第25話:その日俺は数寄屋の衝撃的な言葉を耳にした

◆◆◆


「なあ大和やまと。俺、彼女できた」

「ええーっ? ホントに?」


 ある日の放課後。

 下校しようと廊下を歩いていたら、友人の数寄屋に呼び止められて、驚くべきお知らせをされた。


 こいつはサッカー部所属のイケメン爽やか野郎。

 クラスでも一番の人気男子だ。


 本来なら別に驚くべきことでもないのだろうが、今まではなぜか彼女はいなかった。だから急なお知らせにびっくりしてしまった。


「おう。最初は親友である大和に教えようと思ってな」


 親友か。数寄屋ってやっぱいいヤツだ。


「で、相手は誰?」

「同じクラスの月ヶ瀬つきがせヒカリ。今日俺から告白してさ。付き合うことになった」

「マジか!?」

「おう。俺、ああいうクールなタイプ大好きなんだよ」


 月ケ瀬さんはクール系美人で、クラスでも赤根さんに次ぐ人気女子だ。

 数寄屋の方から告白したのか。すごいな。


 そう言えば前に数寄屋と二人で校舎裏に現れたことがあったな。

 そのほかにもちょくちょく一緒にいるところを見かけたし、元から仲が良かった。納得だ。


 つまりもうすぐ訪れる夏休みは、数寄屋と月ケ瀬さんは恋人として過ごすってことか。

 う……羨ましくなんかないぞ!


 俺だって夏休みは、嫁と毎日過ごすんだからな。

 そう、イチハさんだ! ……二次元だけど。


「そっか、おめでとう数寄屋」

「それで大和にお願いがあるんだけど」

「なに?」

「明日の夜一緒に、鹿野島かのしま神社の夏祭り行こうぜ」


 鹿野島神社ってのはウチの近くにあって、数寄屋とは中学時代に一緒に夏祭りに行ったことのある場所だ。


「は? 俺がお前らカップルと一緒に? 夏祭り?」

「ああ、そうだ」


 なにそれ。

 イチャラブカップルと一緒に夏祭り行くなんて、彼女がいない男子に対する拷問ですか?


「そんなところに、男一人でカップルについていくバカがどこの世界にいるんだよ」

「いや大和一人じゃなくて、赤根さんを誘うんだよ」

「赤根さん? なんで?」

「月ケ瀬さんがぜひ赤根さんと一緒に行きたいって」


 我が校2大美女が一緒に夏祭りに降臨?

 それ、いったい何の特番だよ。


「そして俺は大和と一緒に行きたい。だからお前が赤根さんを誘う。極めて自然な結論だろ?」

「どこが自然な結論だよっ! 俺が誘って赤根さんが来るとでも思ってるのか?」

「大和が誘うからこそ、赤根さんが来てくれると思ってるんだが?」

「は? そんなわけ……」

「能書きはいいからスマホ出せ」

「なにすんだよ?」

「ほら、赤根さんに電話をかける!」

「あ……うん」


 俺の眼前にスマホを突きつける数寄屋の勢いに押されて、思わず赤根さんに発信した。


『あ、ガタニ君。どうしたの?』

「あのさ赤根さん。えっと……その……」


 もしも断られたらどうしよう。

 そんな恐怖心でつい口ごもってしまう。


「大和、ちょっと貸して」

「え?」


 数寄屋にスマホを奪われた。


「ども、赤根さん。数寄屋です」

『数寄屋……くん? あ、ども』

「明日の夜、空いてる? 大和と一緒に鹿野島神社の夏祭りに行くんだけど。コイツがどうしても赤根さんにも来てほしいって言うもんだから」


 言ってない!

 俺の口からは断じて言ってない!!

 そういう気持ちはなくはないけど。


『ガタニ君が? 私に来てほしいって?』

「うん。それに月ケ瀬さんも来るんだ」

『月ケ瀬さんが……?』

「うん。実は俺、月ケ瀬さんと付き合うことになってさ」

『え? そうなの? おめでとー!』

「うんありがとう。それでさ。つまり赤根さんが来てくれないと、俺達三人で行くことになってしまうんだよ。だから俺からも、ぜひ赤根さんに来てほしいなぁ。わかるでしょ?」


 わかるでしょってなんだよ?

 そんな説明で、赤根さんがわかるって言うはずないだろ。


『うん、わかった! 行くよ! 明日の夜に鹿野島神社だね』


 ありゃ……赤根さん、わかったの?

 もしかして、わからないのは俺一人?


「うん、そう。現地で待ち合わせしよう。じゃあ大和に代わるよ」


 スマホを受け取る際に、小声で数寄屋に言った。


「なんで勝手に俺が来てほしいって話になるんだよ?」

「でも来てほしいだろ?」

「ま、まあ……否定はしないけど」


 数寄屋よ。

 我が意を得たりって感じにニヤリと笑うな。

 見透かされていて悔しいじゃないか。


「ほら大和。赤根さんが待ってるぞ。早く話せ」

「あ、そうだな」


 スマホを耳に当てて赤根さんに話しかける。


「あ、赤根さん。急な話でごめんね」

『ううん、いいよ。夏祭りだなんて久しぶり。楽しみだなぁ!』

「そっか。楽しみだって言ってくれるなら誘ってよかった」


 思いもよらず、赤根さんと夏祭りに行くことになった。

 浴衣を着たらめっちゃ可愛いだろうなぁ。


 それは嬉しいんだけど……


 恋人同士の数寄屋と月ケ瀬さん。この二人と赤根さんと一緒に出かける?

 二大美人と夏祭り?

 そんなの緊張し過ぎてどうしたらいいかわからん!

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