鍛冶師と付与術師の日常
かにたまどん
第1話-プロローグ 武具店の日常
剣と魔法の世界。
空には竜と魔力により飛行する魔道船が飛交い、地には人と魔が満ちる。
その地の名はモルナシア大陸。
大陸を南北に分断する巨大なヨルムンガレイン山脈が横たわる。
北には魔物の領域が。南は人類の生存圏となっており、時折溢れ出してくる魔物に対抗するのは山脈の南に位置する人類の盾、デベネノア王国だ。
街ゆく人々は様々な種族が歩く。尖った耳の女も居れば獣の部位を持つ男も居る。
剣を携え鎧を着た兵が城門を守り周囲は高い石造りの壁が街を囲う。
その王国の王都はずれにある巨大な大剣の看板が掛かっている武具店のある昼下がり。それがこの物語の舞台である。
「らっしゃーせー!らっしゃーせー!安いよ安いよ!
ドワーフの禿げ親父印の金物が安いよー!
おっ!そこのお嬢さん!そうそう!そこの美人さん!」
「あら?私かい?」
満更でもなさそうなマダムに声をかける艶々した銀髪に深紅の瞳と長く横へ伸びた耳。所謂エルフという種族である。
薄い体つきに麻で出来た長袖長ズボン姿の少年。
歳の頃10代前半程度に見える。
実年齢は分からないのだが。
「そうそう!お嬢さん!包丁なんかいかが?これ一本で肉から野菜からまな板まで一刀両断だよ!旦那の胃袋も一発でグサッと一突きさ!」
「アラヤダ。そんなに切れ味いいのかい?」
「そりゃそうさ!何といってもドワーフの禿げ親父印だからね!
コイツがあれば浮気した旦那のあそこもチョン!でイチコロよ!」
「「「ヒェ!」」」
通りすがりの男たちが内股になる。
「「あっはっはっは!!」」
僕とお嬢さんが笑っていると背後に忍び寄る影。
ボグゥ!鈍い音と共に落ちる拳骨。
「ぎぇぺっ!」
「エル!テメェ店番サボって何やしてやがる!」
「失礼な!ドミニクの旦那!営業妨害っすよ!こちらの見目麗しいお嬢さんに営業してただけっす!
そんな気軽にポコポコ殴って!これ以上縮んだらどうしてくれるんすか!」
「そうだよドミニク。アタシが折角一本買ってやろうっていう所だったのにアンタこそ何やってんだい?」
頭を押さえながら訴える僕と援護射撃してくれるお嬢さん。
くるくるのベージュ色の髪に勝ち気な水色の瞳。お隣の宿屋の女将さんのパトリシアさんである。
娘さんは僕よりも年上に見えるお姉さんだ。・・・うむ。エルフ年齢換算ならお嬢さんだ。問題ない!
「んあ?ああ。悪かったな。てっきり遊んでるのかと思ったわ」
ポリポリ頭をかきながら素直に謝ってくれる低身長筋肉質、髭モジャハゲ親父の平均的な容姿のドワーフであるドミニク。
そういうとこが気に入ってここで働いているのだ。
「包丁買うのにわざわざ測るのかい?」
「え?当然オーダーメイドですよ?測らないと作れないじゃないですか?はい。この粘土握って」
「え?こうかい?」
「そうそうぎゅ~~~っと。お上手ですよ!お嬢さん」
「そうかいそうかいって。いやいや!オーダーメイドだと高くなるだろう?既製品で十分だよ!」
「いえいえ!お金は心配しないでください。既製品のお値段で大丈夫ですとも!ねぇ旦那?
材料費は変わらないし問題ないでしょ?」
「いやいや!工数が変わるだろ!その分の手間賃が「しゃら~~~~っぷ!」
口を挟み強引に会話を止める。
「どうせ仕事もないのに暇でしょ?そのぐらいの手間惜しまないでください!
お客様には良いものを届けるのですよ!使い勝手が良ければそこから口コミで仕事も入ってきます!
今は営業活動をするターンなのです!」
「だが・・・金がないし・・・」
「だから原価は変わらないから問題ないでしょうが・・・そうだ!
おっと!さっき殴られたところが急に!いたたたた!これはオーダーメイドの包丁を売れないと治りそうにないなー?チラチラ」
「ハァ、わかったわかった。それでいいから採寸やっといてくれ」
呆れたように店の奥に引っ込んでいくドミニク。
「良かったのかい?アレ」
「いいです良いです。僕を毎度殴ってる罰ですよ。では採寸も終わりましたし出来上がったらお届けすればいいっすかね?」
「ああ、それでいいよ。ありがとうね!出来上がりを楽しみにしてるよ!」
わざと旦那に聞こえるように大声で返事してくれたな?
さすがお隣さん!扱い方をよく分かってらっしゃる。
「はい!またのお越しをお待ちしております!お嬢様」
「お嬢様呼びもいいね・・・また来るよ!」
「はい!ありがとうございました!」
左手を胸に当て右手を後ろに回し、頭を下げお見送りをする。
ふぅ~。今日のノルマは終了!
執事服でも用意しておくか・・?
いやいや、給料が全部吹き飛んでしまう。うん。やめておこう。
フハハハハハ!後は店番しながらダラダラさせてもらうとしようか!
どうせ客など来ないしな!
今日も一日が終わる。
ドミニク武具工房の日常である。
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