21 狙いは選王侯会議?(前)
ルブレヒト侯爵の、何番目か知らないけれど息子を名乗る子が冒険者ギルド食堂に来て「ロック鳥の卵料理を食べさせろ」と騒いだ――と僕が話をすると、その場にいた全員が、それぞれ眉を
「ロック鳥……なんで卵料理ばっかり」
「いやいや、そこじゃなくて。それ普通に情報ダダ洩れじゃねぇかよ」
リュート叔父さんとギルさんが、呆れたと言わんばかりの視線を交わし合っている。
やっぱり叔父さんたちも、聞いただけで「ロック鳥の情報がギルドの外に知られているのはおかしい」と分かったみたいだ。
うん、このことに関しては僕が勉強不足だったんだな、反省。
一方のアンヘル軍団長さんはと言えば、どうするのかといった表情を、父親であるエイベルさまの方へと向けていた。
「ルブレヒト侯爵家か……」
エイベルさまは、少し顔を
「父上、それは私――というか、騎獣軍では手に負えない
すぐさま叩き潰せと命令しないあたり、騎獣軍では権力が及ばないということか。
そう尋ねる
「うむ。これはまだ予測だが、近いうちに開かれると言われている『選王侯会議』のために、資金を必要としているのではないかと思ってな」
選王侯会議。
僕でなくとも、学校に通ったならほとんど最初の頃に聞く話だ。
この国の王位継承は、世襲と合議の合わせ技で長年成り立っている。
現王とその兄弟姉妹の中から各一名、そして四つの辺境伯領の当主の「寄り親」となっている各公爵家から一人ずつ、最後冒険者、医療、職人、商業のギルドの中から推薦されたギルド長が一人――計七名が、次の王を決める際にはテーブルにつく。
王は死ぬまで王でいられる訳じゃない。突然亡くなったり、どうしようもない愚王だったりした時に国が混乱をしてしまうので、五年に一度、再び王を名乗るか別の誰かに譲るかを話し合うのだ。
稀に王が次の五年を迎える以前に亡くなった場合は、その時点での王位継承権第一位の者が出席をして、自らの資格を秤にかけるということらしい。
今の国王は、まだ健在だ。
ただかなり高齢なので、次の五年も王となるかどうかは微妙なところだと言われていた――のは、冒険者ギルドの中で僕も小耳に挟んでいる。
「竜の卵や鱗、爪を含めてレアな素材を全て金に変えて、選王侯の誰かを買収にかかる。そうお考えですか?」
そう話をまとめたリュート叔父さんに、ギルさんも軍団長さんも(あるいは僕も)納得しかけていたけど、どうやらエイベルさまはもう一段階上のことを考えていらしたみたいだった。
「うむ。それがルブレヒト侯爵家でなければ、私もそう考えただろうな」
だが、と話すエイブルさまの顔は、腕っぷしは騎獣軍がいれば充分だから、自分は頭脳で勝負をすると日頃から公言されている、辺境伯家の「当主」の顔だった。
竜の心臓、とも王都では恐れ――讃えられているらしい。
「まあ、おまえたちはあまり気に留めていないのかも知れんが、今の王子妃の一人が、ルブレヒト侯爵家から嫁いだ妃なのだ。だが他の王子妃は公爵家、しかも〝水〟と〝地〟の寄親である公爵家の出だ。そして我がザイフリート辺境伯家の寄親たるブラウニール公爵家嫡男は、王家の姫と婚約中。資格だけなら、いずれ王女の夫として選王侯会議に出ることが可能になる。……さて、その結果は?」
エイブルさまも、多分軍事に関わらない話を軍団長さんやギルさんに振ることは、仮でもする気がないのか、真っ直ぐリュート叔父さんを見て、回答させようとしていた。
僕も、聞かれてないけどちょっと練習してみよう。
そう思って、叔父さんの仕草を真似するように、右手の人差し指で左の二の腕をトントンと叩いてみた。
うん、ほら、何事も形からっていうし!
「おっ、なんだハルトもコイツの真似なんかして。やめろやめろ、モテる男の仕草じゃねぇぞ?」
「モテるモテないは、どうでもいいですけど、叔父さんみたいになりたいんで、僕も考えますよ!」
勝手に内心で答え合わせをするんで、お構いなく。
僕はそういったはずなんだけど、誰もそれを聞いていないみたいだった。
じゃあ、ハルトはどう思った?なんて、叔父さんまで聞いてくるんだもの!
でも、早く竜を出して貰わないといけないわけだから、僕もこんなところで冗談は言えなかった。
「えっと――王子王女を伴侶とする中で、ルブレヒト侯爵家だけが、選王侯会議への参加資格がない……とか」
「「‼」」
その時確かに、エイブルさまとリュート伯父さんは同時に目を瞠っていた。
「ほう……英雄の養い子は、なかなかに見どころがあるか?」
「……少なくとも、冒険者に向いていると言われるよりは誉め言葉ですよ、エイベル殿」
もしかして、二人はちょっと僕を褒めてくれたんだろうか。
僕は、気を抜くとへらっと緩みそうになる頬を引き締めるのに苦労してしまった。
「ハルト、その
「……っ」
そしてすかさず叔父さんのツッコミが入ってしまい、僕は肩を落とした。
「だが、まあ、概ねそれで合っているのだから困りものだな。……ですよね、エイベル殿?」
僕と叔父さんの視線を受けたエイベルさまは、心の奥底を読ませない表情で、そこで微笑んでいた。
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