小説もどき(日記に準じて翔べたらいいね)

ぽふ、

第1日目 今日は何の日?

夕刻、ごはんの前のひとときに、ふっと一息つく。

「明日は何があるだろう?」

ただ、今はほんと、お盆の休みで。仕事なんて休みである。昼にはパソコン教室へ行っていた。その足でぷらぷら買い物などして、ひとり愉しんでいた。

ふらっと立ち寄った店で、何かないかと物色して見つけた。

「さー、来たね。よってらっしゃい。もっとこっちへ」

云って心に語りかけてきたのは、石だ。

よくある話。

石が呼ぶとは、ほんとよくある。

云われて寄って、見てみたところ、なんて懐かしい香りがするのか。

小学校の帰り道、住宅地を抜けてぐるっと回って帰るほうの坂の下にあった家。クラスメイトの家だった。

その子はピアノを習っていた。顔は白い狐のようだった。本当には違ったかもしれないが、そう覚えている。ずっと忘れていた記憶。おかっぱで、お高く留まった感じのするところが狐を連想させたのかもしれない。それか、ピアノを弾ける、ピアノを持ってるということを、恨めしく思った私の気分によるものだったかもしれない。

石を見て、懐かしく思い出したその子のことを。

実は、それ以上には覚えていない。

ただ懐かしい。

ただただ懐かしい気持ちになって、石のことももう忘れて、何も買わずに店を出た。

灼熱の、を通り越した暑さ。

ただただ暑い外気の中。

とぼとぼ歩いてバス停へと向かう。

川があって、魚も泳いでいるもよう。ぱしゃぱしゃと時折跳ねる様。

橋のところの横断歩道で、信号を待つ。

ぽーんとほだされたような気持ち。

ピアノなんだよねぇ。なんでかね? 私とピアノとの邂逅は、当時からすれば、まだ先のことであるが。羨ましく思ったことのずっと先の未来。それが今で。自分で演奏するのではなく、聴くのだ。時折、演奏された曲が脳内で自動再生されている。

ごはん前のひとときに、ふっと心に聴こえてくる。

混ぜこぜの。

気持ち。

「明日は何があるかねぇ?」

今を生きて、過去を抱えて、未来へ往く。



<了>

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