デスゲーム1日目~人狼編⑧~
少なくとも私は殺されることは無かった。二日目の夜が終わり、無事に扉が開いたからだ。実際噛まれる処理が起きるのはこの後かもしれないので油断はできないが。
色々シミュレートしたが、どう考えても私と水瀬に矛先が向くだろう。私は騎士に守られるはずなので、真占い師である水瀬はほぼ確実に死ぬはずだ。
会場へ向かう。ほかの部屋からも参加者が出てきた。どうやら噛みの処理は全員が揃ってから行うらしい。相も変わらず悪趣味だ。
各々が椅子に座る。真ん中には、変わらずサクラの死体が横たわっていた。
『凄惨な夜が終わり、新しい朝がやってきました。今晩人狼に襲われたプレーヤーは……一人です』
どうやら騎士が仕事を完遂できたらしい。だが、まだ気は抜けない。尋常じゃないくらい心臓が鼓動する。恐らくは水瀬のはずだが……
だが、聞こえた名前は意外なものだった。
『犠牲者は山内シオリさんです』
「えっ……なんで?なんで?聞いてない!なんで!?ねえ!!!!」
シオリが狼狽えている。いや、狼狽えているには様子がおかしくないか……?
「いや!こんな……認めない!認めないいいいい!!!!」
必死の形相で席を立ち、その場から逃げ出そうとする。しかし、すでに会場は締まり切っている。
『執行』
機械音のようなアナウンスが冷たく捨て吐いた。瞬間、シオリのブレスレットが光りだす。
「いや!!!いや!!!いや!!!!いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
顔は涙と困惑と……怒りのようなものも窺える。しかし、無慈悲にもブレスレットから毒針が射出された。
「あ゛っ……ああ……こん……な……」
ガクガクと震え、膝から崩れ落ちた。ぐちゃりと倒れ、少し痙攣したあとシオリは動かなくなった。
『それでは、会議を始めてください』
何事も無かったかのように上空のアナウンスは続けた。
しばらく、私たちは口を開けなかった。
~~~~~~~~~~~
「どういうことだよこれは」
映像室は混乱していた。いや、主に遠山一人が混乱の極みにいた。二日目の夜の間に進めていた殺人犯の推理などどこかへ飛んでしまった。
「なんで……なんでシオリさんが死ぬんだ。しかも死んだのが一人だと?これじゃあ水瀬さんが吊られちゃうだろうが!」
「先輩、落ち着いて……緊急時の時こそ冷静に、でしょう?」
「……うん、そうだね、取り乱した」
頭を搔きむしる。新人に窘められるようじゃまだまだだ。まずは現状の確認。水瀬さんとは連絡を取る術は今は無い。投票先の不正まで考えなければ。
「昨晩の人狼の動きを教えてくれる?」
「はい!ちょっと待ってくださいね……あっ出ました!シオリさんを噛んだのは……水瀬さんですね。エリさんはカナさんを噛みに行って騎士に防がれています」
「なっ……どっちも予定外の動きを……二人の通信記録は?」
「ありません……おそらく会議中に二人で談合したのかと」
「ああ、二グループに分かれていた時か……」
完全に不測の事態だ。二人の間にどういう会話があってこの決定になったのかは知らないが、勝算はあるのだろうか。このままだと華村カナ達に吊られて終わりじゃないのか?
「通信機でも持たせておけばよかったですね……」
「……仕方ないさ、誰も予想できないよ。依頼者が独断で話を進めるなんて」
「でもこれ、どうするんですか?このままだと水瀬さん吊られちゃいますよ?」
「とりあえず投票の操作は最終手段として考えておこう。じゃあプログラムチームに連絡しようか」
「担当の小林さん、今日から有給使って旅行行くって言ってませんでした?」
「……うそ」
「で、今回は過去の人狼システムを流用してるから他に担当してる人がいないとか……」
「うわ……確か人狼システムについて分かってるのは……」
「小林さんだけですね」
「なーーーーーんてこったい」
「先輩が壊れた!」
頭を抱えるどころの騒ぎではない。こうなったらもう祈るしかないではないか。
「あとは……なんだ、DMを送るくらいか?」
「会場内にスマホの持ち込み禁止にしたの先輩ですよ」
「あーーーそうじゃん……じゃあこの会議終わるまで何もコンタクトできないってことかぁ……」
「DMと言えば、水瀬さんの端末から通信履歴がありますよ。さっき情報通信チームから送られてきました」
「通信履歴?」
「はい。えーっと宛先は……えっこれ」
「誰?」
「出雲ハル・丸山エリカ・江藤マドカ……華村カナ以外の標的全員です」
~~~~~~~~~~~
どこからやってきたのか、全身黒スーツに仮面を被った男がシオリの亡骸を引き摺っている。円卓の外に逃げようとしたため、壁際で事切れていたシオリの遺体を、サクラのように真ん中に置いておこうということらしい。なぜそこまで真ん中に死体を集めるかは謎だが、悪趣味の一言で説明はつく。
無造作にシオリの死体が投げられた。サクラに重なるようにうつ伏せでべちゃっと倒れた。かくして、二体の死体を取り囲むように私たちの会議は始まった。次はお前がここに捨てられる番だ、と暗示されている気分だ。
「じゃ、会議始めよっか☆」
エリの相変わらず能天気な声が響く。おそらくシオリは身内なんだろうが、それにしては感情の機微が読み取れない。人狼だからなのか、神経が図太いからだからだろうか。
「占い師の二人は、誰を占ったのかな??」
さて、問題の場面だ。なぜ水瀬が生きている?二狼がいて、死体が一人だから騎士が防衛に成功した、ということだろう。つまりハルが私を守り、人狼が私を攻撃した。ということは、もう一狼は水瀬ではなくシオリを攻撃したことになる。……意味が分からない。今日、シオリが死ぬ理由が無い。
ということは……考えたくは無いが……人狼は……
疑惑の芽は、水瀬の発言により確信へ至った。
「私は華村カナさんを占いました。結果は白。市民陣営です」
私は水瀬が言っている意味をすぐには理解できなかった。
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