第4話 店の店主は若い女性は苦手だけれどちゃんと商いできました(1)

「えぇ~と、チョコバナナと言うのはこれです」と。


 この店の亭主……ではなく。店主の健太は自身の代わり接客を初めてくれたが大変に神々しい者……。自身が良くお参りをする近所のお稲荷さまを束ねる女神さまだとは知らずに……だけではないのだ。


 彼の、翔太の様子を見て確認をすればわかる通りでね。


 そう、若い女性に対して嫌な思い出、トラウマのある翔太は基本若い女性と話し、会話をするのが苦手……。


 それも困難だと言っても過言ではない彼が、最初こそお稲荷さまの人間離れをした神々しく麗しい容姿に対して驚愕こそしてはみたのだが。


 今はお稲荷さまに対して照れ恥ずかしがることもしないで、彼女が訊ねてきたはどれかを、ステンレスのお盆、飾り台の上に綺麗に並び飾られたを上から覗き込むようにしながら商品アイテムを検索──。


 そして見つかれば、


「これがワッフルのチョコバナナです」と、お稲荷さまに指さしながら教えるのだ。


「そうか亭主、ありがとうの」と、お稲荷さまは翔太へと満身の笑みを浮かべながらお礼を言えば。


「亭主、この紙の袋に、茶菓子を入れれば良いかの?」と。


 お稲荷さまと翔太の目の前にある紙の袋を彼女は掴み持ちあげ。翔太へと問いかける。


 だから翔太自身も何も考えず、悩ますに


「ええ、そうですよ。その袋に入れたらいいですよ」


 お稲荷さまの問いかけ、訊ねに対して彼も悩んだ顔をなど一切しないで言葉をかえすから。


「お店の奥さん、二つでおいくらになりますか?」と。


 幼い娘のママ自身も何も考えず、お稲荷さまのことをこの黄色、うんこ色したキッチンカー、お店の女将と勘違いをし。


 お稲荷さまへと商品二つの料金、金額はいくらなのだと問いかけるから。


「亭主、二つの商品合わせていくらになるのだ?」と


 お稲荷さまはまた気にした様子、素振りも見せずに何食わぬ顔で翔太毛と訊ねるから。


「えぇ~と、二つ合わせて税込み価格五百五拾円になります」と翔太が答えると。


「はい」と幼い少女のママはお稲荷さまへと壱千円札を手渡すから。


「亭主~、ほら、お釣り~」と。


 お稲荷さまは翔太に壱千冊を手渡し、お釣りを寄こせと催促をするから。


 また翔太は「えぇ~と」と声を漏らしながら。釣銭、小銭を溜めているプラッチックのザルとボールとがセットで百円の百円均一で購入したザルの中を『ジャリジャリ』、『ガシャガシャ』とお釣り四百五十円を探索──。


 そして見つかれば「はい」とお稲荷さまへと本当に何食わぬ顔──いつもやっているかのように平素でお釣りを柔らかい掌へと渡すから。


「ほい。ほら、娘さんお釣り四百五十円じゃ、本当にありがとう。済まぬなぁ。また御ひいきにのぅ」と。


 お稲荷さまは本当に翔太の黄色、うんこ色をしたキッチンカーの女将の如く振る舞いで、微笑みながら平然とお仕事、商いをしているから。


 お稲荷さまから商品のお釣りを受け取ったママさんの方も全くと言ってよいほど気にした素振りもみせず。


「いいえ、いいえ、こちらこそ。御丁寧にありがとうございます。また見かけたら購入しますね」と。


 優しくお稲荷さまへと微笑み返してくれて、小さな娘さんの方も。


「綺麗なお姉ちゃんありがとう。バイバイ」と。


 お稲荷さまへと手を振りサヨウナラをしながら若いママの背をついて駐車場へと向かい歩きだしたから。


「ふぅ」と若い女性が苦手な翔太は、若いママさんと娘の歩く姿……。微笑み会話をしながら自分の売り場、キッチンカーから立ち去る歩く姿、背を凝視しながら自身の胸を撫で下ろし安堵するのだ。


 そして自身の目の前で立ち去る若い親子の様子を微笑み、温かく見詰めるお稲荷さまへと翔太は『あのぅ?』と声をかけようと試みようとすれば。


「亭主、またお客さんがきたぞ」と。


 お稲荷さまが遠くを見詰めるような目、眼差しをしながら。告げてくるから。


「えぇえええっ!」と。


 翔太は大きな声を出しながらお稲荷さまの美しい金色の瞳──視線の先を追う。


 そして自身の目の瞳に映る者達を見ると。


「えぇ、うそでしょう」と落胆した声色で言葉を漏らす。


 だからお稲荷さまが翔太の方へと自身麗しい顔を向け──微笑む、ではいよね?


 まあ、当たり前のことだけれど。


 そう、お稲荷さまは翔太の気の抜けたような声音と落胆したような声音が混ざり合った台詞、言葉を聞き、怪訝な表情で、


「何が嘘なのじゃ、亭主? ちゃんとこの奇妙な店の売り上げになる。貢献してくれる若い娘の客がこちらに向かってきているぞ」と。


 翔太が一番苦手としている。トラウマになっているOLっぽい容姿の大人のお姉さま、お嬢さま二人が楽しそうに会話、和気藹々の雰囲気でこちらへと向かってきているのが翔太の目にも、瞳にも映ったから彼は驚嘆を漏らしたのだが。


 でもお稲荷さまは、翔太との出逢いは今日、先ほどが初めてだから……と言うことはない。


 まあ、ないのだよ、実のところはね。


 だから翔太が何故若い女性が苦手、アレルギー体質へと変貌したのかお稲荷さまは知っている。悟っている。


 でもお稲荷さまは翔太の精神的な病のことなど知らない。わからない様子を装いながらOLのお姉さま二人が自身の声が届く位置まで歩み寄れば、ニコリと笑顔──。


 お稲荷さまは商売、商い顔の女神さまへと変貌しながら。


「いらっしゃい」と明るく声をかけ呼び込みをするから。


(えぇ~、うそでしょう?)と。


 翔太は脳裏で思うのだった。



 ◇◇◇


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