いつか世界の果てまでも

シャンガード

第1話

 それは遠い遠い昔のこと。

そう言って語られるのは村に訪れたおじいさんのお話。

 おじいさんは昔から色々なことに興味を持ちそれを調べていたらしい。今日話されることもきっと経験したことなんだろう。


 それは遠い遠い昔のこと。

人が知性を持っていなかった頃の話。

そこには一つの大きな山がたっていた。

それを登っても見える景色はなかったが私は登っていた。


「それはおじいさんが登ったの?」

誰かが問いかける。すると優しく

「ああ、そうだよ」

そう返して続ける。


 景色を見るために登るのではなく、そこにいた人に会うために私は登ったんだ。

 上に行くための足場は悪くて、道が塞がってる時もあった。けど、登り続けた。

 その頃の日課にもなっていたからねぇ


 ぼくにはそれが想像できない。なにせ山なんて見たことがないから。

「ねえ、山っていいところなの?」

再び誰かがそう問いかける。

「あの頃の私にはいいところだったよ」

また優しく返してくれる。

コホンと咳払いをしてから話を続ける


 その山の一番上には人が一人いた。

 けど、名前はわからない。お互いに聞かなかったからね。

 私はその人に食べ物を持って行っていたんだ。

 その人は体が悪くて自分から動くことも、私が持ち上げて運ぶこともできなかったからね。


 ある日のことだった。

 その日は雨が降っていたんだよ。

 とてもとても強い雨、私は心配で急いで山に向かって駆け出した


けど、間に合わなかった


 山は崩れ、通れるようにした道も潰れて、なんとか上に上がった時にはもう遅かった。


「その人はどうなってたの?」

誰かが問いかける。

「死んでしまっていたよ」

おじいさんは嬉しそうに言った。


 私がついた時にはすでに死んでしまっていた。

 その体は貫かれ、そこから赤い水が流れて川を作っていた。

 私は悲しかったよ。

 だって…


その最後を見れなかったんだから


 人が姿を変えることがどれだけ美しいことか、そんなものは知っていた。

 だからこそその姿を見るために生かしていた。


 日が照り続けても、雪が積もろうとも私は生かした。


 だが、雨はダメだった。


 例え人を守れても下から崩壊すれば意味がない。

 だから私の守ったものは儚く散った


「それで、今その人は?」

今度は僕が問いかける

「わからない。近くにいるかもしれないし、どこか遠くにいるかもしれない」

 そう言う姿は先ほどとは違い残念そうだ。


「だから私はこうして旅をするんだ」

おじいさんはそういって立ち上がる。

するとちょうど日が昇り始める。


「おや、もう時間か」

「それではみんな、またいつか会おう」


そういって何処かに歩き始める。


おじいさんは特別だ。


こんな世界でも生きられる、ただ一人の人間だから。


僕らは負けてしまったもの。


無知な人類によって壊された人であったもの。


僕らはカタチを持っていない


この星は旧世界の資源で埋まり、カタチを捨てねば生きられない


あの人は違う。


おじいさんは人でありながらこの星を生きられる。



肌を溶かす熱でも。


動けなくなるほどの寒さでも。


強い毒の雨でも生き残っている。



 だからこそ彼は敵ではなく。僕たちの希望。


 だからこそ皆が受け入れる。


 自我を持つものも少なく、お互いの姿すらわからないが彼は皆が知っている。



この朽ち果てた世界を旅するものとして



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