第34話 信頼できる友とわかれて前に進む
ミリアは次の日もその次の日もキールの元へやってきた。だいたいいつも終業時間ごろにやってきて、そこから二人でカインズベルク大図書館へ行って、お互いの魔術書を開いてはああでもないこうでもないとやった。
カインズベルク大図書館の閉館は18時半ごろなので、それからネール横丁へ行き、夕飯を食べて別れる。そんな毎日が1週間ほど続いた。
ミリアは両親に断って、留学目的でヘラルドカッツへ来たという。カインズベルク大図書館を見聞したいと言ったそうだ。
しかしこれは当然、口実だ。
メストリルの駅馬車に尋ね回った結果、学生風の男をケライヒライクで降ろしたと聞きつけてそれがキールであると確信したそうだ。それで、ケライヒライクで今度は尋ねると、カインズベルクでその男を降ろしたという駅馬車に出会ったという。
ミリアは、カインズベルクが一番怪しいとにらんで、キールを探していた。厳密に言うと、使用人で、付き添ってきているモルガンという人に事情を話して手配してもらったらしい。ミリアに言わせるとモルガンはミリアの一番の理解者だという事だ。
程なく、キールを発見したモルガンの知らせを聞いて、ミリアがケリー農場に現れたという事だった。
何とも大それたお嬢様だ。
そのミリアも、さすがに新学期が始まるのに合わせてメストリルへ戻らなければならない日になった。これ以上カインズベルクには居られない。さすがに大学を放棄してここにとどまるとまで言い出せば、両親は激怒するだろう。
「キール。私は帰りたくない。でも、それだと余計にあなたを追い込むことになるかもしれない。だから、今はおとなしく帰るわ。だから約束して、もう何も言わずに消えるのはやめて」
「ああ、約束する。手紙を書くよ。取り敢えずしばらくはここにいるつもりだ。メストリルの下宿宿もそのままにしてきたからね。いつまでも放っては置けない。だから、来年の春までには帰るつもりだ。君とは一年遅れになるけど、僕も大学を卒業しないとあんな両親でも一応怒るとめんどくさいからね」
そう言って別れた。
キールは別れ際にこのあいだの「あれ」はどういう意味かと尋ねたかったが、今はやめておこう、戻ったら必ずこちらから気持ちを伝えよう。
そのためには、『総覧』の解読を進め、まずは、記憶に関する問題をクリアしないといけない。そして、それ以上に魔術の訓練と学習も進めなければ。
メストリルに戻った暁には、もしかしたら、『氷結の魔術師』と事を構えなければならないかもしれないのだ。
キールは去ってゆくミリアの馬車から目を離し、
――――――――
それから一週間後、デジムとセフィは今日から新学期だ。
え? デジムは4年生だから卒業じゃないのかって? 残念ながらデジムはもともとから大学を4年で卒業するつもりはないらしい。大学には、居られる最大限の期間いることにしているという。つまり、修了期限ってことだ。
この国の大学の修了期限は8年だ。それまでに必要単位数を獲得すればいい。
なので、大学には行っているがほとんど授業には出ておらず、今は次回の冒険の為に、体を鍛えたり、情報を集めたりそんなことをやっているらしい。
セフィは今年から4年生で、就職についてもいろいろと考えなければならなくなる時期に来ているが、彼女も彼女で、どうやら就職は考えていないようだ。大学院へ進学を目指しているという。カインズベルク大学校の大学院には法科大学院があり、これを卒業すれば、その先は王国司法に携わる司法官への道が待っている。
彼女はそれになりたいらしい。
みんな、それぞれやりたいように生きている。
キールは少しうらやましく思っていた。
自分は今、思うような道とは違う道を歩んでいる気がするからだろう。
しかし、キールは『総覧』に出会ってしまった。そして、そのおかげでミリアとも友達になれた。また、命を狙われたがこれを撃退することもできた。
これは、僕の運命なのだろう。
とすれば、これに立ち向かうことが、僕が好きなように生きるために必要不可欠な試練なのかもしれない。
必ず打ち勝って見せる。
そのためにはあの人の助けがおそらく必要なのだろう。
「あの声の主」のところへたどり着かなければ――。
そしてその為には、この『真魔術式総覧』の解読を進めて、記憶に関する術式を見つけなければならない。
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