種族の輪 《サークル》 ～精霊術師は今日も巻き込まれる～

第五十二話 依頼を受ける日々 四 エルフと一緒

　とりあえずトッキーの命令でやっと動けるようになったエルベル。

　宿泊の為に台帳（だいちょう）を書かせ、ひと段落。

　彼女の宿泊数は俺達の残り宿泊日数に合わせて約二週間ほどに。

　因（ちな）みに泊まるためのお金は俺が貸（か）すこととなった。

「返せるのか? 」

「大丈夫! 体で返す! 」

　そう言った時ケイロンから物凄い殺気を感じたのだがきっと気のせいだろう。

　しかしケイロンが考えていることとは意味が違うと思う。

　働いて返すということだろう。

　弓以外の物を持っていなかったので部屋に行くことなく食卓（しょくたく）につく。

「「クリアーテ様の恵（めぐ）みに感謝して」」

「森の恵（めぐ）みに感謝を」

「「「??? 」」」

　あ、そうか。

　それぞれ信仰が違うんだ。

　だから祈（いの）りの言葉が違うんだ。

「ま、多種族で組（く）んでたらよくある事だ」

「そうですよ。気にせずお食べください」

『気にしちゃだめよ』

　きちんとトッキーが言ってくれる。

　精霊であるトッキーがいうと全然重（おも）みが違う。

　主（おも）に暴走しそうなエルベルに対してだが。

　ナイスサポートだ。トッキー。

　俺は心で多分初めてトッキーのありがたみを感じた。

　そして食べ始める。

「うめぇ! これうめぇ! 」

「そう言ってくださると作った甲斐（かい）があります」

「こっちもうめぇ! 」

　ぱくぱくと食べ、丸い机の上の食事を平（たい）らげていく。

　俺達も負（ま）けずと食べる。

　この調子（ちょうし）だと食べつくされてしまう!

「ふぅ久（ひさ）しぶりにいいもの食べた」

「それはよかったです」

「俺達は食べ尽（つ）くされないか冷や冷やものだったがな」

「本当だよ」

『よく食べたわねぇ』

　エルベルの食べっぷりにトッキーも呆（あき）れ顔をして宙（ちゅう）をまっている。

「デリクの加護はトッキー様が与（あた）えたのですか? 」

『ふぇ? 違うよ』

　何のあてもなく俺達の上をまっていたトッキーは突然話しかけられ、一瞬戸惑（とまど）う。

　が、すぐに否定した。

　俺もトッキーから加護を受けた覚（おぼ）えはないな。

　いや、知らない間（あいだ）にやられていたという可能性もあるが。

　トッキーにジト目を向けた。

『な、何よ。私じゃないわよ?! 』

「この町に精霊はいなかったんだろ? 」

『そうだけど私じゃないわよ。それに私が加護を与えても触（ふれ）れないわよ! 』

「おさわりできるですとぉ?! 」

『お、落ち着きなさい! いいこと、私の、私の前では落ち着くことよ! 』

「……っく! トッキー様がおっしゃるのならば……」

　俺が触（ふ）れることが相当（そうとう）悔（くや）しいのか血の涙を流しながら机の上で握（にぎ）りこぶしを作る。

　良い事なんてないのにな。逆に睡眠妨害（ぼうがい）してくるし。

　呆（あき）れた顔を向けていると目から血を流した状態でこちらに緑の瞳を向けてくる。

　ホラーだ……。

「……オレもおさわりしたかった。っく!!! 」

　全員ドン引きである。

　特にトッキーの声すら聞こえないケイロンをはじめとする皆（みんな）はその一言にドン引きである。

『あ、危なかったわ……。まさかエルフ族がこんな変貌（へんぼう）を遂（と）げていたなんて。大精霊に会ったら一言言わなくちゃね……』

「今さっき気になったんだが、トッキーが加護を与えただけじゃ触（ふれ）れないのか? 」

『え? そうよ。私のような一般精霊クラスじゃまず無理ね』

「俺に加護を与えた精霊が物凄く気になるんだが……」

　知らない間（あいだ）に加護を与えられていたことも含め、気になる。

「見当（けんとう）がつかないか? 」

『多分だけど大精霊じゃない? 』

「大精霊? 」

『そっ。触（ふ）れることが出来るようになるのは大精霊か精霊王様かのどちらかの加護よ。精霊王様は条件がそろわないと人に干渉（かんしょう）すらできないから、大精霊』

　そう言うとくるりと一回転し「私は上に行ってるわ」と言って天井（てんじょう）を抜けていった。

「いなくなったな」

「デリクの加護は大精霊の加護? 」

「みたいだな、トッキーの話によると」

「羨（うらや）ましい、羨（うらや）ましい、羨（うらや）ましい……」

　隣で呪詛（じゅそ）を吐（は）くエルフを無視して続きを話す。

「しかし聞いてみるものだな。少し絞（しぼ）り込めた」

「で、デリクは精霊魔法を使えるの? 」

「分からない。けど当分（とうぶん）は……魔法と剣の訓練（くんれん）だな」

　ガルムさんとフェルーナさんの方を見て、彼らが頷（うなず）く。

「そうだぜ。今の日程（にってい）でもかなり無茶（むちゃ）な日程（にってい）だ」

「これ以上は全（すべ）てが一段落してからですね」

「その後に精霊様に教えてもらえばいい」

「もしくはそちらのエルベルさんにでも」

「え? オレか! 」

　意外だ、と言わんばかりに驚き立ち上がる。

「猪（イノシシ）を討伐する為に何か詠唱（えいしょう）のようなものをしていたな」

「そうだね。【我（われ）はエリベル! 風の精霊の加護を受けしこの矢を受けよ!】と言っていたね」

「よく覚（おぼ）えてたな」

「それほどでも」

　褒（ほ）めるとケイロンが満更（まんざら）でもない様子で頭に手をやる。

　エルベルは立ち上がった状態で固まっている。

　どうしたんだ?

　と、思っているとケイロンが仕切（しき）り直す。

「コホン。多分だけど【自分の名前】足（た）す【加護を与えた精霊名】足（た）す【魔法名】かな? 」

「そうなると、俺は自分の加護を与えた精霊を知らないといけないのか。エルベル、こんなところか? 」

　固まっていたエリベルが少し顔を赤くしてもじもじしだした。

　そして口をもごもご動かし始める。

「……ﾁｶﾞｳ」

「え? 何て? 」

　声が小さくて聞こえない。

　耳を澄（す）まして再度聞く。

「なんて? 」

「……違うんだ」

「そうか。構成（こうせい）が違うのか。だが。となると信仰か? いやそれとも周囲にいる小精霊の数か? 」

「違うんだ! あ、あ、あ、あれはかっこいい呪文を唱（とな）えたら、威力が上がるかなってやっただけなんだ!!! 」

「「「……え??? 」」」

　冷たい風が半開（はんびら）きの窓（まど）から流れてくる。

　かっこいい呪文?

　ドユコト?

「ケ、ケイロン。かっこいい呪文を唱（とな）えたら魔法の威力は上がるのか? 」

「直接は関係ないかもしれないけど……。精神状態が魔法の威力に影響することもあるから一概（いちがい）には否定できないね」

「そうなのか。で、あの時の呪文はかっこよかったのか? 」

「今回のかっこいいかどうかは個人の主観（しゅかん）によるから僕達にはわからないね」

「うわぁぁぁぁぁ!!! 」

　俺達の冷静な分析を受けたら彼女は机に突（つ）っ伏（ぷ）してしまった。

　本当にどういうこと?

「あ～聞いた話によるとな。精霊魔法は無詠唱（えいしょう）でいいらしいんだ」

「なら、詠唱（えいしょう）しない方がいいじゃないですか? 」

「合理的（ごうりてき）に考えるとそうなんですけど、何といいますか。時折（ときおり）、いるのです。精霊魔法を使う人の中にこういった奇特（きとく）な方（かた）が」

　全員が彼女の方を見るとさっきまで羞恥（しゅうち）に塗（まみ）れていたのが嘘のように机の上で涎（よだれ）を垂（た）らし、寝ている。

　自由な人だ……。

　よくよく考えると二回目エリベルが猪（イノシシ）に吹（ふ）き飛ばされた時光が彼女のクッションのようになっていたな。

　あの時「風の精霊に助けられた」と言っていたのはそう言うことか。

　ようやく理解したところで彼女を見る。

　どうやら今日の所は疲れたらしい。

「自由な人だね」

「全（まった）くだ」

「明日どうする? 」

「そうだな……エルベルとの連携（れんけい）も確認したいから討伐系か採取系か」

「なら一応採取系だね。どうやら薬草が足（た）りないらしいから」

「そうなんだ。なんで? 」

「ほら、この前モンスター暴走（スタンピード）があったでしょう? あれであそこの東の山のスタミナ草がやられてしまったみたいなんだ」

「あ～踏（ふ）みつぶされたのか。了解。明日エルベルに伝えよう」

「よろしく」

　明日の予定を組（く）み、今日の所は休むのであった。