デスゲーム1日目~人狼編②~


 良い睡眠とは言い難い。初夏、蒸し暑さが体にまとわりつき寝苦しさをもたらしてくる。更に拉致され知らない場所で快眠しろというのは不可能だ。


 AM7:00、タブレットにアラーム機能がついていたのでセットした。8:00までという話だったが念のため……そしてメイクに時間がかかるタイプゆえの時間設定である。


 早起きには慣れている。寝つきは最悪だったが、すぐ脳は覚醒し、モーニングルーティンを始めた。


 タブレットによるとクロ―ゼットに衣装が入っているらしい。

 中には制服が入っていた。夏服仕様で半袖のYシャツとスカート、中に着るTシャツ、そして下着が用意されている。


 靴下の類は見当たらない。というより靴が無い。会場は室内ということなんだろうか。拉致される前に履いていたスニーカーも無い。まあ別にどうでもいいことだ。


 着替えの途中、手首にブレスレットがつけられていることに気づく。あまりにも自然で感触も無かったから気が付かなかった。完全にフィットしており、外すことはできない。仕方ないのでそのまま放っておくことにした。



 AM8:30 

 メイク・着替え・朝食を全て終わらせ、初日の「夜」を待つのみとなった。

 朝なのに夜とはおかしな話である。


 与えられた役職は狂人。主な役割は人狼を会議でサポートすること。

 例えば4人1狼1狂なら会議で狂人をCO(カミングアウト)し、投票先を人狼と合わせて次のターンで勝つことができる。


 その代わり「夜」にできることはない。

 会議で主導権を握れれば強い役職だ。



 つまり、AM10:00まで暇なのだ。



 仕方が無いのでスマホを触る。過去にみんなで遊んだ際の写真や動画があったので懐かしみながら眺めていた。





 AM10:00


 ドアのロックが解除された。外に出ろということだろうか。

 恐る恐るドアを開けると、目の前には円状にならぶ椅子と、それらを取り囲むようにドアがある。


 他のドアからも人が出てきた。ハル、マドカ、エリカの姿も見える。


 そして……水瀬の姿も。



 会場の床は木目で、素足で歩くと気持ちがよかった。


 椅子は等間隔で離されている。

 それ以外には特に何もない。出口のようなものも見当たらない。


 円形の建物に私たちは閉じ込められているようだ。

 窓は無く、外の様子は全く分からない。


 すると、上の方から声がした。



「皆さん、着席してください」


 天井付近にスピーカーがついているのが見えた。

 声の主はボイスチェンジャーを使っているようだ。


 言われるがまま、席につく。配置的に自分が出てきたドアの目の間の椅子に座れということなのだろう。


 水瀬以外に知らない女が3人。うちの学校の生徒ということだろうが…知らない顔だ。

 そして、サクラの姿が無い。


「おはようございます。この度皆様には人狼ゲームをしてもらいます」


 スピーカーの声は相変わらず不快な音で続ける。


「申し遅れました。私今回の山村女子人狼のGMを担当いたしますTと申します。どうぞよろしくお願いします。さて、皆さまお部屋のタブレットに目は通されましたか?確認されたとして細かいルール説明は省略します」


 Tが捲し立てるように続けた。


「勝者陣営には賞金2000万円を用意しておりますので、是非とも気合を入れて参加してください。しかし、もちろんリスクも存在します」


 気になっていた部分だ。


「会議での吊り、そして人狼の噛み……これは死を意味します」

「はあ!?」


 マドカが声を荒げた。


「死ぬって……どういうことだよ!ゲーム内の話だろ!?」

「その通りです。ゲーム内で死んだ場合、現実でも同じように死んでいただきます」


 会場がざわつく。エリカが今にも泣きそうな顔になっている。水瀬は……顔色をうかがえない。


「信じられるか!」


 思わず怒鳴りつけた。こんな理不尽は無い。


「ここは日本だぞ!そんなことができるかよ!漫画やアニメじゃねえし、ありえねえ!」

「いい質問ですね」


 意にも介さずTは続けた。


「実例を挙げましょう。タブレットにもあった通り、ここでの禁止事項を行うと失格になります。ここで言う失格者に対する処分は吊り、噛みにも同様なので見せた方が早いでしょう」


 すると、どこからか仮面を被ったスーツの男が荷台を押してやってきた。箱を運んでいる。


 私たちの円の中心で乱暴に箱の中身を取り出した。べちゃっ……とした音がした。



 中身は、優木サクラの死体だった。



「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」



 悲鳴が上がる。

 サクラは口から吐血の跡があり、ぐったりとして動かない。

 うつ伏せに倒れているにも関わらず胸のあたりに呼吸の起伏が無い。遠目でも分かる。


 サクラは、死んでいる――――


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「サクラああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!おい……嘘だろ……クソがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 マドカとエリカが絶叫している。

 私やハルは声が出せなかった。



「とまあこのように、敗者には罰が与えられます」


 頭上の声は淡々と進行する。


「皆様の手首にブレスレットがありますよね?そこから毒針が射出される仕組みになっております。なのでくれぐれも無理に外そうとしないでくださいね。誤作動で死にたくはないでしょう」


 混乱する私たちなんて意にも介さずTは話を進めた。


「これが今回の人狼ゲームの全容です。死にたくなければ頑張って人狼を吊りましょう。人狼はたくさん村人を殺しましょう。それでは……」


 息を吸う音が聞こえた。


「初日の会議を始めます」


 頭上からの声はそれきりしなくなった。










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