第220話 そうしてまた交わるのは運命のいたずらか
「ん? あんた、もしかして――」
ミリアがキールの魔素にやや普段と違う気配を感じて問いかけた。
「――戦闘した?」
「え? ああ、昨日ちょっとね――」
キールはさすがはミリアと舌を巻きつつも、
しかし、そんな
なんとなくそうだろうとは思わせる雰囲気はあるものの、かといって、確定的な言葉で気持ちを告げられたことは一度もないのだ。
「いいなさいよ。――気になるでしょ?」
ずい、と顔をキールの目の前に近づけてぐっと
キールは
「――え? 言わなきゃダメ?」
「べ、べつに、そんなに言いたくないならいいわよ!」
「え~? 何でミリアさんはそこで引いちゃうんですかぁ? 私は聞きたいです!」
アステリッドがミリアの態度を見て、このままではキールを逃してしまうと、慌てて追い込みをかけてくる。
この二人、結構息合ってるよな――、とキールはたまに思う。
クリストファーは相変わらず涼しい顔で爽やかに笑っている。この男、本当にいつも穏やかだよなぁ。
「――実は昨日、面白い子と出会ったんだよ。それで、一勝負ってことになって――。ああ、両方とも怪我はなかったんだけどね。あの子、強かったなぁ」
キールは昨日のことをまるで人ごとのような感じで話した。
アステリッドもミリアも目を輝かせて聞くものだから、ついつい話してしまう。この二人のこういうところはまるで姉妹のようにそっくりだ。
「――というようなことが在ったんだよ。でも、また出会えるかどうかは正直分からないな」
キールは昨日の魔法戦のことを話した。しかし、間違っても、その相手が女の子で胸に触りましたなどとは口が裂けても言えない。それに、あの『リーチ』とかいう守護精霊のこともなんとなく黙っておいた方がいい気がして伏せることにした。
「ふうん。あんたが気絶って、それ、相当な魔術師ね。でも、子供なんでしょ?」
「15歳とか言ってたな――。師匠と一緒にこの国へ来たって、そう言ってた」
「でも、よかったですね、悪い子じゃなくて。もしキールさんを殺すつもりだったら、今頃私たちはキールさんを探し回ってるところですよぉ」
と、何気にすらりと怖いことを言う、こういう無邪気なところがアステリッドらしい。まあ、その裏には、殺しても絶対死なないと信じ切っている彼女の本心があるのだろうから、キールは特に気にもしない。
「――でも……、いったい何者なのかしら? そんな優秀な魔術師が現れたとすると、さすがに魔術院の方にも情報が入ってるはずだけど、そんな話は聞いたことがないわねぇ」
「やっぱり、そうだよね。まあ、でももしかしたらもう二度と会えないかもしれないからさ、これ以上考えても仕方ないよ」
――というやり取りを、数分前にしていたところだったのだが。
「キール、どういうこと?」
ミリアはキールに小声で
「さ、さあ、僕にもさっぱり――」
キールはそう答えただけで、彼自身もこの状況が理解できていないようだ。
今ミリアはキールとともに英雄王の執務室に通されていた。
こんなところに招かれるのは全く初めてのことで驚いたのだが、それよりもその部屋のソファに二人の見知らぬ人が座っていることに違和感を感じている。
英雄王は二人の顔を見ると、満面の笑みでふたりをがばあと抱きしめてがははと笑う。そうして、そのソファに腰かけていた一人の美しい女性に言ったのだ。
――この二人がお前の後釜で、俺のパーティ最後の魔術師だ、と。
ミリアは英雄王のその言葉で、その女性が誰だか瞬時に理解した。さすがに驚いて緊張感が一気に高まってくる。院長やネインリヒさん、そして
「あ、ああ、あなた、さまが、『
ミリアはあまりの驚きの為、口がうまく回らない。
『翡翠の魔術師』ジルメーヌ、英雄王パーティ最後の魔術師。容姿は美しく清らかでその瞳は金色に輝いているという女魔術師は、魔術院に所属するすべての女魔術師の憧れの的でもある。ミリアをはじめおそらく王国中の女性魔術師で彼女の名を知らぬ者はいないだろう。
「いかにも、わたしが『翡翠』、ジルメーヌ・アラ・モディアスである。そなたが、ミリア・ハインツフェルトか。そして、そっちの坊やが――」
ジルメーヌの問いかけに慌ててミリアは反応してキールに促す。
「キール、挨拶して!」
「え? ああ、キール・ヴァイスです」
そのキールの挨拶に一番に反応したのは、『翡翠』さまの隣に腰かけていた男の子――いや女の子か――だった。
「やあ、キール。また会えたね?」
「ハル、だよね? どうして君がここに?」
「昨日言ったじゃないか、師匠と一緒にこの国へ来たって。ジルメーヌさまはボクの師匠だよ?」
そういって昨日と同じ柔らかな笑みをキールに返した。
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