デスゲーム2日目~人狼編④~
人狼ゲームとしては四日目を迎えた。いよいよ残っているメンバーは知っている顔しかいない。
もし水瀬が真占い師で私を泳がせたのなら、噛まれるのは水瀬だろう。次点で私かマドカが噛まれる可能性が高い。
だがもし水瀬が人狼なら……誰を噛むのだろうか。わからない。正直水瀬人狼のパターンの時は従来の人狼ゲームとは違う思考で挑まなければならない。
席に着く。ほかのみんなも席に座る。みな、それぞれ重い顔つきだ。ここからは友人を殺さなければならないフェーズだ。仕方がない。
いつも通りアナウンスが流れる。
『凄惨な夜が終わり、新しい朝がやってきました。今晩人狼に襲われたプレーヤーは……おりません』
「えっ」
「なに……?」
「……!」
衝撃が走る。この局面で、犠牲者無しだと?
『それでは、会議を始めてください』
無機質なアナウンスが流れ、会議が始まった。
「いいかな」
ハルが手を挙げる。
「今回私は騎士の力を執行して水瀬を守った。結果、犠牲者は0。これで私の騎士は証明されたかな」
「待てよ」
エリカが鋭い声で切り込む。相変わらず、ここは険悪なムードだ。無理もないが……
「このターンは潜伏してあたかも騎士かのようにふるまったって線が消えてねえ。カオリが白として吊られている以上、そんなモンが証明になるかよ」
「……へえ、やけに口が回るね」
「てめえもなァ」
ここの対抗を二人に任せていても埒が明かない。いったん正常に進行しなければ……
「そこまで。まずはせっかく生き残れた水瀬の占い結果を聞きましょう」
「そうね……」
「そうだな」
「水瀬……あんたこの二人を占ってるわよね?まさかとは思うけど」
「うん……」
水瀬は、顔を上げてハルを指さした。
「ハルさんは白です」
「バカな!!そんなはずねえ!!!」
「決まりね」
ハルは勝ち誇った顔をした。これで盤面上はエリカが黒確となった。
「待て待て待てそんな訳あるか……私は市民だぞ!!!おい、私らダチじゃねえのかよ!!!!」
「残念だけどもう関係ないの……誰かを犠牲にしないといけない。もとよりあなたが人狼ならば、一緒に生き残れる可能性なんて無かったんだから」
「クソが……おい!マドカ!カナ!!お前らもこれでいいのか!!??」
「マドカは……わかんない……でもこうなったらエリカちゃんが人狼だってことは分かるよ……」
「……」
どうすればいいのだろうか。
私の視点からすれば、まだ水瀬の正体が確定していない。ストレートに人狼なのか、私を泳がせているのか……
私を泳がせるとしたら、何が目的だ?狂人として何もできず人狼が吊られていくところを眺めていろと言うのか。そして、そのあとに為すすべもなく死んでいけ、と……
いや、まどろっこしすぎる。私を白と言ったターン。あそこで私を黒と言えなかったのは投票数で負けるから。だとしても泳がせすぎではないか……もう黒を吊っている以上、真占い師の立場は揺るがない。なんだったらこのターン改めて私が黒だったことを発表すればいい。
だが水瀬は何もしない。ただ、俯いて私たちの言い争いを聞いているだけだ。
「おいカナ!なにぼーっとしてんだ!!」
エリカの怒鳴り声で現実に引き戻される。
「あ……ごめんなさい……」
「しっかりしてくれよ全く」
会議は進んでいる。が、これはエリカ吊りは免れないだろう。仮にエリカが本当に人狼だとしても、それを覆すには私が狂人ということをアピールしないといけない。そうなったら吊られるのは私だ。今の私には、もう何もできない……
それに、エリカはサクラ殺害容疑もある。正直、今エリカのために動けと言われても難しい。
「そうか……そうかよ……クソ……なにがどうなって……」
エリカはぶつくさ独り言をつぶやいている。だが次の瞬間エリカは「あ!」と大きな声を上げた。
「何よ急に」
「そうか……そういうことか……わかったぞ」
「今更何?もう何言っても状況は変わらないわよ」
「いいや、変わるさ」
エリカが顔を上げた。その表情から自信満々さが窺えた。
「まずハル、悪かったな。お前を疑っちまった。お前は白だ」
「はあ?何急に……」
「カナとマドカは分からねえ。狂人がいるかもしんねえ。でも片方は白だろ?だから私の話をいったん聞いてくれ」
「え、ええ……」
「うん……?」
「人狼はテメーだな、水瀬」
エリカは真っすぐに指を伸ばし水瀬を指した。水瀬は相変わらず顔を俯かせている。うっとおしい前髪のせいで表情は相変わらず分からない。
「エリカあんた……今更何を……水瀬は人狼を吊ってるのよ?もう真占い師で確定するしかないの」
「それは人狼ゲームの話だろ?」
「これ人狼ゲームだけど」
「思い出せよ、最初に気づいたのはお前だぜ、ハル」
「……まさかエリカあんた、このゲームそのものの黒幕は水瀬って話をここでぶり返すつもり?」
「ああ。前提として水瀬、テメーは裏切者だ。あの日……K町で稼いでたあの日。テメーが裏切ったせいで私たちは停学になったんだ」
「……」
「それはそうだけど……」
「なあ水瀬。テメーは私たちと普通のダチだった。貧乏な私たち相手でも普通に接して、飯を奢ってくれたりもしたな。正直最初はてめーの金目当てで近づいた、ってところもあるが、少なくとも私は本気でダチだと思ってたんだぜ」
「……」
「だがあの日。これまで私たちのエンコーに口出さなかったくせに、急にK町に行くのを止めやがったな。私たちはとっくにきれいごとの世界じゃ生きていねえ。今更性善説なんざ聞きたかねえんだよこっちは。だがてめえは私らを止めるために先公にチクりやがったな?これまでのエンコーすべてとK町に行ってからのことを」
「……」
その通りだ。それまでは何も口出ししてこなかった水瀬が、K町でパパ活をするとどこからか聞いて止めに来た。もちろん私たちは無視したが、一週間後学校にバレた。K町で先生が張り込んでおり、あえなく現行犯逮捕だ。後から水瀬が学校に密告したことを聞いた。どこから手に入れたのか、それまでのパパ活の記録も含めて。K町では結局「K町の女王」という異名の女がパパ活を仕切っているらしく、ロクに稼げずひどい目にあったというのに泣きっ面に蜂だ。
「水瀬。てめーに私らの気持ちは分かんねえんだよ。お前みてえなボンボンにはな。結局稼ぐアテがなくなって、私らにどんな生活が待ってるかてめえ知らねえよな?地獄だよ。わたしらにはもうまともな家庭なんざねえ。てめーは私たちを地獄に落としたんだ」
「……」
水瀬はずっと黙りこくっている。
「エリカ、それは私たちもわかってるよ。でもだから何なの?今は関係ないじゃない」
「あるさ。まずこいつは平気で私たちを裏切る女っていう再確認。そしてこれからは話すのが動機だ」
「動機?」
「一つが私たちへの復讐。まあこっちからしたら逆恨みだが、例の事件のあとの私たちからの報復に嫌気でもさしたんだろ?」
「……」
「どうせてめーは私たちのことをいじめグループとでも思ってんだろうが、こっちからしたら復讐だよ。てめーに虫入りの弁当を食わせたのも、教員用の男子トイレを舐めさせたのも、すべてな」
「……」
「動機がそのいじめに対する報復だとして、まだあるの?」
「推測になるがな、硬いと思うぜ。水瀬、お前も売春やってんだろ」
「なっ!?」
「えっ!?」
「そうなの……!?」
水瀬以外の皆が驚きの表情を浮かべる。当の水瀬は俯いたままだ。
「クセェんだよてめえ。あの頃からそうなんじゃねえかと思ってたぜ。私の鼻はごまかせねえ」
「野生動物かよあんたは」
「それだけが証拠じゃねえ。お前、サクラに脅されてたな?」
「えっ……水瀬も?」
「嘘……?」
サクラに脅されてた?いや、ていうか今ハル「も」って言ったけど……あなたたちも脅されてたってこと……?私は何も知らない……
「ああ、カナは知らねえんだっけな……実はサクラは私たちのパパ活を写真やら動画やらで撮影して脅迫してきたんだ。まあ別に脅迫つってもお願い程度のものだったし、私はそこまで気にしてなかったけどな」
「私は気にしたわよ……固定客をいったんサクラに流せとか言ってきて……」
「マ……マドカもそんな感じ……」
「そうなのか?……まあサクラはそんな感じで盗撮しては脅迫のネタにするやつだったんだ。そんでそのサクラがな、丁度ここに拉致される2週間前に『デカいネタを手に入れた』って私に相談してきてな。結局それが何なのかは分からなかったんだが……今思えばあれはお前のことだったんだな」
「…………」
水瀬の眉毛が少し動いた、ように見えた。
「だからだろ?お前はその見られちゃまずいデータを消すためにサクラを殺した……お前がサクラを殺した犯人なんだろ?水瀬!!」
「なっ……ちょっと待ってよ!じゃああの映像は!?」
「あれは合成だ。あの金属バットで殴る映像はな、前に私が引いた客のセクハラが酷かったから制裁したんだ。自前の金属バットでな。ほら、私は本番やんねーだろ?」
「いや、そうだけど……」
「そしてその映像は、私が実際サクラから脅された際に使われたモンだ。何回も見たから覚えてんだ。だから、サクラだけがその映像を持ってる……はずだった。しかしサクラが殺される映像に合成されてるってことはサクラを殺した犯人がデータを入手した。そいつは自分の不利なデータを消すためにサクラを殺したんだ。じゃあ他に私らのデータを見つけてもおかしくねえわな。そんな離れ業ができるのは、この人狼ゲームを仕組んだ黒幕によるもんだ。そうだろ、水瀬ェ!!!」
会場が静まりかえる。今までの前提がひっくり返るような、そんな空気感だ。
「……ふっふっふっふっふっ」
水瀬が小刻みに震えている。笑っているようだった。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
水瀬は、急に人が変わったように、狂ったように笑い始めた。その笑い声はしばらく止まらず、他の誰も声を出せなかった。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……あーーーあ、エリカちゃんは相変わらず面白いね」
「……今更ちゃんなんてつけんなよ……気持ち悪い」
「いやいやいや……妄想もそこまで行くと立派だね……そんな荒唐無稽な作り話を、信じろって言うの?」
「辻褄はあってるぜ、水瀬」
「それはエリカちゃんの視点だけの話でしょう?盤面の状況は何も変わってない……それに、仮に私が一連の黒幕だとして、仮に動機が復讐だとして、あなたたちの誰もが死んでいないのはなぜ?」
「それは……」
「あとサクラちゃん殺害もそうじゃない?脅迫データを消したいってだけなら、あなたたちにも動機があるんじゃないの?特に……そちらの二人には。サクラちゃん殺害の犯人が一連の犯人なら、」
両手を広げ、二人を指さす。水瀬は完全に人が変わった。豹変した。
「だいたいサクラちゃん殺害も別に確定事項じゃないでしょ?例えば、このブレスレット、どういう仕組みか知らないけど多分高価じゃない?だからこの人狼を仕組んでるやつがコストカットで適当に撲殺した……なんて可能性もあるよね?」
「それは……」
「エリカちゃん、残念だけどね、言い訳にしてはよくできてたけどね、真占い師進行を覆すようなものではないよ。さて……そろそろ投票タイムだね。エリカちゃん、あなたの尊い犠牲で私たちは元の世界に帰れるんだ。誇っていいよ。最後まで私たちを殺さないでくれてありがとう、エリカちゃん。いや、殺せなかったのかな?まあいいや」
水瀬はまくし立てたあと、笑顔で言った。
「時間だね」
『時間になりました。ここから一切会話は禁止です。人狼だと思う人物をタブレットで選択し、送信ボタンを押してください』
水瀬はここまで計算していたのか……?あまりにもタイミングがいい。エリカの演説に一切反論しなかったことも、あの長ったらしい狂い笑いも、エリカを煽るような最後のまくし立ても……
……
そして、エリカはハルではなく盤面上白確の水瀬を殴った……しかも、人狼ではなく盤外の話で。
人狼の苦し紛れの言い訳にしては、妙に確信をついている。いや、水瀬が言った通り反論はあるのだが……水瀬の行動を思い返す。私を白と言ったこと。あの豹変ぶり。そして……サクラを殺す動機。
サクラからのDMにはマドカに気をつけろと書いてあった。もしサクラを殺した犯人が人狼なら、気をつけろというのは人狼での話か。今のところマドカは何もしていない。
人狼としての忠告なら、私が狂人だと知っている人物……
一人しかいない……
そうか……だから
私は自分の意志で、エリカを殺さなければならないのだな。
『全員の投票が完了しました。丸山エリカさん 4票。水瀬マキさん 1票。投票の結果、丸山エリカさんが吊られることになりました』
エリカは、苦虫を嚙み潰したような顔をして、黙っている。
『丸山エリカさんを執行します』
「……!!ぎいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!がああああああ……うううううううううううううううゥううううううゥううううううゥううううううゥうううううううううううううううううううううううううううううううううううううゥゥゥゥゥゥううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううゥゥゥゥゥゥ!!!!」
エリカが痛みに悶えている。私たちは直視できなかった。
「があああああああ……っああ!!クソ!!!!!ハル!!!!!お前が頼りだ!!!!!必ず水瀬を……おぉぶっ……がはァ……」
ごつん、と鈍い音が響いた。最後まで立とうともがいていたエリカの頭が、勢いよく床に落ちた音だ。ぐしゃり、とエリカは崩れ、そのまま動かなくなった。
「エリカ……」
「くっ……」
「うう……」
涙を流す音が、それぞれの方向から聞こえた。
『丸山エリカさんの役職は……市民です』
「……は?」
ハルの困惑している声がした。
やはりエリカは市民……つまり。
「くくっ……くくくっ……」
水瀬が、したり顔で、今まで見たことない笑顔を浮かべ、こちらを見ていた。
「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
水瀬は、笑いながら自室へ戻っていった。
天井から『各々スケジュールを……』といつもの放送が流れたが、耳から流れていったように思えた。
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