第8話:二次会の帰り道


「じゃあな! 明後日ドライブだぞ! 約束したからな!」



 ハガレンが路上で大きな声で確認してきた。


 俺が里帰りして数日はこっちにいると分かると、4人でドライブに行こうと言い出した。俺も家にいるよりは気が晴れるので、了承した。シホも行くらしい。

 

 ハガレン夫妻とは地下鉄の駅で別れた。


 俺とシホはこの駅が最寄りなので、地下鉄に乗る必要はなかった。たまたまうちの近所で同窓会だったから参加しやすかった。



「ねえ、ユウくん。もう帰ると?」



 時間は夜の8時。今帰ったらあの父さんと過ごす時間が長い。



「いや、もう少しウロウロしようかと……」


「よかったら、うち来ん? さっき話したワインも渡したいし」



 社交辞令で言った話をすぐに実行するとか、どれだけ律儀なんだよ。まあ、どちらにしてもシホは家まで送っていく必要があると思っていたので、お邪魔しようか。久々におじさんやおばさんにも会ってみたいし。


 シホのおじさんとおばさんは気持ちのいい人で、とても話しやすい。あんな人が俺の親だったら俺の性格ももうちょっと社交的だったかもしれないし、人生も違ったかもしれない。



「シホ、俺はいつも何かに劣等感を感じている人間かもしれない」


「どうしたの? 急に」



 たしかに急だ。酔っぱらっているからだろう。



「同窓会では『夢をかなえた男』とか言われて持ち上げられてたけど、高校時代から付き合ってた加藤と結婚したハガレンがすごいヤツに思えたし、羨ましかった」


「うん」


「シホも昔からモテてたし、相変わらず完璧で、俺は一生かかってもそんな人にはなれないと思った」


「え⁉ 私全然完璧じゃないよ!」



 そこで、どやらないのも謙虚で完璧だ。



「俺、どこか『みんなとは違う』ってどこか思ってた。もっと上を行くって。でも、俺は福工大で福大には行けなかった。シホは福大受かったし。羨ましかった」



 福岡では、総合大学では福岡大学がかなり大きい私立大学だ。俺は福大に受からなかった。福工大、福岡工業大学は工学部しかない私立の単科大学だったけど、こっちには受かった。偏差値的には、福大の1つ下だろうか。



「ユウくんは、理系だし、文系の私とは比べられんよ。私、理系科目全然ダメやし」



 俺は、本当は福大に行きたかった。父さんが卒業できなかった大学、福大。俺が代わりに卒業してあげたかった。ただ、俺の頭では受からなかったのだ。



 広めの道路はお盆休み中ということもあって車の通りはほとんどなくして静かだった。広めの歩道は横に並んで歩いても十分空きもあって、たまに通り過ぎる自転車のこともあまり気にする必要がなかった。



「私はすごいと思っとーよ? なりたかった設計になったし、東京に行って働いとーし、ずっと福岡に住んでいる私からしたら東京での生活なんて想像もつかないし」



 みんなが憧れる「東京での生活」ってなんだろう? どうして俺はそれができてないんだろう?


 そんな事を考えているうちに、俺たちの住む団地が見えてきた。古めかしいうちの実家の団地と違って、シホの方はマンションタイプの団地。ここにも俺の劣等感があるような気がする。


 ワインをもらいに、シホの家に行くことになった。それこそ、何年ぶりだろうか。10年以上行ったことがないシホの家に行くことになった。

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