第28話 カインズベルク大図書館とネール横丁
「キール君、ここはヘラルドカッツ王国の王都カインズベルクだよ? 君、何もしらないにも程があるぞ? この街には世界最大の図書館と言われているカインズベルク大図書館があるってほんとに知らなかったのかい?」
「大図書館――?」
「そう、ヘラルドカッツ王国の魔術院は世界トップクラスと言われているんだよ。それはカインズベルク大図書館の恩恵が大きいんだってさ。まぁ、私は魔法使いに縁がないからよくわかんないけど、大学生たちの中には魔術師志望の子もたくさんいると聞いてるよ?」
メイリンさんの話によると、その大図書館はすぐ目と鼻の先だという。
(だいとしょかん……! 本の虫がその言葉を聞いてワクワクしないはずがないというものだ! そこへ行こう!)
下宿宿を出たキールはまず第一目的地としてそこへ足を向けた。
下宿宿から歩いてほどなく、その建物が目に入る。一言、でかい。
メストリアの王立書庫もかなり大きかったが、それをはるかに上回っている。
キールの歩く速度は自然と速くなった。
大図書館の入り口で、入場するための手続きをしなければならないようだ。
なんと、入場料を取られるらしい。
(ちぇっ、有料なんだ――。残念だけど、詳しくシステムを調べて知ってからだな――)
そう思ったキールは受付の窓口へ行って、なにか説明書きのようなものはないかと聞いてみることにした。
窓口にはいくつかの小窓があり、その向こうの小部屋には数人の職員がいるのが見える。
キールは小窓の一つから中の人へ声をかけた。
「あの~。すいませ~ん――」
「あ、はい。少々お待ちください――」
キールの声に反応した一人の男が応えると、小窓の方へと寄ってくる。
「はい、お待たせしました。入場でよろしいですか?」
「あ、いえ。詳しい説明書きとかあればいただけないかと思いまして――」
キールはやや控えめに返す。
「ああ、なるほど。有料の図書館って、確かになじみがないですよね? お客さん、ここの国の人じゃないね?」
「はは、すいません。実は何も知らなくて――」
「ああ、お気になさらないでください――。はい、こちらがご利用手順と注意書きです。これは無料で配布しているものですから、どうぞお持ちください」
「あ、ありがとうございます――」
キールは小冊子を受け取って、腰のポーチへ突っ込んだ。
残念ながら今日はこの中の本と出会うことを諦めよう。今の僕にとっては少しのお金でも考えて使っていかなくちゃいけないからな。今日は夕飯にも回さないとだから、出来る限り急ぎでないものは後回しにするしかない。そう考えたキールは、後ろ髪を引かれる想いで、大図書館をあとにした。
そこからさらに歩みをすすめる。メイリンさんによると、食事がしたいなら、ネール横丁がいいと教えてくれた。価格も手ごろだし、人手も多いから、治安も悪くない。国外からきた若者にはちょうどいい場所だという。
ネール横丁とは、商店が居並ぶ通り一帯を指して言う通り名だ。本来の名前は、ネールリンク通りというらしい。大図書館はこの街のほぼ中心に位置しており、その前に広がる大きな交差点から、四方八方に放射状に通りが広がっているのがこの街の形状だ。ネール横丁もこの交差点から入った少し先にある。気を付けないと方向音痴になりかねない。キールは通りの入り口を注意深く記憶してから、ネール横丁へ向かった。
すでに辺りは日が傾いて暗くなりつつある。それと相反するように、商店街の明かりが灯り始めた。
確かにネール横丁は活気づいていた。通りを行くものの年齢は様々だ。若い学生風のグループもあれば、役人風のおじさんの姿も見える。
食堂の類が4割ほども見受けられ、あとは、雑貨商、衣類商、生活雑貨商など大小様々な商店が立ち並び、歓楽酒場の類も数件あった。
さて、どこで何を食べるか――。と思案していたところに、学生風の4人ほどの男女のグループが一軒の店の軒をくぐるのが見えた。そのような風貌のグループが入る店だから、値段も手ごろなのかもしれない。
キールもそのグループの入っていった店に入ることにした。
店の案内板によれば、どこそこ料理と書いてあるようだがその国名についてはよくわからない。ただ、店前に置いてあるサンプルの価格表示を見れば、さほど値段が張らないどころか、割とリーズナブルだ。サンプルの料理はすでにしなびているが、ボリュームも品揃えも悪くなさそうだった。
結局そこで充分満足のいく食事を終えて、下宿宿に戻ったころには日がとっぷりと暮れていた。
下宿宿の玄関を開けて入ると、左前方の食堂の方から何人かの話し声が聞こえてくる。一人は昼間聞いた声、メイリンさんだろう。あと二人の声がする。男の声、若い。女の声、これも同じぐらいの年齢か?
「あ、戻ってきたようね。ちょっと待ってて――」
そんなメイリンさんの声が聞こえた。
直後、食堂からメイリンさんが顔を出してキールを見つけると声をかける。
「キールくん、お帰りなさい。ちょうど今あなたの話をしていたところなの。この下宿宿の住人を紹介するわ、こっちへちょっといらっしゃい――」
この、是非を問わずに引き込むのがこの人の「らしさ」というところなのだろう。とはいえ、こちらからあとで声をかけて回るよりは、ありがたいというものだ。
キールは促されるまま、食堂の方へと向かった。
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