティナとアンデリックが二人で歩いているのを見るだけでこれである。

 最早もはやケイロン本人はアンデリックに対するおもいがバレていないと思っているのか疑問が残る。

 スミナはいち早く気付いたが、エルベルはまだ気づく様子がない。

 この三角関係を見て思わない所がなくもないが、スミナ自身それが何なのかはまだわかっていない。


「ま、ティナは存分ぞんぶんに調べ上げたら興味が引くでしょう! 」

「それじゃぁ次、行くか」

蜂蜜はちみつ食べたい」


 ケイロンは興味が無くなった時のセレスティナの事を思い出し切りえた。

 スミナもスミナでそれに続き、エルベルはいつもと変わらずマイペースであった。


 ★


にぎわってますね」

「確かににぎわってるが……いつもこんな感じだっけ? 」


 目の前に広がる人の森を見て首をかしげる。

 いつもよりにぎわってる? けどなんで?


「では行きましょう」


 と、セレスが足をみ出した瞬間しゅんかん――


「きゃぁ! 」

「おっとすまねぇな。ねぇちゃん」


 人のれにし出された男がセレスにぶつかり彼女が俺にくっついた。

 その男はいつのあいだにかいなくなっており、俺とセレスだけがくっついている状態だ。


「す、すみません」

「いや。俺は大丈夫だ」


 少し倒れるように体をあずけているせいかかなり密着みっちゃくしている。

 俺としては役得やくとくなんだがセレスが離れる気配けはいがない。

 セレスの方が身長高いはずなのだが肩に乗りかかっているせいか顔が近い。

 と、言うかき通った角が目の前にある。だが彼女が下を向いているせいか顔を見ようにも見れない状態だ。

 周りの目もある。出来れば離れて欲しいが無暗むやみに触って離すわけにはいかない。 

 どうしたものか。うん。困った。


「はぁはぁはぁ……大精霊の加護持ちの方の体……調べないと……はぁはぁはぁ……ボソ」


 ぼそっと、しかし途轍とてつもない事が聞こえたような気がした。

 が、それを考えるもなく頭にひびくものがあり反射的にそこから離れる。


「ど、どうしました?! 」

「いや、今なんか危険察知さっちに反応が」


 いきなり俺が離れたことに驚き俺の方を向き聞いてくる。

 今あったことを話し、説明すると納得なっとくしてくれた。

 どこか彼女の顔が赤く感じるのは気のせいだろう。


「先読み、ではなく危機察知さっちですか。発動条件の差に興味がありますが今日の所は買い物ですね。さぁ行きましょう」

「あ、ああ」


 後の事が怖いが俺達は買い物を進めていったのであった。

 舌打したうちをする人に気付かずに。


 ★


「こんなところですね」

「そうだな。そうそう、少しりたいところがあるんだけどいい? 」

「いいですよ。ワタクシの買い物ばかりに付き合わせてしまいましたから」


 あの後幾度いくどとなく危機察知さっち発動はつどうしそれを避けるように買い物をした俺達。

 時間も昼食に近付こうとしていた為帰ろうとしていた。

 だが少しやる事を思い出し、商業区の一角いっかくへ。


「……」

「さ、入ろう! 」


 俺にはつかわしくない店であった。

 だがセレスがいると俺の不自然さはなくなるだろう。

 むしろ目の前の物に夢中むちゅうなセレスを見ると連れてきたのは正解だったと思った。

 セレスを引っり店内へ。


「いらっしゃいませ」


 出迎でむかえてくれたのはウサギ獣人の店員だ。

 長い耳をピクピクさせながら俺達を店内へ入れる。


「何にいたしましょうか? 」

「こっちの『ぬいぐるみ』を一つお願いします」

「え? ええ??? 」


 俺が店員さんにそう言うとセレスが少し戸惑とまどいながらこちらを見た。

 それもそのはず俺が言ったのはさっきまでセレスが見ていたぬいぐるみだったからだ。


「これを買うのですか? 」

「おう。悪いか? 」

「い、いえ。そんなことないですが……」

 

 少し残念そうな顔をしてこちらを見ている。

 どうやら誤解ごかいしているようだ。

 そしてかんするどい店員さんはそれに気付きぬいぐるみを無言むごんはこめラッピングした。


「ではこちらがお会計かいけいになります」

「……ちょっと高くない? 」

「ラッピング代になります」


 そ、そうか。このくらいの金額なら無理なくはらえると思ったのだが……ラッピング代か。

 ま、仕方ない。

 代金をはらい、ちょっと大きめのはこを受け取り片手で持ち店の外に出た。


「そっちの荷物にもつを持ちましょうか? 」

「じゃぁこっちをお願いしようかな」

「え? 」


 俺がそれを差しだすとセレスは戸惑とまどった。


「ほら。でも返す必要はないからね」

「これは! え? でもこれってアンデリックの物じゃ? 」

「俺は一言ひとこともそんなこと言ってないよ。はい、バジルの町に来た記念きねんにね」

「どうして……」

「この前から様子を見ていると本当にケイロンとなかがいいんだなと思って」

「そうですが……それがどうしてこのぬいぐるみにつながるのですか? 」

「ケイロンがきゅうにいなくなってさみしかったんじゃない? だからだよ。さみしがりのお嬢様にこちらをどうぞ」

「ありがとうございます。このお礼はいずれ……」


 セレスは満面まんめんみで眼帯がんたいをしたウサギのぬいぐるみが入ったはこを受け取る。

 そしてそのまま俺達はお昼になるまでに宿へ戻るのであった。

 セレスの体に龍鱗りゅうりん所々ところどころあらわれ青い光がほとばしっていたのは本人の為にも言わないでおこう。

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