デスゲーム1日目~人狼編⑥~

 ――――――時は少し遡り、投票20分前。


「本当に先輩が言った通り華村カナは占い師COしてきましたね!」

「ね~、びっくり」

「いや自信持ってくださいよ!?」


 現地の緊張感は何のその、映像室では和やかな空気が流れていた。


「しかしこれなら先輩のプラン通りに事が進みそうですね!」

「どうかな……こればっかりはやってみないとね」


 遠山が用意したプランはまず八人がそのまま夜を迎えるもの。そのためには水瀬さんに占い師COをしてもらう必要があった。彼女には前もって全ての役職を教えているので造作も無いだろう。

 人狼2枚で一気にエリカ・マドカ・ハルのうち二人を噛み、あとは投票で残ったどちらかを吊ってゲームエンドである。水瀬の相方はエリさんだ。内部の事情を知っている人が二人人狼なら負ける要素が無い。

 元々八人二狼一狂人という人狼圧倒的有利な環境なので不測の事態が起きてもよかったが、我が強いカナを狂人にすればおそらく占い師COに被せてくるだろう、と遠山は読んでいた。見事、策が決まったという訳である。


「まあ人狼ゲームで台本用意するってなかなか無いですもんね!部長も珍しいパターンだって言ってましたし」

「まあそうだね、もともとは水瀬さんを最初に退場させてあとはこっちのスタッフに勝たせるだけだったわけだし、そもそも普通は依頼者が参加しないからどう転んでもいいようにするんだけど……」


 改めて、水瀬が参加したいと頑なに意思を曲げなかった日を思い出し胃が痛くなった。


「殺人事件も起きましたしねえ……」

「それこそ前代未聞だよ。まったく何で僕の昇級が懸かるときにこんなイレギュラーが……」

「まっ不測の事態にも対応してこそのチーフってもんでしょ~!」


 まひるがコロコロと笑う。どの立場の発言なんだ……。


「にしても、誰が犯人なんですかね?」

「さあ……現場も片付けちゃったから証拠とか無いからね、分からない」

「ほんとによかったんですか~~?いくらデスゲームを円滑に進めるのが仕事だーって言ったって犯人このまま泳がせて」

「うーん……まあ正直よくはないね」

「じゃあ先輩っ!」


 まひるが少し下がり、こちらへ満面の笑みを浮かべた。思わずドキッとしてしまう。


「犯人探し、しません?」


 にひひと笑いながら、いとも簡単そうに、たやすく、彼女は言った。


「……まあいいけど、向こうも大丈夫そうだし。ただ監視は続けるよ?」

「当たり前ですよ~!まあ世間話の一環だと思ってください!」

「ならいいけど……そういうからには目星はついてるの?」

「もちろんです!犯人は……花村カナグループの誰かです!」


 思わず椅子から滑り落ちそうになった。そんなガバガバな探偵は嫌だ。


「……まあ聞くよ」

「今こいつアホだなみたいな顔しましたね!?ちゃんと根拠はあるんですよ!」


 そう言ってまひるは大量の書類の束を取り出した。表紙には「標的内部調査報告ファイル」と書いてある。


「先輩、標的の内情について最低限にしか調べてないでしょ?どうせ殺すんだから無駄だーって言って。実は何かヒントがあるんじゃないかなと思って調査班にこっそり頼んでたんですよ!」

「余計なことを……まあまひるさんはこっちが頼んだ仕事全部してくれてるからいいけど」

「えへへ……まあそれはいいんです!とりあえずこのファイルを読んでください!」

「はあ……」


 分厚い紙束を受け取った。中身は華村カナとその取り巻きに関する個人情報や交友関係が事細かに記載してある。その中でも特に目を引いた項目が……


「……売春」

「そうなんですよ!あいつらどうやら常習犯らしくて!」


 いわゆるパパ活というものらしい。援助交際の一種で、若い女性がお金をもらい男性と食事をするのが一連の流れだ。今はアプリやサイトが充実しており、ここ最近のブームとなっているようだ。


「で、これが優木サクラとどう関係が……」


 ページをめくると優木サクラの項目だった。中身を開けると、それはそれはおぞましい事実が記載されている。


「なるほど……」


 あながち、名探偵まひるの推理は間違いじゃないのかもしれない。


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